泣いて、笑って
本格的に泣き出したエドを落ち着かせるために黙ったままいると、向こうから恭治とカフラの気配が近付いて来た。
恭治は多分俺の様子を見に来る所だと思うんだけど、カフラはどうしたんだろう?確か俺に対して怒っていた筈…。
「主ら、そこで何をしておる?」
廊下で倒れている俺達を見下ろすカフラは、呆れた風に溜息交じりに言ってきたんだけど、その様子は怒っていた人物とは思えない程普段通りだ。
「エルナさんとディルクの様子を見に行きたくて…」
「そんな事は首が繋がってから申されよ!」
怒鳴る恭治が全てにおいて正しい事は分かってる。でも、不眠不休のディルクが心配なんだ!
「ディルクの様子を…」
「奴なら友と交代でエルナの様子を見ておる」
あ、え?あぁ…友と交代で?
なんだ…じゃあ不眠不休じゃないんだ?そっか、ディルクは元々兵士さんだから、その場その場での状況判断は的確で冷静なんだな、きっと。
「また…無駄な心配して…バカじゃねぇの?」
泣きながら悪態吐かれたって全然腹が立たないよ!
「エド、キリク殿を部屋へ」
コクンと頷いたエドは俺の上から退くと、そのまま抱き上げようとするから、自分で飛んで移動するって言ったんだけど…聞いてもらえませんでした。
こうしてベッドに戻され、恭治による傷の縫い直しを受けながらエドの泣き顔を眺め、カフラによる説教を受ける。
カフラによるとサクリアは今日、お店を閉めた後に病院へ寄って、首用のコルセットをもらって来てくれる事になっているらしい。
「お願いでござる、少しの間大人しくしていてくだされ」
何度も俺にそう言った恭治は、夕飯の準備があるからと部屋を出て行き、カフラは俺の両手足をベッドに縛り付けてから、
「サクリアが戻るまでそのままだ。よいな?」
と出て行ってしまった。
残ったのは、やっと泣き止んだエドだけ。
気まずいけど、何か喋らなきゃ…でも、何をどう言ったら良いのかが分からない。怒らせない話題って何かある?エドはなにが好きだった?
分からない…俺は昔、どうやってエドと仲良くしてた?
分からないよ…。
「…もう、1人で依頼行くな」
思いがけず、エドから話題を振ってくれた。
「今回のは、簡単だと思っ……」
「絶対、ぜぇ~ったい!次から俺を誘え!良いな?絶対だ!」
さっきまで泣いていたせいで鼻声だけど、エドからは激しい怒りの気配が漂ってくる。だから怖いんだけど…俺の足の骨を砕きに来ている時に感じていた、張り詰めたような…痛々しさって言うのか…悲しさ?は感じない。
「分かったから…もう、そんな怒らないでよ」
怒られてるんだけど、ギリギリな感じがなくなってるから、ホッとした。例えこれが一時的な物だったとしても…。
あぁ、また俺は余計な心配を。
「怒ってない!注意だ!」
え?なにそれ!?絶対嘘だ!確実に怒ってるじゃないか!
あまりにもビックリして、そのまま会話が途切れる。
怒ってないって本当なのかな?だったら、俺達はまた仲間になれる?いや、俺は天使だからそれは無理だ。エドだってそこまで深い考えがあって言った訳ではないだろう。
「あ、そう言えば依頼が来てたんだ」
ポケットから眼帯を取り出したエドは、それをつけながらボソッと言った。
「え?」
友がいないのに1人で依頼を受けるつもり?
あぁ、いや。心配はしちゃ駄目なんだった。それにエドは強いし、蘇り。どんな依頼が来たって大丈夫だよ!
「ちょっと難しそうなんだけど、行って来る。その挨拶に来たんだった」
難しそうだって!?
さっきは俺に1人で行くなとか言ってたくせに、自分は行くのかよ!俺にはポチ達がいたけど、エドは本当に1人なんだからな!?分かってんの?
恭治とカフラからは大人しくしてろって言われたんだけど、それ所じゃないよね?それにあの2人だってここにいたらエドを止めている筈だ。
必死になってカフラの包帯を解こうとしているのに、全く解けない。
だったら引き千切ってでもと力を込めても、びくともしない。
「待って、行かないで!心配し過ぎて禿げたらどうしてくれんの!?」
部屋を出て行こうとする背中に呼びかけ、立ち止まったエドが一言。
「育毛剤を土産に買って来てやるよ」
そんな問題じゃないから!
どうして1人で行こうとするのさ!しかも依頼内容だって聞いてないよ?何処でなにをするのか位教えてよ!何日位かかりそうだとか…そんな情報もなく行かれたら、心配しか出来ないよ。
心配するなって言うなら、心配かけさせるような事はしないでよ!
あ……あぁ、そっか…そうだ。今のエドの背中は、俺だ。
俺だって、何も言わないで依頼に行った。何日かかるのかも言わなかった。蘇りだから大丈夫だって…心配要らないって、こんな怪我までして。
怒られて当然だよ。
俺だって怒るし、エドが1人で依頼に行くって言った時、悲しかった。
「一緒に行きたい…」
一緒にいたい。留守番なんて嫌だよ。
ねぇ、エド。今の俺の気持ちが、そのままエドの気持ちなの?それなのに俺は「心配だ」とか言って留守番させてたんだね。
「じゃあ、次からは俺も誘う?」
部屋の入り口付近、そのまま出て行かれても俺は追いかけていけない。だから俺が嫌ならさっさと出て行けば済むだけなのに、エドはクルッと振り返ってくるとベッドまで戻ってきてくれた。
「うん」
返事をすると、無表情だった顔が少しだけ不貞腐れたようにそっぽを向く。
「嘘ついたら、バリカン持って寝込み襲うから」
え!?
「か、完全に刈る気だよね!?」
骨ならまだ自力でどうにか出来るけど、髪は自然に伸びるのを待つしかないんだよ!?折角、折角生え揃ってきたのにそれだけは止めて!
「パゲッパゲにしてやるよ」
ま、守らなければ!毛根を守らなければっ!
「やだやだ!」
「もれなく眉毛もツルツルな」
眉毛まで!?
「いやだぁ~~~」
それならまだ膝砕きの方が平和だよ。眉毛ってツルツルにされたらまた生えてくるの?蘇りの毛根もちゃんと聖水を飲まなきゃ昇天しないんだよね?ちゃんと生えてくるんだよね!?
「な?1人で行くと良い事ないだろ?」
フゥ、と息を吐いたエドはベッドの端に腰をかけ、眼帯を外して指でクルクルと振り回しながら…笑った。
「うん。1つもないね」
そんな満面の笑顔に嬉しくなって、今度は俺が泣いてしまった。




