月見草
全く動かないエドの横に座り込み、少しでも回復させようと月見草で傷薬を作って飲ませようとしてるのに、エドの体からは何の気配もしないし、ピクリとも動いてくれなくて。
気絶しちゃってるだけなんでしょ?
物凄い出血だもん、貧血で立ち上がれないだけでしょ?
ねぇ、エド…右目地面についちゃってるよ?痛いでしょ?なのにどうして痛いって言わないの?
そうか、コレって昇天レベルの怪我だし、痛覚飛んじゃったんだ。
そうなんでしょ?
そうでしょ?
「ねぇ、起きてよ…」
アンさんに龍の抜け殻を売ってもらおう。そしたらこんな怪我スグに治るよ。
ボンヤリと開いているエドの目、開いてるんだから起きてるんだよね?それにエドは元々気配を消すのが上手かったんだから、こんな状況でもそれが維持出来てるだけだ。大怪我なのに、気配のコントロールが出来るんだから大した事ないんだよ。うん、きっとそうなんだ。
「キリク…」
俺の肩に置かれたポチの手は、少しだけ震えている。
どうしたんだよ、ポチだって元は天使なんでしょ?昇天する魂を導いていたんでしょ?だったら、もっと酷い怪我をした人を嫌と言うほど見た筈だ。
なんで震えてるのか、全く意味が分からないよ。
「ポチ、出るわ…見せないで」
エドと俺の間に割って入ってきたペペは、上半身を倒してエドを見えなくしてポチに声をかけ、言われたポチは震えている手で俺の目を塞ぎ、上空から近付いてきたピヨがグッと俺を抱きしめて動きを封じた。
出るって、なにが?
なに?何が出るって?なに…なに?ねぇ、なにが出るんだよ!
フワリと微かに感じるエドの気配は、ゆっくりと上昇し始める。立ち上がった訳じゃないのは、分かる…これがどう言う事かも。
「嫌だ…嫌だ!エドォ!なんで?“奪う者”だろ?蘇りだろ?可笑しいよ!」
上昇を止めないエドの気配に、俺は堪らず大きく羽ばたいていた。そんな俺を必死に押さえ付けるポチとピヨ。それにペペまで加わって。
それでもなんとか目を塞いでいたポチの手を解く事が出来た。
見上げた空には、見た事もない1体の天使がいて、下からゆっくりと上がってくるエドの魂を、両手を広げて待ち構えていた。
どうして?
天使が消えた空を見上げながら、あまりの絶望感で涙も出ない。
エドが、昇天した。
何故?
聖水なんか飲んでないのに、蘇りは聖水を飲まない限りは昇天しない筈なんじゃないの?
「…友が1人もいなかったんだ…あいつは“奪う者”じゃなくなってたんだな」
隣で空を見上げているポチが呟いた。
だけど“奪う者”と言うのは“魔石”を使える事が出来る者の事を言うから、友がいなくても“奪う者”に違いない。なら、不死でい続ける為の条件として友の存在が必要だったとでも言うのか?
だったら俺はどうして不死なんだよ!俺に友なんかいないんだ、ポチ達はそれぞれが“奪う者”で……もしかして、自分に向かって青く光る“魔石”の有無?
アルとシノが去らなければ、エドは昇天しなかったのか?あいつらが樹海に戻らなければエドは…。
けど、その切欠を作ったのは、エドの家の屋根裏にいたボスを俺が連れ帰った事じゃないか。
今だって、俺が黙って樹海に行こうとしなければ。
飛んで行くと言う方法を取らなければ。
恐怖で体が硬直しなければ…。
全部俺のせいだ。
俺のせいでエドが…。
これ以上の絶望はないと思えた時、微かに音が聞こえてきた。
シュー、シューとガス漏れのような音はスグ近くで聞こえてきて、慌ててエドの肉体に目を向けると、黒煙をあげながら少しずつ溶けていた。
魂だけじゃなく、肉体まで消えるというの?
肉体すら残してくれないの?
「消えないで!」
月見草をかけても、飲ませようとしても、体は溶け続ける。
嫌だ、エド!
嫌だ…。
エドの体は骨だけになってもまだ煙を上げながら小さく、小さくなって……。
着ていた服だけを残して、消滅した。
消えた?
うん、消えた…俺のせいだ。俺が存在していたから悪いんだ。天使だって初めに拒絶された時、大人しく聖水を飲むべきだった。仲良くなろうとした結果が、コレだ。
なにが万能薬だ…そんな薬が何の役に立つ?
月見草?なにがレア薬草だ!なんの役にも立たないじゃないか!
こんな物!
足元に広がる月見草の花。思いっきり踏みつけようと足を上げたのに、脳裏には少し前に見たエドの、自信に満ちた顔が浮かんだんだ。
“これ、月見草だ!”
うん…うん。そうだよ、これ、月見草だよ…。
月見草を踏みつける事が出来なかった俺は、ゆっくりと足を降ろす事しか出来なかった。




