お酒が飲める年齢です。ただし飲めない体質です!
「古町つきあえよ〜」
「やかましいわ飲んだくれ」
酔っ払って面倒くさくなった同僚におしぼりを投げつける。
何が悲しゅうて飲めない席で飲んだくれる同僚の介抱役をやらにゃあならんのだ。
「ほら梅ジュースだぞお」
「先輩方にとってはジュースでも私にとっては十分酒なんです」
はいはいどうもと受け取って、そのまま隣へどうぞと流す。
梅酒は好きだけれど、家でちびちび飲むのがいいのだ。ソーダなんかで割ったりして、映画を見ながら少しずつ。
お子様だと笑えばいい。体質なのだから仕方がない。
少し飲んだだけで腕まで真っ赤になる私は、入社当初断りきれなかった席で飲み続け記憶を飛ばしたことがある。
幸い暴言も吐かず暴挙もしでかさなかったらしく、目が覚めたら教育係のお姉さん先輩の家だった。
聞けばいきなり倒れたらしい。ぐーすか寝てる姿に周りの人は驚いたが、そこでようやく全身真っ赤になってる私に気付いた、と。
それをきっかけに飲めないことが広まり、飲み会ではそれほどお酒を勧められなくなった。のだが。
「こぉまちいー、のめのめえー」
「はいはーい、飲んでますよウーロンを」
ウーロン杯じゃなくて茶のほうですけどね。
酔っ払った同僚は容赦ない。
「はい古町オレンジ」
「あ、どうもありがとうございます」
そんな中まともなのは五年上の先輩。
「ジュースじゃなくて酒のほうだけどな」
「ぐふっ…」
疑いなく口に含んだ液体は確かにアルコール臭がする。
まったくお前もかブルータス!
「大丈夫、ちゃんと半分は更にジュースで割ってるから」
まったくなんでそんな面倒くさいことを。暇人か、暇人なのかこの先輩は。
仕方がないのでそのまま続きを少し飲む。一度口をつけたものは残せないタイプなのだ。そう躾られたし、そうあることに不満を感じてもいない。
「相変わらずすぐ真っ赤になるね」
わかってるなら酒勧めないでくださいよ、まったく。
ジト目で見てやるとニコリと笑われる。
「見てて面白い」
「人で遊ばないでください」
「野郎で遊んでもつまらないし、他の女子は皆いける口だしさ。遊べるのは古町ぐらいでしょう」
だから遊ぶなっての!
「この後暇だよね?暇じゃなかったらこんな時間まで残ってないだろうし」
「同僚の後片付けって役目が残ってるので」
誰かがしなければお店に迷惑がかかる。
飲んだ人間を、やっかいごとに巻き込まれないようにしながら相手するなんてお店の人が可哀相過ぎるし申し訳ない。普段はいい人たちなんです、この飲んだくれのみなさん。
「古町は真面目だね」
ちょっとむっとする。
昔から真面目だねイコールつまらないねの意味合いで投げかけられていたせいで、真面目という言葉にいいイメージはないのだ。
「そういうとこ好きだよ」
軽い男だったのかこの人は。いやいや単なる冗談だ。
気分が殺伐としてきている自分に気付く。
だってみんな楽しそうなのに、自分はその輪に入れない。
騒げばいいのだ、自分も。
店の迷惑も外聞もなにもかも捨てて騒いでしまえばいい。
そう思うのに理性がそれを許さない。
「やっぱり真面目だ」
繰り返される単語に今度はイラッとする。
「頑張るエラい古町はお兄さんが遊びに連れ出してあげましょう」
「はい?」
「行くよ」
いつの間にか持たれた荷物と取られた腕に、疑問符をたくさん浮かべて店を出る。
「さて、映画でも観にいきますか。この時間なら何本かまだ観れるんじゃないかな」
はてなぜどうして私は先輩に連れ出されているのだろうか。
「言ったでしょう。日頃頑張っている古町にご褒美です。後でちゃんと松岡女史も合流するから安心して」
ごほうび。
大好きな松岡先輩。
いいのだろうか、たまには遊んでも。
「ポップコーン…」
「ん、何?」
「ポップコーンが食べたいです」
言ってみると、先輩はよくできましたというように笑った。
「塩派、キャラメル派?」
「キャラメルです」
「飲み物は」
「炭酸ですっ」
気分がのってきた。何がどうなっているのか分からないけれど、いいんじゃないだろうか酔っぱらいたちを放っておいても。
もしかして酔っているのかもしれない。正常な判断力がないのかもしれない。
でも。
「では両方Lサイズを買って差し上げましょう」
楽しんでも、いいじゃないか。
「ありがとうございますっ」
だって松岡先輩が来てくれるんだから!
最終的に古町がつられたのは大好きな松岡先輩(女)。
結果、不憫なのは松岡に負けた先輩(男)。
わかってた、そうなることはわかってた。でも喜ぶ顔がみたくて松岡を呼んだんです。…がんばれ!