攻め時々壁
「おはよう。どうした?」
担任の山本利勝が言う。
さすが我らの担任。
威圧が違う。
「あ、はい。先日、企業の方から封筒がきまして…」
僕は本件より大事な話から始める。
「わかった。」
担任がそう言い話が終わる。
いよいよだ…。
たとえ、嫌いなやつでもクラスメイトのやったことを担任にチクるのは流石に辛い。
後々の仕打ち…ないな。
むしろ、やり返すし。
僕はあいつの最後のドヤ顔を思い出す。
そして、あの時のイライラを思い出す。
そして、去年僕自身が味わったそこそこ辛かった冬休みを思い出す。
憎い。イライラする。キモい。殺したい。
すると、躊躇いもなく言葉が出る。
「それでですね、一応先生に報告しときたいことがあるのですが…」
「なんだ。」
「先日、神園先生が斉藤の携帯を没収しましたよね。」
「あぁ。」
「ハッキリ言いますと、あれフェイクです。」
「は?」
「だから、斉藤が渡した端末は機種変更をする前に使っていた古くて今は使っていない機種で、本当に没収すべき端末は本人が持っています。」
すると、担任は少し驚いた顔をした。
そして、数十秒無言の時が流れる。
「…証拠はあるのか?」
担任が重い口を開いた。
「はい。まず、斉藤は先生からの指導が終わった後に教室に帰ってきました。その時に、堂々と自分のカバンからその携帯を取り出しドヤ顔を決めてました。見ていたのは僕だけではなく、僕がよく絡んでいるメンバーも同時に見ています。」
「見ただけか…」
確かにそうだ。目撃証言だけで動くのは気が進まないだろう。
「では、物的証拠も。普通、携帯を機能させる、すなわち通信をするには何が必要ですか?」
「…端末本体か。」
「それも大事ですが、基本的にはSIMカードが必要となります。これがないとモバイルデータ通信は出来ません。斉藤はゲームをしていました。あれば僕もやっているのでよく知っているのですが、通信なしではプレイできません。」
担任の顔は唖然としていた。
「要するに、この端末にSIMが刺さっていないとおかしいというわけです。」
「お、そうか…」
「没収した端末を見せてもらえませんか?」
「いや、それは…」
だろうな。
「でも、これを確認しておかしい部分を正さないと、斉藤は反省もせずに悠々とまたゲームをするんです。僕、何度も没収されているから思うんですけどこういうの許したらいけないと思います。だから、ちゃんと確かめましょう。」
僕は力説をした。
「壊すなよ。」
「慣れてますから大丈夫です。」
僕は慣れた手つきで携帯の電池パック蓋を外す。
すると、そこにはSIMカードが刺さっていた。




