TRICK OR TREAT
目覚めると、やけに辺りが静かな事に気が付いた。
特別早起きをした訳でもないのに、とベッドから出て廊下に出てみても誰もいない。
皆は今朝食中なのかな?
俺はガイコツだからお腹は減らない。だから食卓には呼ばれなくなったと考えたってなんの不思議もないんだけど、昨日の晩御飯までは普通に呼んでくれてたよね?なのにどうして急に?
まさかエンゼルンの奇襲攻撃があったなんて事…大変だ、早くリビングに行かなきゃ!
廊下を走るが、いつもなら飛んでいるコウモリの姿さえなく、一瞬だけだけど、ここで皆と過ごした日々が夢だったんじゃないだろうかと錯覚を起こした。
「…慌ててどうした?」
リビングの扉を勢いよく開けると、そこには紅茶を飲んでいるフラケシュンが座りながら可愛らしい小袋にクッキーを詰めていた。キッチンからは甘い香りがして、覗いてみるとオチムチャンとミイランがなにやら作っている。
フラケシュンが詰めているあのクッキーは、オチムシャンとミイランの手作りなんだろう。
そんな皆の周りを忙しなく飛んでいるコウモリは、小袋の補充とか、小麦粉や卵、砂糖と言った材料を運んでいる。
なんだ…そうだよね、急に全部が夢だったとか悪い冗談も良い所だよね。
「クッキー売りを始めたんだ?」
今は、と言うかズットなんだけどハクシャクンにだけ働かせている状況だったから、何かしないと確かに居心地は良くない。だったら俺も手伝わせてもらおう。
「ハクシャクンに頼まれたんでござるよ」
キッチンから焼きたてのクッキーを運んできたオチムシャンが少しだけ説明してくれた。
「なんでも大量の菓子が必要だとか…おい、こんなもんで良いだろう?」
と、ミイランもキッチンから出てくると、近くを飛んでいたコウモリに確認を取り、コウモリはクッキーの詰まった小袋を数えてからパタパタと大きく上下に飛んだ。
それを見たフラケシュンは手を止め、多分ものすごい甘い紅茶を一気に飲み干し、
「どうやら良いらしいな」
と、残ったクッキーの袋詰め作業に戻った。
大量の菓子がいる?そんなに甘い物が食べたかったのかな?だったら小分けして袋詰めする理由は?いや、そんな事より、
「ミイランってお菓子作れるんだね~。女の子なんだね~」
やっぱり紅一点、普段は強くてカッコイイ感じなんだけど、こうやってクッキーが作れるなんて凄いよ。うんうん。
「焼いたのは拙者でござるよ?」
うん??
「我は焼け具合を見ていただけだ。文句があるようだな?ガイコツン」
「ア、アハハハ…ヤダナ~なにもないよ~。あ、そうだ。ゾンビンは?」
「俺は朝から見てない」
「拙者も今日はまだ見かけてないでござる」
「我もだ」
皆朝から忙しかったんだな~。けど、ハクシャクンが菓子を作ってって頼んだのは出勤前だから朝食中か後だった筈。なのに1度も見かけてないって事は、食事に顔も出さずに?
俺と同じで寝坊してるのかな?リビング来る前にゾンビンの部屋も見てくればよかったなぁ。まぁいいや、今から行こうっと。
走ってきた廊下を走って戻り、俺の部屋の隣、ゾンビンの部屋をノックする。
1回、2回。
中からの反応は全くなくて、ゆっくりとドアノブに手をかけるとギィ~と嫌な音を立てて開いた。
「あ、ガイコツンおはよ~」
ノックしても返事がなかったからどうしたのかと思ったけど、普通に起きてる。それでも何もしてないって訳じゃなくてカボチャを前に工作中?
「なにしてるの?」
「ハクシャクンにさ、ガイコツンが起きたら2人でコレ作ってって頼まれたんだー」
言いながらゾンビンは1枚の写真を俺に見せてくる。手にとって見ると、確かにカボチャを顔?のようにくり貫いた…ランプ?が映っていた。
「カボチャの中を全部出した後に、こー言う目と口を彫って、中に蝋燭入れるんだって」
ニカリと笑ったゾンビンは、俺の前に大小1こずつのカボチャと、中身を掻き出す用のスプーンを置いた。どうするのかは良く分からないけど、ゾンビンの真似をしてれば大丈夫かな。
「うぅ~~~手が痛い~~~」
しばらく黙々と作業をしていると、ゾンビンからそんな泣き言が聞こえた。視線をゾンビンの手に向けてみると、確かに真っ赤になっている。
こう言う時、痛覚があると不便だなって他人事のように思えるのは、ただ俺に痛覚がないから。お腹も空かない、痛覚もない、これで人間だって言う方が無理がある気がするんだけど、ガイコツなんだからしょうがないんだろうなって。だから逆に何も感じないのを得な事として考えようと思うんだ。そうでもしなきゃ俺は…きっとエンゼルンの持ってくる聖水を、ありがたい物として飲んでしまうだろう。
「後は俺がやっとくから、休んでて良いよ」
言いながらゾンビンからカボチャを取り上げようとして、伸ばした手を叩かれる。何故か分からずにもう1度手を伸ばすも、また叩かれた。
「これは俺がするの!」
いや、そんな事言っても手が赤いからね?痛いでしょ?さっきまでは痛いって言ってたのに、急にどうしたんだろうか。
「手、痛いんでしょ?」
痛いけど、そう膨れっ面を浮かべたゾンビンだが、数回手を振った後は俺の手を握って笑っている。
何か良い事を思い付いた、のかな?
「一緒に休憩しよう。皆キッチンにいると思うんだ~」
それは知ってる。
オチムシャンがクッキー焼いてて、ミイランが焼き具合を見てて、フラケシュンがクッキーの袋付けをしてるんだ。クッキーはもう焼かなくて良いって事になってたみたいだから、今もいるのかな?
ゾンビンとリビングに入ると、そこにはハクシャクンも含めた全員がいて、皆で紅茶を飲んでいた。
「ジャックランタンは出来上がった?」
なにそれ?でも、あのカボチャの照明の事なんだってのは分かるよ。雰囲気で。
「少し休憩したら続きをするつもりだよ。そんな急ぎの物だったの?」
いつもの席に座りながら聞くと、ゾンビンは居心地悪そうに立ち上がり、スグにでも製作に戻ろうと俺の腕を引っ張った。んだけど、休憩して欲しいので構わずに座り続け、ゾンビンにも座るようにってイスを指差した。
「夜までには仕上げて欲しいかな。1個でも良いから、ね?」
夜まで、と言う説明に時計を見ると、まだまだお昼時の2時。1個でも良いなら余裕で完成させられる。
「しかし、クッキーと良い、そのランタン?と良い、なにか意味があるのか?」
ミイランの言葉に皆がハクシャクンに注目する。
「今日はね、HALLOWEENなんだよ」
ハロウィーン?今日って事は何かの記念日的な感じなんだろうけど、何の日?それとクッキーやカボチャの照明がどう関係してるんだろう?
「ジャックランタンが置いてある家に子供達が来てね、Trick or Treatって言うから、Happy Halloweenと答えてお菓子をあげるんだよ」
その為のクッキーとジャックランタンなんだな~。じゃあランタンが出来上がらなきゃ子供達が来ないから折角のクッキーが無駄になるじゃないか!こうしちゃいられない。
夜までに1個なんて簡単に出来るんだろうけど、こんなお祭り?の日に1個なんて寂しすぎるよね。だったら、ゾンビンの部屋にあった全てのカボチャをランタンにする!位の勢いでやろう!
「ゾンビンは手が痛くなくなってからで良いからね」
本日3度目の廊下走り、ゾンビンの部屋に入るなり作業に戻る。小さい方は中身を全部出して乾かしている段階だから残りは大きい方だ。それが終わったら他のカボチャの中身を出して、そうだ、中身を掻き出すのは手の痛くならない俺がやって、カボチャに顔をつけるのをゾンビンに任せよう。
少ししてから戻ってきたゾンビンは、何故かかなり落ち込んでいる感じで元気がなくなっていた。だから気になってどうしたの?と声をかけたんだけど、その途端にいつもの笑顔に戻ってしまい、まだ少し赤い手でスプーンを握った。
嫌な事があった?そう考えると、俺がリビングに連れて行くまで皆の前に姿を出さなかった事も、ハクシャクンに俺と一緒にランタンを作れと言われたのに起しに来ないで1人で作っていた事も、ノックに無反応だった事も、全部が可笑しい。それに、俺が起きた時、全くの無音だったんだ。隣の部屋でこんな作業をしていたなら少し位は物音がした筈。
ノックの音で慌ててランタン製作をしている振りをしたとしたら、それまでゾンビンはなにをしてた?
「やっぱし変だよ。何があったんだよ」
カボチャとスピーンを床に置き、ゾンビンの両手を握る。少しだけ震えているのはきっとまだ手が痛いせいだろう。
「なんでもないよ」
「なんでもない人は、なんでもない、なんて言わないよ」
「…なんでもないから…本当に…」
これはもうソッとしておく方が良いのかな?でも何があったのかが分からないと励ましようもないし、第一物凄く気になる。こんな状況じゃあランタン作りにだって身が入らないよね。うん。
「言わないと脇の下こちょこちょの刑だからね~~~」
「…え?」
3、2、1、ブブー時間切れです。
イザ!
「ちょっ!まっ…アハハハハハハハハ!も、ムリムリ!!ぎゃははははははは!」
本当に、感覚があるって不便だよね~♪
「言う?」
「言う!言うからっ!」
「うん。どうしたの?」
ゾンビンは笑い過ぎて上がった呼吸を整えるために、何度か深呼吸をした。
「…変なんだ」
ん?うん。今日はなんか変だって思ったからこそのこの流れなんだ。それは改めて言われなくても分かってる。
「…どうしたの?」
「フラケシュンとオチムシャンだよ」
ゾンビンが、じゃなくて?
ちょっと来て、と手を引かれてリビング前にまで連れて来られ、コッソリとドアを少しだけ開けて中を覗き見てみる。
相変わらず皆は寛いでいたんだけど、オチムチャンだけ何故か手をボールの中に突っ込んでいる。
確かに…変な状況ではあるけど、朝は結局普通だった訳だし…それにフラケシュンに至っては座って紅茶飲んでるだけだし。まぁ、可笑しい程の甘党だけど、それも今更指摘するような事でもないし~。
「皆普通…だよね?」
オチムチャンの状態は謎しかないけど、ボールに手を突っ込んでいるって所以外は目立った所もないし。
「あの2人の傷口って俺が縫ったの、覚えてるよな?」
このまま蘇ったら怖いって理由で縫い針と糸で雑に…え?ちょっと待てよ?確かゾンビンは繋がれば良い、みたいな感じで本当に雑に縫っただけでさ、その縫い口のジューシーな感じには、これでも充分怖いけど、なんて思ったもんだよ。けど、今の2人の傷口は最初の頃のザ・傷口って感じが全くない。それ所か、糸すら取れてなくなってないか?
って事は、体が繋がった?
蘇ると言うのはそもそも生き返るって意味だから、俺達は生き返ったんだろう。エンゼルンが昇天させたいのは俺達の魂だ。って事はこの体には当然魂が宿ってる事だから、傷口が治るのは極々自然な事…にしたってあんな凄い傷まで?俺達は蘇った事で不死身にでもなったのか?それとも体が元の姿に戻ろうと活性化して?
「・・・」
カツラを取って陥没した頭蓋を触って確認してみるが、やっぱり陥没してる。少しはマシになっているのかさえ分からない位の陥没っぷりだ。
俺の体は活性化しない?
まぁ、ガイコツだしね。骨が活性化した所で、骨密度が上がるだけだ。
ゾンビンの手を取って見ると、もう震えてないし赤みも取れている。ならゾンビンも自己回復する機能?がある事になる。なら肌もそのうち血色が良くなって行くだろうし、そうなると少々剥がれてしまっている皮膚も綺麗に治る可能性が高い。
で、俺は?
いやいや、考えたら負けだ。俺は動けなくなるその瞬間までガイコツだったとしたって気にしない!皆とは蘇るまでにかかった時間が違うんだからしょうがない。
「ゾンビンも、そのうち目を伸ばせられなくなるかもね」
「え~、これ便利なんだけど」
そう言いながら目を伸ばして来たゾンビンは、俺の何もない目の中に自分の目を入れ、至近距離にも程があるでしょって位の距離で俺の中?を見始めた。
「何かある?」
と聞いてから、自分の体の事なのに、と不思議に思う。
「ん~ん。何もない」
でしょうね。
「はい、休憩おしまい。ランタン仕上げに戻ろうか」
こうしてランタン作りに専念した俺達は、夕食までに6個仕上げる事が出来ていた。
皆が夕食を取っている間、俺はその6個のランタンに火を灯し、門の前に並べて置いて、子供達が本当に来るのか半信半疑で待った。
「TRICK OR TREAT」
子供がまだ1人も来ず、少々暇になった所で後ろからそう声をかけられた。振り返るとハクシャクンが大きな三角の帽子を被った姿で立っている。なんでも、魔女の仮装だとか。
「ねね、それ、なんて言ってるの?」
「ん?TRICK OR TREAT、だよ」
コッコツリ~?なんか違うよな…。
「トゥッコーツリ~?」
「TRICK OR TREAT」
もう少しゆっくり言ってもらいたい所なんだけど、サラッとそんな風に言われるとさ、なんかカッコイイな~なんて思える…例え大きな変な帽子姿だといえども。
「トゥッコリー??」
「…トリック オア トリート」
なんだろう、やけに単語がハッキリとした。それに、なんか全然違う言葉を言われてる気がするんだけど…まぁいっか。
そう言われたらハッピーハロウィーンってクッキーをあげるんだよね。
早く誰か来ないかな~ハッピーハロウィーンって早く言いたいなぁ♪




