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ディスペル  作者: SIN


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蘇り

 ノンビリとした昼下がり。そろそろ樹海の辺りで薬草が咲く頃だろうか?と中庭に出て顔に当たる雨粒。視界の向こうには洗濯物が風に煽られている。

 恭治は買い物だし、カフラは台所で紅茶を淹れているから、ここは俺が取り込まないとね。

 シーツや服を抱え込んで、そのまま誰も使っていない部屋で部屋干しをする。

 平和だ…。

 本当なら早くエドに解毒剤プラスアルファの調合を教えたいんだけど、その材料となる薬草がまだ全部揃ってないからどうも出来ない。

 一応紙に書いて説明はしたんだけど、実施をして見ない事にはなんとも。それに、俺が生きていた時代と今とでは同じ薬草でも多少の変化があるかも知れないし。

 けど、その大事な薬草が揃わないんだからお手上げだよ。

 広間に戻ると丁度カフラが人数分の紅茶をテーブルに運んでいる所だった。

 あ、なんだか久しぶりにディルクの顔を見た。

 本当に友と交代でエルナさんを見ていたんだな、顔色は悪いけど、やつれているとかそんな感じは全くない。

 このままエルナさんの事はディルクに任せてて良いのかな?首も治ったし俺も何か手伝った方が良いよね。

 「ディルク、エルナさんの様子、俺も見て良い?」

 カフラが淹れてくれたレモンティーを飲みながら、少しだけ緊張しつつ名乗り出てみると、ディルクは一瞬物凄い目で俺を睨み、一旦目を閉じてからゆっくり開け、珈琲カップを眺めながら「いらない」と言った。

 一瞬だけ感じた激しい怒り…いや、殺意?確実に敵に対して向ける気配。

 そうか、俺天使だもん…天敵だもんね。

 冷静沈着なディルクの事だから、天使は排除って判断を下している筈なのに、こうして同じ空間にいて、普段通り接してくれている。きっと、エルナさんには近付かないと言うのが1番ディルクが望んでいる手伝いなのだろう。

 「屋敷では出来るだけ自分の部屋か広間にしかいないようにしてる。約束するよ」

 ティーカップをテーブルに置いてディルクに向かって手を出すと、珈琲カップを置いた大きな手が俺の拳に向かって軽くパンチしてきた。

 パシンと小さく鳴った音、少しだけ笑顔を見せてくれたディルクは無言のまま広間から出て行く。その後姿を見送る恭治は、

 「手伝うのに広間にいるとは、どう言う事でござるか?」

 と首を傾げた。

 恭治は優しいから、俺が天使だからだよって言うとディルクに対して何か文句を言うかも知れない。そうなれば今度はディルクと恭治が喧嘩になるかも…そうなった時、止められる人なんか誰もいない。

 化け物レベルで強い2人が本気で喧嘩なんか始めたら……想像するだけで恐ろしいよ。

 「俺って騒がしいでしょ?だから、大人しくしてるねって事だよ」

 ハハハと笑いながら誤魔化してはみたけど、ちょっと苦しかったかな?

 「あぁ、なるほど!理解いたした」

 そうでもなかったみたいだ。それにしても、恭治の中で俺はどれだけ騒がしい人物扱いされてるんだろう…。

 「おーい、依頼来てたぞ~」

 広間に1枚の手紙を持ったエドが入って来たので、俺は依頼内容を聞く為に大人しく着席した。

 「どうって?」

 簡単そうな内容だったら良いけど、難しそうならどうしようかな?けど、エルナさんに近付いて欲しくないディルクの思いを知ったんだし、蘇るまでは依頼で忙しくしてる方が良いのかも?

 「ん、ちょっと待って。今読む」

 と、手紙を広げたエドは、フンフンと小さく頷きながら読み始めた。

 「黙読とな!?」

 ぷっ!

 この流れ大好き。

 平和な、こんな時間を、もっと、もっといっぱい過ごしたいよ。皆に囲まれて、笑い合いたい。時々喧嘩もして、それでもちゃんと仲直りしてさ…もっといっぱい皆と色んな季節を見たかったよ。

 けど、もうおしまい。

 気配を感じる。

 この生活を終わらせる確かな気配が、すぐそこまで来てる。

 ドドドドドドド、バーン!

 走って来る足音が近付いてきて、勢いよく開け放たれたドア。そこにはディルクではなく、ディルクの友であるフウリが立っていた。

 「目ぇ覚ました!起きたっ…蘇った!」

 フウリの報告を聞いて皆は一斉に広間から出て行き、アッと言う間に静かになった。

 テーブルの上には人数分の飲み物と、さっきまでエドが黙読していた依頼の手紙が1枚。

 ディルクの部屋から感じるのは、紛れもなくアクアの気配。見に行くまでもない…。

 蘇りのメカニズムは分かった。

 聖水を飲む前に、俺の事をポチ達に聞かなきゃならない。

 「出て来て」

 声をかけると、いつもなら絶対に出て来ないルシファーまでが出て来て俺の前に立った。粗方俺が何を言いたいのか察しているんだろうと思う。

 「私は答えが出たわ。貴方はどうなのかしら?」

 確信的な言葉が何も含まれていないのに、その重要性だけが伝わってくるぺぺの声。

 天使が蘇りのメカニズムを知った…この事をエンゼルンに知らせたら、今後“奪う者”が蘇る事はなくなるだろう。

 いや、今はそこじゃない。

 「俺の中には、何が入った?」

 エルナさんの魂は天使により確実に導かれ、今はもう気配も何もない。なのに体は残り、蘇った。アクアの魂が体に入ったからだ。

 アクアは絶命の瞬間、強く未練を残した。それ故にシャドウになり、空になった体を見付け、入り込んだ。

 今ディルクの部屋にいるのはエルナさんではなく、アクアなのだ。

 可笑しいのに、漂ってくる気配が答え。

 皆の中にも何かが入ったから蘇った。なのにどうして生前の記憶が少し残っていたりした?俺なんか、生前の記憶を取り戻したんだぞ?それは何故?

 「天使が導けるのは人間の魂だけ。地上では悪魔も天使も似たような存在」

 知的な回答をありがとう、ピヨ。でもさ、知的過ぎてサッパリ意味が分からないよ。なに?悪魔の魂が導けないからこれからもどんどん“奪う者”は蘇るって言いたいの?悪魔と天使が似たような存在?え?じゃあ天使の魂も空になった人間の中に入れ……。

 「そっか!俺の中には天使の俺が入ってるんだね?」

 大きく頷くピヨ。

 まさかそんなセルフ蘇りをしていたなんて…しかもどうして骸骨になるまで待機したんだよ。もっと早く蘇る事は出来なかったのか?

 自分の事なのに、ここにきても天使だった頃の自分の事なんか全く思い出せない。可笑しいよ、魂は天使だった筈なのに、思い出したのは人間として生きていた頃の記憶ばかり。

 皆もそうなのかな?悪魔としての自分の事を忘れて、自分は“奪う者”の蘇りだって信じているの?

 いや、それにしたって、どうして魂の記憶が蘇らないで体の記憶ばかりを思い出すの?

 「魂は体を手に入れるだろ?」

 いつまで経っても俺が全ての答えを導き出せないでいると、焦れてしまったらしいポチが説明を始めてくれた。

 「うん」

 大人しく聞く事にして、頷く。

 「手に入れた体には、脳みそってパーツもある。魂だけの奴が自我を保てると思うか?」

 思わない…。

 じゃあ、今の皆は、魂は違っても、ちゃんと皆なんだね。

 皆から聞いた願いは、そのまま皆の願いなんだね。

 嬉しいのか、悲しいのか、良く分からない感情が湧き上がり、誤魔化すように視線を外した場所には1枚の手紙。

 手にとって読んでみると、差出人は港町にあるバーのマスターで、従業員が何人か辞めてしまって店が大変だから手伝って欲しい、と言う願いが書かれていた。

 今すぐに聖水を飲むか、それともこの依頼を最後にするのか迷う。けど、スグに答えが出た。

 聖水を飲もう。

 前にエンゼルンからもらった聖水の瓶、蓋に手をかけると自分の指先が震えている事に気が付いた。

 確実に昇天するって分かってるんだもん、緊張しない方が可笑しいよ。

 痛いのかな?

 苦しいかな?

 スグに昇天するのかな?

 飲んだ後はどうなるんだろう?

 怖いし不安だけど、ポチ達が見守ってくれているんだから、大丈夫。

 もしかしたら物凄く美味しいかも知れないよね、少しでも楽しんで飲もう。

 「キリクー、依頼だけど急ぎらしいから…」

 なんの気配も感じさせずに広間に戻ってきたエドは、俺が飲もうと手にしていた聖水よりも、ドンと立っているルシファーに目を奪われたのだろう、ドアを開けた状態のまま動かない。

 だから、俺は慌てて聖水の瓶に蓋をして、ペペに預けてから“魔石”に戻ってもらった。

 「急ぎなら早く行かなきゃね」

 誤魔化すようにレモンティーの入ったカップを持ち、俺は依頼が終わるまでの延命をした。


挿絵(By みてみん)

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