<1>のいち!
友人に捧ぐ小説です。その友人よりキャラ設定をいただきました。
どうお礼を言っても足りないレベルのキャラです……!
気ままに連載していく予定なのでよろしくお願いいたします。
「・・・ふあ・・・」
船から降りた瞬間、思わず声が漏れた。
「おっきな街・・・!」
リライトユーン大陸。この世界でも一番大きな大陸に、あたしは今来たところ。
潮の匂いがする風が、ピンク色のあたしの髪をふわりと揺らして見せた。
<1> 胡桃@新しい場所( ーωー)です!
1.
「お嬢ちゃん、1人で船に乗ったのかい?」
「ひう!?」
急に後ろから声をかけられ、思わず変な声がでた。
慌てて振り向くと、白髪になり始めたおじちゃんが笑っている。・・・うぅ、恥ずかしい・・・!
「おや、驚かせてしまったかね」
「う、い、いえ、すみません!」
おじちゃんはあたしが謝ると楽しそうに笑った。しゃべるのに突っかかってしまうから、恥ずかしさはそのまんま。
顔を伏せているあたしに、おじちゃんはなお話しかける。
「お嬢ちゃん、名前は?」
「えと、・・・胡桃」
「胡桃? 東方の名前だね。東方あたりの国出身かい?」
このおじちゃん、何なんだろう。人の個人情報を聞き出してる気がするんだけどな・・・。
「でも、髪の色と目の色からすると・・・そうでもなさそうだね」
あたしの髪の色はピンクで、目の色は深紅。よく珍しいと言われる色だった。少なくとも東方にこんな色の人はいないと思う。
……深紅の目には、訳があるし。
「・・・はぁ」
出身国。そんなのあたしにはなかった。
いや・・・正しくは、あるのかもしれないけど、あたし自身は知らない。
「この大陸に来たのは初めてかい?」
答えづらい。うまく言葉が見つからなくて黙っていると、おじちゃんはそれでも会話を続けた。
「初めてだったら、私の知り合いを紹介しようか? この大陸の人だから、道案内ぐらいはしてくれると思うがね」
「いっ・・・いいです、いらないです!」
反射的に言い、あたしは思わず後ずさった。それは、それだけはダメだ。
「・・・そんなこと言わずにさ、危ないだろう?」
おじちゃんは少し驚いたようだったが、説得させるような口振りで言う。
「お嬢ちゃんはまだ小さいみたいだし、用心棒みたいな感じでさ、いた方がいいと思うよ?」
「いらないです、用心棒なんか! それに、案内してくれる人はいますし・・・」
妙にしつこく進めてくるおじちゃんから何とか逃れようとしていると、
「おーい何だ何だぁ? 客人かよアーリ」
「ちっちぇえなー。ガキか?」
後ろから面白がるような声が聞こえてきた。
おじちゃんははっとしてそっちの方を見て、笑顔を浮かべた。
「良いところに来たな、マビル。キリマもか」
マビル、キリマ・・・おじちゃんはあたしの後ろからやってきた男性にそう呼びかけた。年は、おじちゃんと同じくらいに見える。
「こりゃあ珍しい品だな」
マビルさんであろう人が、笑いながらあたしに手を伸ばした。触られたくなくて避けると、マビルさんはさらに笑った。
珍しい品―――その言い方がひっかかる。
「アーリ、お前のか?」
キリマさんはそうおじちゃんに聞いていた。さっきも呼ばれていたし、おじちゃんの名前はアーリと言うらしい。
「違うさ、俺のではない。だから・・・」
アーリさんが言葉を途切らせると、他の二人はニヤリと笑った。下品な笑みだ。
「さて、お嬢ちゃん。この二人がさっき言ってた私の知り合いなんだ」
アーリさんがあたしに呼びかける言葉を聞き、はっと我に返った。三人を順繰りに見て、やっと気づく。
・・・囲まれた。これじゃあ逃げられない。
「な、彼らなら私も安心できる。一緒にいた方がいいよ」
「俺らは何もしないからさ」
「そうそう、ちゃんと用心棒ぐらいしてやるよ」
三人はそろいも揃って猫なで声を出してそう言った。
「い、・・・嫌」
「え?」
「いや、です・・・」
「何でだい? 1人で行動するのが危ないことだってわかってるだろう」
「で、でも! ・・・やです」
次第に三人の目が怖くなってくる。うううやだやだ、怖いよ! 今すぐ泣き出したいのに!
そして。
「ああぁぁぁああぁあこのガキうっぜぇ!」
「うぅ!?」
痺れを切らしたのはキリマさんだった。耳が痛くなるほどの大音量で叫ばれた。
「もういいだろアーリ! やる気になりゃあ力ずくでつれていけんだよ!」
「おいキリマ! そう自棄になるなよ!」
「うるせぇマビル! 持ってんだろ薬出せや!」
キリマさんが怒鳴ると、マビルさんは渋々という感じで布と何らかの小瓶を取り出す。
小瓶の中身は液体。それを少し布に染み込ませて。
「さぁ、動くなよ? このガキが」
キリマさんの手が、あたしに伸びた。
「ひっ・・・や、やだ!」
何をするのかわかって、あたしは手足を振り回した。
囲まれているから逃げるのは不可能に近い。だったら時間稼ぎをするのがいい。
「てめ・・・っ、暴れてんじゃねぇぞ!」
でも向こうは三人がかり。次第に涙もあふれてくる。
「・・・ひっ、く、う、・・・やだ・・・やだやだやだやだ!!」
「アーリ! そっち押さえろ・・・マビルは反対だ! 俺がしとめる!」
あたしの泣き声と三人の喧噪。混ざり合ってただうるさいだけの騒音だ。
時間稼ぎだって限界があるのに! 三対一なんて卑怯だよ!?
・・・これだけはやりたくなかったのに。
目を瞑って、小さく覚悟を決めた。
あたしは手を振り回す中、翻るスカートにちょうど隠れている太股に手を伸ばす。
そこにあるホルダー。あたしの今持っている中で最高のもの。
『人は、殺さないでね?』―――暗闇の中で何度も言い聞かされた言葉。そして、目の前に散る深紅を思い出す。
冷たく堅い感触を感じて、あたしは息を大きく吸った。
それを持った腕を大きく上に上げて。
何らかの破裂音。腕に伝わる振動。硝煙の匂い。呆気にとられる三人。
そしてあたしは、大きな声で叫んだ。
「せんぱいっ、はやくしてくださあああい!!!」
「・・・はぁ・・・初っ端からこれとはね・・・教育係も楽じゃねぇな」
そのため息は耳元で聞こえた。
目を開けると、まず見えたのはぴくりとも動かないアーリさんたち三人。
そして、すらっとした足。片方に体重をかけて立っているようだ。
その足から目線をスライドさせて、体全体を見ていく。
白無地の半袖Tシャツに濃い青のジーンズ。
男性にしては長めな水色の髪、青い目、端整な顔立ち・・・なのだが怠そうな表情のせいでどこか台無し。
奇妙なのは、Tシャツから見える腕から指先にかけて―――本当は上半身すべてだが―――が黒く染められた包帯で巻かれていること。
あたしはその人を、よく知っていた。
「・・・ふぇ・・・」
彼の名前は蒼雪。あたしの先輩に当たる人。
彼を見て安心したのか、また涙が出てきた。
「災難だったな・・・って、何泣いてんだよ」
彼は困ったような顔をしてあたしを見る。
「・・・泣かれんのは嫌いだぞ」
「う、あた、あたしだって、怖いのは嫌い、です!」
「・・・そーかよ」
「もっと、はやく、たすけてください」
「やだね。俺お前嫌いだし」
「ひ、ひどいです!」
先輩は未だ泣いているあたしにため息をついて、立ち上がった。
「ほら、行くぞ」
泣きやむまで待ってくれる気はないみたいだ。酷い。
歩き出した彼に追いつき、服の裾を掴む。
「・・・なんだよ」
「ください」
怪訝そうな顔をする彼に、あたしは両手を広げて差し出した。
「先輩が助けるの遅れたお詫びに、あたしに甘いものください!」
えへ、と笑うと、先輩はまたため息をついた。
「・・・だから、お前嫌い」