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ディスペル  作者: SIN


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繰り返さないために

 ペペの言った通り、深夜にポチは樹海に戻ってきた。

 腕にしっかりとピヨの入った“魔石”と、1匹の子猫を抱いて。

 俺の記憶にあるボスの姿はもう少し立派だったから、まだ本調子じゃないのかな?そもそも、開封もされていないのに“魔石”から出て来るんだから底知れぬ力を感じるよ。

 このボスが本気になれば、あんな村の1つや2つ、あっと言う間に滅ぼせたのだろう。それなのに大人しく“魔石”に封じられたのはどう言う事?

 とにかく、今は帰ってもらわないと戦いが起きてしまう。

 「あの、ここから自分の家が分かる?」

 ポチの腕に抱かれる子猫に声をかけてみるが返事はなく、ただジッと俺を見ている。

 樹海を住処にしていたんだから、ここから家が分からないって事はないのだろう。だとしたら…見極められている?それともやりたい事が他にある?

 いやいや、それでも今はボスがちゃんと“魔石”から開封されて生きているって樹海に居る魔物に知らせないと。

 じゃあ魔物達に迎えに来てもらう?だけど魔物は気配を感じ取れるんだから既に迎えに来ていても可笑しくないよね…。

 あ、そうだ。俺が気配を感じ取れないだけで、実は回りは魔物だらけなのかも?だとしたら、下手に動くと攻撃を受けるかも!?

 ボスは相変わらずジッとしているが、ゆっくりと瞬きすると小さく、短い鳴き声を上げた。

 その瞬間山から吹いてくる風とは別の風が巻き起こり、ヒラヒラと桜の花びらが舞って、ボスはストンとポチの腕から降りた。だけどその足は地面に降り立つ前に宙で止まり、一層強く吹いた風と桜の花びらにまぎれて消えてしまった。

 帰った…のかな?

 「集まっていた魔物達の気配も全て消えたみたいね」

 力が強いと自分で言ったペペが溜息を吐きながら安堵するんだから、集まっていた魔物の数は相当多かったのだろう。そうだとしたら、ボスはそんな魔物達と共に一瞬にして消えたって事になるから…やっぱり物凄い魔力だ。

 魔力の高過ぎる魔物って、もしかしたら“魔石”程度では封じる事なんて出来ないのかな?だったら皆の友も、もしかしたら自分の意思で自由になれるのかも?それなのに一緒にいるって言うんだから、相当強い絆で結ばれているんだね。

 っと、そうじゃなくって。村と魔物が戦う原因となっていたボスが樹海に戻ったんだ。

 ここからどうなるんだろう?少しは違う未来になるかな?

 いや、違う未来にしなきゃならない。

 エドも、エルナさんも、アクアも、誰も倒させない。その為には早く屋敷に戻らなきゃ!

 「皆、屋敷に戻るよ!」

 声をかけると何も指示なんか出していないのにペペもポチも荷物を持って“魔石”に戻り、ルシファーが大きく羽を広げて俺を抱き上げてくれる。

 何か、役割分担でもあるの?

 確かにポチが俺を担いで走って移動するには無理があるし、歩いて帰ると2日掛かるし、ピヨに連れて帰ってもらうなら、まずはピヨの体力回復を待たなければならない。そうなるとルシファーしか頼れない…って、これを皆は瞬時に判断したのか。

 皆の頭の回転って速いんだな…俺が遅いだけかな?

 「なにをボンヤリしているのです?しっかりと捕まっていてください」

 そう言ってから飛び上がったルシファーは徐々に加速しながら移動して、太陽の位置が真上に来るより前に、屋敷のある町の近くの草原で下ろしてくれた。

 途中何度かご飯休憩とかトイレ休憩とかを挟みながらだから、物凄く早くに帰って来られた訳なんだけど…ここで少し迷う。

 ガスマスクとアフロのかつらを被って帰るべきだろうか?

 急に素顔じゃあ俺だって分かってくれないかも知れないから、つけた方が良いんだろうけど、そうなると今度は外して生活するタイミングが分からなくなるよね…。

 それに、いつまでも素顔を隠していた事もエドと喧嘩する理由になる。いや、でも初めから素顔はハードルが高いし…アフロだけ被る?それともガスマスクだけ?

 「どうした?」

 立ち止まったままでいた俺を、ピヨは心配そうに覗き込んできた。別に体調不良とかじゃないんだからさっさと町に入れば良いんだろうけど…。

 「えっと…今、頭が真っ白で…」

 ガスマスクとアフロのかつらを被るかの他に、皆に会った時にどう話しかけたら良いのか分からない…。

 「どんだけ緊張してんだよ」

 そう言う為だけに“魔石”から出て来たポチは、俺がつけたガスマスクの目の部分をコンコンと突いてそのまま戻ってしまった。

 けどさ、緊張するに決まってるよ。だって、サクリアとカフラに至っては100年ぶりなんだよ!?

 駄目だ、足が完全に動かない。

 「その為のガスマスクとアフロでしょ?しっかりなさい」

 町の入り口で立ち止まっている俺は、旅人にとってかなり邪魔になっていたんだろう、しっかりしなさいと言いながら出て来たペペに引っ張られ、町に入ってスグにあるベンチに座らされた。

 「ゴメン…けど、やっぱり…」

 あれ…?

 なんとなくだけど、繰り返している気がする?

 いや、良く覚えてないんだから確証とかないんだけど…昔にもこうして「皆に会うのが緊張する」とか言ってベンチに座った気がするんだ。

 骨からの回復がなったこの体を見られるのが嫌だった?違う、ガイコツンだと認識してくれないと思ったんだ。

 それで、俺はどうやって屋敷に戻れたんだっけ?ベンチに座って、緊張で屋敷に戻れないこの状態から、どうやって?

 待て待て、同じように繰り返してどうするんだよ。

 折角ボスを樹海に帰して新しい未来の可能性を開いたのに、同じようにしてたら意味がないよ。

 良い結果になるのか、悪い結果になるのかは分からない。だけど、エドとエルナさんを昇天させてしまう事を回避出来るんなら、何がどうなっても良い結果だ。

 例えそれで俺が不自然な存在に戻ってしまっても!

 そうだ、守るんだって決めたんじゃないか。それで早く屋敷に戻りたかった筈じゃないか。それなのになにを緊張してるんだよ。

 帰ろう…今なら分かるもん。

 皆は俺がどんな姿になろうとも俺だと分かってくれるって。迎え入れてくれるんだって。

 屋敷に戻る決意が固まった時、急に後ろから肩を叩かれた。

 どうせまたポチ達の誰かが「さっさと帰れ」的な事を言いに“魔石”から出て来たんだと思って振り返ったんだけど、そこにいた人物を見た途端、さっきまで色々と考えていた事が頭からフッ飛ぶ程の衝撃を受けた、だって真後ろには…。

 「…そんな所でなにやってんだよ」

 顔色が余り良くないエドと、

 「何故このような場所に?もしや具合でも崩しておられるのか!?」

 頭に矢が刺さているバージョンの恭治が立っていたんだ。

 「あ、いや…大丈夫だよ…」

 なんとか返事は出来たものの、何をどう思って良いのかが分からない。それより、この2人が普通過ぎる。でも、エドの手紙にはもっとこぅ…切羽詰った感じが…。

 「さ、屋敷に戻るでござるよ」

 えぇ!?ちょっと、そんな即効なの?もう少し心の準備が必要だし、屋敷に戻る前に言いたい事だってあるんだ。

 絶対に過去には取らなかった行動だと思う。

 だから、今ここで!

 「ルシファー、出てきて」

 ベンチから立ち上がり、俺はルシファーの入った“魔石”に向かって声をかけた。

 まさか俺がこんな行動に出るとは思っていなかったんだろうな、

 「え!?」

 とか“魔石”の中から声が聞こえた。

 「ルシファー?お前また友が増えたのか?」

 怪訝そうな表情を浮かべているエドは、少し後ろに下がって軽く構えの体制を整えている。きっと、ルシファーが“黒き悪魔”である事を瞬時に理解したんだと思う。

 ゆっくりと無言のまま出てきたルシファーの姿はやっぱり白いので“黒き悪魔”と紹介して良いのか分からないけど、俺まで黙っている訳には行かない。

 「皆の敵なのは知ってる。だけど、俺の大事な仲間なんだ」

 皆で力を合わせて“黒き悪魔”を退治した。その封じた“魔石”をエドだけが俺に託してくれた…それを、相談もなく開封した…。

 俺、最低じゃないか!そりゃ嫌われるわ!

 「…あっそ」

 クルッと俺に背を向け、屋敷の方向ではなく町の外に向かって歩いていくエド。恭治はただ静かに俺を眺める。

 「ただいまも言わずに、ごめん。けどルシファーが仲間だって事を知って欲しかった」

 今、少し分かったよ。

 俺が如何に皆を守るのか。

 一緒にいたら駄目なんだと思う。俺が関わったせいでエドはいつも機嫌が悪かったし、俺のせいで昇天した。

 少なくとも、エドに俺は必要ない。

 だから、近くで見守るんじゃなくて、遠くから見守れば良いんだ。

 「ガ、ガイコツン…殿?」

 あ、そうか、俺はまだガイコツンだっけ。じゃあ皆の事もちゃんとあだ名で呼んだ方が良いのかも?

 「俺は屋敷には戻らない。だからって樹海にも戻らない」

 俺は俺のやり方で皆を守る。過去と同じ行動を取っていても結局未来は変わらないと思うから、だったら新しい方法を取り続けてやる!

 「お、おい…どう言う事だよ!回復終わったら帰って来るって言ったじゃねーか!」

 町の外に向かって歩いていた筈のエドの右目だけが目の前に現れ、結構遠くから声が聞こえてきた。

 振り返ってみると、着けていた眼帯を右手に持ったエドが結構遠くに見えて…。

 会いたい。

 俺だって会いたかったよ?ズット、ズット…こうして生きている姿を見られただけで本当に嬉しい位。

 だから、いくらでも恨んでくれて良いし、嫌ってくれて良いよ?ただ生きてさえいてくれれば、それだけで俺は幸せだ。


挿絵(By みてみん)

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