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ディスペル  作者: SIN


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72/122

泣いて、笑って

 本格的に泣き出したエドを落ち着かせるために黙ったままいると、向こうから恭治とカフラの気配が近付いて来た。

 恭治は多分俺の様子を見に来る所だと思うんだけど、カフラはどうしたんだろう?確か俺に対して怒っていた筈…。

 「主ら、そこで何をしておる?」

 廊下で倒れている俺達を見下ろすカフラは、呆れた風に溜息交じりに言ってきたんだけど、その様子は怒っていた人物とは思えない程普段通りだ。

 「エルナさんとディルクの様子を見に行きたくて…」

 「そんな事は首が繋がってから申されよ!」

 怒鳴る恭治が全てにおいて正しい事は分かってる。でも、不眠不休のディルクが心配なんだ!

 「ディルクの様子を…」

 「奴なら友と交代でエルナの様子を見ておる」

 あ、え?あぁ…友と交代で?

 なんだ…じゃあ不眠不休じゃないんだ?そっか、ディルクは元々兵士さんだから、その場その場での状況判断は的確で冷静なんだな、きっと。

 「また…無駄な心配して…バカじゃねぇの?」

 泣きながら悪態吐かれたって全然腹が立たないよ!

 「エド、キリク殿を部屋へ」

 コクンと頷いたエドは俺の上から退くと、そのまま抱き上げようとするから、自分で飛んで移動するって言ったんだけど…聞いてもらえませんでした。

 こうしてベッドに戻され、恭治による傷の縫い直しを受けながらエドの泣き顔を眺め、カフラによる説教を受ける。

 カフラによるとサクリアは今日、お店を閉めた後に病院へ寄って、首用のコルセットをもらって来てくれる事になっているらしい。

 「お願いでござる、少しの間大人しくしていてくだされ」

 何度も俺にそう言った恭治は、夕飯の準備があるからと部屋を出て行き、カフラは俺の両手足をベッドに縛り付けてから、

 「サクリアが戻るまでそのままだ。よいな?」

 と出て行ってしまった。

 残ったのは、やっと泣き止んだエドだけ。

 気まずいけど、何か喋らなきゃ…でも、何をどう言ったら良いのかが分からない。怒らせない話題って何かある?エドはなにが好きだった?

 分からない…俺は昔、どうやってエドと仲良くしてた?

 分からないよ…。

 「…もう、1人で依頼行くな」

 思いがけず、エドから話題を振ってくれた。

 「今回のは、簡単だと思っ……」

 「絶対、ぜぇ~ったい!次から俺を誘え!良いな?絶対だ!」

 さっきまで泣いていたせいで鼻声だけど、エドからは激しい怒りの気配が漂ってくる。だから怖いんだけど…俺の足の骨を砕きに来ている時に感じていた、張り詰めたような…痛々しさって言うのか…悲しさ?は感じない。

 「分かったから…もう、そんな怒らないでよ」

 怒られてるんだけど、ギリギリな感じがなくなってるから、ホッとした。例えこれが一時的な物だったとしても…。

 あぁ、また俺は余計な心配を。

 「怒ってない!注意だ!」

 え?なにそれ!?絶対嘘だ!確実に怒ってるじゃないか!

 あまりにもビックリして、そのまま会話が途切れる。

 怒ってないって本当なのかな?だったら、俺達はまた仲間になれる?いや、俺は天使だからそれは無理だ。エドだってそこまで深い考えがあって言った訳ではないだろう。

 「あ、そう言えば依頼が来てたんだ」

 ポケットから眼帯を取り出したエドは、それをつけながらボソッと言った。

 「え?」

 友がいないのに1人で依頼を受けるつもり?

 あぁ、いや。心配はしちゃ駄目なんだった。それにエドは強いし、蘇り。どんな依頼が来たって大丈夫だよ!

 「ちょっと難しそうなんだけど、行って来る。その挨拶に来たんだった」

 難しそうだって!?

 さっきは俺に1人で行くなとか言ってたくせに、自分は行くのかよ!俺にはポチ達がいたけど、エドは本当に1人なんだからな!?分かってんの?

 恭治とカフラからは大人しくしてろって言われたんだけど、それ所じゃないよね?それにあの2人だってここにいたらエドを止めている筈だ。

 必死になってカフラの包帯を解こうとしているのに、全く解けない。

 だったら引き千切ってでもと力を込めても、びくともしない。

 「待って、行かないで!心配し過ぎて禿げたらどうしてくれんの!?」

 部屋を出て行こうとする背中に呼びかけ、立ち止まったエドが一言。

 「育毛剤を土産に買って来てやるよ」

 そんな問題じゃないから!

 どうして1人で行こうとするのさ!しかも依頼内容だって聞いてないよ?何処でなにをするのか位教えてよ!何日位かかりそうだとか…そんな情報もなく行かれたら、心配しか出来ないよ。

 心配するなって言うなら、心配かけさせるような事はしないでよ!

 あ……あぁ、そっか…そうだ。今のエドの背中は、俺だ。

 俺だって、何も言わないで依頼に行った。何日かかるのかも言わなかった。蘇りだから大丈夫だって…心配要らないって、こんな怪我までして。

 怒られて当然だよ。

 俺だって怒るし、エドが1人で依頼に行くって言った時、悲しかった。

 「一緒に行きたい…」

 一緒にいたい。留守番なんて嫌だよ。

 ねぇ、エド。今の俺の気持ちが、そのままエドの気持ちなの?それなのに俺は「心配だ」とか言って留守番させてたんだね。

 「じゃあ、次からは俺も誘う?」

 部屋の入り口付近、そのまま出て行かれても俺は追いかけていけない。だから俺が嫌ならさっさと出て行けば済むだけなのに、エドはクルッと振り返ってくるとベッドまで戻ってきてくれた。

 「うん」

 返事をすると、無表情だった顔が少しだけ不貞腐れたようにそっぽを向く。

 「嘘ついたら、バリカン持って寝込み襲うから」

 え!?

 「か、完全に刈る気だよね!?」

 骨ならまだ自力でどうにか出来るけど、髪は自然に伸びるのを待つしかないんだよ!?折角、折角生え揃ってきたのにそれだけは止めて!

 「パゲッパゲにしてやるよ」

 ま、守らなければ!毛根を守らなければっ!

 「やだやだ!」

 「もれなく眉毛もツルツルな」

 眉毛まで!?

 「いやだぁ~~~」

 それならまだ膝砕きの方が平和だよ。眉毛ってツルツルにされたらまた生えてくるの?蘇りの毛根もちゃんと聖水を飲まなきゃ昇天しないんだよね?ちゃんと生えてくるんだよね!?

 「な?1人で行くと良い事ないだろ?」

 フゥ、と息を吐いたエドはベッドの端に腰をかけ、眼帯を外して指でクルクルと振り回しながら…笑った。

 「うん。1つもないね」

 そんな満面の笑顔に嬉しくなって、今度は俺が泣いてしまった。


挿絵(By みてみん)

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