授業
俺は町を出た所にある草原で、大急ぎでエドに薬草の見分け方を教えている真っ最中。
この先、やる事がない、生きる意味がない。と嘆くだろうエドに、薬の知識をつけてもらって、俺の代わりに万能薬を作ってもらおうと思って。
毒と麻痺が同時に治癒出来る薬の調合はまだちゃんと頭にあるから、最終的にはそれを伝えておしまい。調合方法を記したメモは既に手渡し済みだから、後は薬草の見分け方だけ。
「潰した時に臭いのが毒草で、草っぽかったり、良い匂いがしたら毒消し草だよ」
時期がもう少し早かったら薬草の種類も豊富だったのに。だけど、乾燥させた薬草なら道具屋に行けば名前と効能の説明書付きで売られているから、レアな薬草や毒消し草以外の事なんて教えなくたって良いのかも知れない。それでも、今はここにいなくちゃならない。
夕方の6時、恭治が夕飯に肉じゃがを作るって言うもんだから、ポチ達が食べたいって声を揃えたんだ。
樹海にいた時から肉じゃが食べたいって言ってたんだから、ポチ達の思いは本物。だったら食べさせてあげたいなって思ってさ。
「…あ、良い匂いがする。コレか?」
俺に背中を向けないようにしていたエドが、急にしゃがみ込んで薬草を土ごと持って来た。
毒草には直接触れないようにって注意を忠実に守っているんだろうけど…手袋をすると言う発想はないのだろうか?
それに、その薬草は…毒じゃない。
調合によっては毒にもなるけど、単体では回復系の効果があるこの薬草は…。
「これは…月見草だよ…」
月見草。
イザって時になんの役にも立たなかった…俺の中で1番嫌いな薬草。
これを見ているだけでシューシューって蒸発音が聞こえて来そうだ。溶けて、消えて、服だけになって…そんな光景をただ見ている事しか出来なかった自分の無力さを、思い出す。
だけど、万能薬を作るのに必要な材料だから、教えなきゃならない。
「ガイコツン?」
大丈夫、こんなのただの草じゃないか…それに、エドだってこんなにも元気。何処からも蒸発音なんかしてないじゃないか。
大丈夫、ただ月見草の説明をするだけ。必要な草の説明をするだけだ。
「単体だと傷薬の効果があるけど、香りが良いからハーブとしても人気があるレア薬草」
本来なら探そうと思った所で中々見付からないレア薬草。
「レアなのか…」
嫌だ…あの時と同じ説明なんかしたくない。したくないのに、言わなきゃ…嫌だ、言いたくない。だけど…言わなきゃ万能薬が…。
しっかりしろ。
「見つけた時に、摘んでおくと良いよ」
普通の薬草と、月見草の見分け方の違いも教えなきゃな…葉の形も色も似たような2つの草、それなのに月見草は薬草の傍にしか咲かない。だけど、夕方から明け方の間だけはハッキリとした違いが現れる。
夜にしか開花しないから、月見草。
まだ日が高いのに、探し出せるって凄いな…。
エドのその目があれば、俺なんかよりも凄い薬師になれるだろう。少し口が悪いから商売をするにはちょっと問題がある気はするけど…。
「どうしたんだよ」
あまりにも俺がエドを見つめたまま動かないからなのか、エドは少し居心地悪そうに顔を背けたのに、右目だけはズットこっちを向いていて、それが嬉しくてしょうがない。
ただいま、とか言いながら駆け寄ってしまいそうになるのを堪え、完全に距離を開けるためだけに夕食後、皆が揃った時に言おうと思っていた事を口にする。
「俺さ、元天使なんだよ。もう少し回復が進んだら、天使の羽だって生えてくる」
蘇りにとって、唯一の敵である天使。
聖水を飲ませようとして来るエンゼルンと、俺は同じ天使なんだ。
実際は、もう少し厄介な存在ではあるんだけど…それを説明してしまうと、そのまま不自然な魂になってしまう。
「え?」
え?って何だよ。もう少し激しい反応を予想してたんだけどな…それに、前に俺が天使だったって分かった時、確かエドは「裏切り者」とか言いながら拒絶したじゃないか。それなのに、どうして今はこんなにも薄い反応しかないんだろう?
「それ…本当に?」
まだ羽が生える前だから、冗談を言っていると思われていたようだ。
「どうせ後からバレるんだから、本当の事しか言わないよ」
屋敷を去るつもりでいるんだから取り繕う必要もない。なんなら、嫌われている位で丁度いいのかも知れない。
「けど、お前“奪う者”なんだろ?蘇りなんだろ?」
どうなんだろう?一応“奪う者”の設定だから今でも“魔石”は使えると思うし、蘇りと言う設定だから、エド達にとってはガイコツンそのままだと思う。
設定がなかったら不自然な存在の悪魔になるのかな?だったら俺は元天使ではなくて元悪魔って言った方が良いんだろうか?いや、でも元々は天使で、そこから悪魔になったんだからどっちでも正解…って、こんな詳しく説明したら駄目なんだって!
「まぁ…今は、ゾンビンに薬の知識を教える先生って所かな」
何者でもなくて、ガイコツンって事で良いのかな?
今は、まだ…。
「んだよソレ…」
ホントにそうだよね。
自分の事なのに、ややこしくてさ。設定があるって話はルシファーから説明されたんだけど、まだちゃんとは理解出来ていないんだと思うんだ。
分かっているのは、不自然な存在に戻らない限り俺はガイコツン、キリクとして存在し続け、皆を守り続ける事が出来るって夢みたいに幸せな事だけ。
その上、自分の夢だった万能薬の完成をエドに託す事も出来ているなんて。
これ以上何を望めば良いんだろう?
あ、夕飯の肉じゃがだ。最後になるんだし、ガスマスクを取って俺も食べようかな?アフロも取って…皆にもちゃんとルシファーを紹介しなきゃならないし、元は天使だって事も説明しないと。
それから、ラミアに会って相談してみよう。
俺の存在している時間の誤差をどうにか出来れば、不自然な魂じゃなくなると思うんだ。だから、時間の取り戻し方があるのかどうか。
「今日中に覚えて。テストするからね」
夕飯が終わって、全部終わってからにするか、それとも明日にしようか…ラミアとゆっくり話しをしたいから、明日の朝一にしよう。
だとしたら、宿を取るか…町の外にテントを張って野宿が良いかな?
「…満点取ったら、何かクレよ」
しかし、不思議なのはエドの態度だ。
天使である事を説明した後だって言うのに、どうして普通なんだろう?普通に見えるだけで、実は物凄く怒っているとか?
「何かって?」
早く羽が生えて来ないかな?気配と気を感じられないと、不安でしょうがない。
「んー…言う事何でも1回きく。とか」
なに、それ…。
え?なに?
特に欲しい物がないのに提案したの?しかも、言う事を何でも聞けって恐ろし過ぎない?何を言われるんだろう?
いやいや、全問正解出来ないような問題を出せば良いんだ。全問間違えそうな位の、難しい問題を!
だったら、おかえし。
「じゃあ全問間違ったら、くすぐりの刑ね」
「え!?」




