待機
100年前の事を、ガイコツンだった頃の事を、そして100年戻ろうと思った切欠の事を思い出しながら俺はまだ樹海に居る。
早く走る事が出来るポチと、飛んで移動出来るピヨには一足先に戻ってもらい、猫を見つけて連れて来て欲しいって頼んだから、その帰りを待っている所。
樹海を住処にしている魔物達のボスが、その猫だった…それを知らなかった俺は、弱っていた猫を連れて屋敷に戻ったんだ。
樹海の魔物はボスの気配が消えた事で激怒し、村を襲うようになって…お城に兵士の派遣要請したんだと思う。王様は“奪う者”を使って不老不死の研究をしたいから、兵士を“奪う者”にするべく村に兵士を派遣した。そのうちの1人がエルナさん。
後はもう悪い方向にしか物事が運ばなくなって…。
その全ての切欠であるボスを今すぐに樹海に帰せば、もしかしたら俺が経験した最悪な結果を少しでも変える事が出来るんじゃないか?って思ったんだ。
同じように歴史を繰り返さなくなって良いんだよね?
やり直しても良いんだよね?
ただ、俺が不自然な魂にさえならなきゃそれで良いんだよね?
なんにしたって、ボスを帰すだけが解決になる訳じゃないんだから気を付けなきゃ…エドを昇天させない為にはなにが必要?
友が入った“魔石”だ。
名前は…なんだっけ?確か2人いた。それで、ボスを帰す時に一緒に帰っちゃった…いや待てよ?エドが自分から開封したんだ。
存在する目的も意味も何もないって、その時からエドは聖水を飲む事を望んでいた。
もしかして、エドが昇天した理由って…生きる意思がなかったから?
なにか、とんでもなく落ち込んでいたから?
鞄の中から手紙を出して広げると、そこには「会いたい」の4文字。
皆に何かあったんじゃないかって俺は屋敷に戻った。だけど皆はいつも通りで、特に何もなかったから忘れてたけど、この4文字を書いたエドとはギクシャクしたままだったじゃないか。
そりゃさ、骨がいきなり肉付き良くなって帰ってきたら戸惑うかも知れないけど、それって皆同じ条件だ。それなのにエドだけズット…遠かった?
明確に何処がって覚えてないけど、屋敷に戻ってから徐々に不仲になっていった気がする。
ガスマスクを何時までも外さなかったから?それとも“黒き悪魔”を仲間にしたって紹介が遅れたせい?それとも背中から天使の羽が生え…。
また、生えるのかな?
人や魔物の気配が感じ取れるようになるから便利なんだけど、羽が生えたら不自然な魂に戻ったりしないだろうか?
あ、そうだ。聞きたい事があったんだった。
手紙を鞄の中にしまい、俺は荷物整理をしていたルシファーの横に座り込んだ。
「ポチ達は俺が不自然な魂になっちゃった事は知ってるの?」
突然話しかけたと言うのにルシファーは驚く素振りも見せず、ただ少し後ろを振り返ってペペを確認した。
その行動だけで分かったよ、少なくともペペは知らないんだなって。
「いいえ。階級が大天使以上の者にしか記憶は残されませんでした」
記憶が残されなかったって事は、ポチ達も100年前から戻ってきたのか…悪魔の姿じゃないから天使には戻されたのかな?って、そんな事が出来るのだろうか?
天使が魔界に干渉する事は出来ないから蘇りが生まれる。だから魔界にいたポチ達をどうにか出来る訳がない…ならどうして俺は?あ、俺は悪魔じゃなくて不自然な存在になってたんだった。
大天使以上のお偉いさんと、不自然な存在の俺の意識だけを飛ばした。って感じかな?
「じゃあ、続きを聞かせて」
もっと色々細かい所が分からないんだよ。
全部1つずつ聞いても良いんだけど、色々細かいから今すぐにパッとは出て来ないんだ。ふとした時に、これはどうなんだろう?って。
「続き?」
何を惚けようとしてんの?
首なんか傾げたって、その真顔じゃあ不自然だからね?むしろ、そんな誤魔化さなきゃならない程の凄い事があるんだなって確信しちゃったじゃないか。
これは、ただ待っているだけじゃ答えなんか言ってくれないだろうな。なら、今疑問になった事を聞いてみよう。
「俺と同一化したのに、ルシファーは大天使のままって、設定可笑しくない?」
そもそもルシファーは天使長に歯向かって堕ちたんだよね?それで魂が二分されて俺が生まれたって設定なんだから、ルシファーが大天使のままなら堕ちていないって事で…つまり、俺が存在している説明が付かない。
「設定なだけで…そうである必要はないのです」
俺がもっと答え辛い事を聞いて来ると想像していたようで、ルシファーはホッと安堵の表情を浮かべると、一変してキリッと俺の目を見ながら用意していた台詞のようにハキハキと答えた。
答えが用意されている事以外にも何かがあるって分かっているのに、それが何なのか分からない…きっとヒントは何処かにある筈なのに、俺はそれを疑問にも思っていないって事?早く気が付かないと、それに対しての模範解答も用意されてしまうのだろう。
モヤモヤする…。
「ちょっと、早く荷物をまとめなさい!帰るんでしょ?」
うわぁ!
飛び上がる程の勢いで振り返ると、いつまで経ってもコソコソと喋っているだけの俺達に怒っているのか、厳しい表情で腕を組んでいるペペが立っていた。
気配が感じられないと本当に不便だよ!ビックリしたぁ…。
「ご、ゴメン。でも、ポチ達がいつ戻ってくるか分からないし、そんな急がなくても…」
昼過ぎに出発したから、スグに猫が見付けられたとしても明日になると思う。
「そうね…この距離だと、夜には到着するんじゃないかしら?」
少し目を閉じたペペは、呼吸を整えるように深呼吸してからゆったりとした口調で言い、それから目を開けた。だから、多分気配を探ったんだと思う。
にしても、夜まで掛かる?
「遅くない?」
ピヨには移動させっぱなしだったから、疲れてる…よね。戻って来たらたっぷりと休んでもらおう。屋敷に戻ったら、恭治に頼んでクッキーを焼いてもらおうかな?
「町に着くのが。じゃなくて、樹海に戻って来るのが。よ?」
夜?え、今夜って意味?
「それはそれで可笑しいよ!?早過ぎない?」
人の足で普通に歩いて往復4日程掛かる距離だよ?それを、往復半日も掛からずに戻ってくるって言うの?
「ポチの足はピヨの飛ぶ速度より早いのよ?」
え!?
「そうなの!?」
「…因みにだけど、力が1番強いのは私だからね?」
えぇ!?そ、そうだったの?
力こそポチが1番だと思ってたよ!あんなパワー系な姿なのに、実はスピード系だなんて…いや、でも確かに半獣だから足は速そうかな。
「じゃあピヨは?ピヨはなにが得意なの?」
スピードのポチ、パワーのペペだから、マジック系かな?
「そうね…手先が器用よ」
手先が器用!?




