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ディスペル  作者: SIN


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71/122

聞きたい

 俺は、キリク。

 最北端の町で薬屋を営んでいた両親の間に生まれた子。

 天使ではなく、ちゃんと人間だった。そしてポチ達が言ったように、生前の俺はポチ達の本名を知らなかった。

 生前の事を思い出したと言っても、天使だった記憶がないんじゃあ何も変わりない。寧ろ変な記憶を見たせいで万能薬にかける思いが変わってしまった。

 作れたら作りたいな、って思ってた今までとは違って、作らなきゃならないって。そう思った。

 エルナさんが蘇ったら聖水を飲もうとしているのに、万能薬なんてどうやったら作れるんだろう?薬草も、時間も、知識も、全てが圧倒的に不足している。

 いや、毒と麻痺が同時に治療出来る薬を万能薬と呼んでも良いのなら、俺はもうソレを完成させていた。だったらその調合方法を町の薬屋に伝授しておけば、後はもっと薬の知識がある人の手によって万能薬は完成するだろう。

 そうと決まれば、薬屋に行こう。

 「うわっ!」

 ゆっくりと起き上がり、ベッドから出ようと足を床についた瞬間、曲がってはいけない方向にグシャッと膝が曲がってコケた。

 そうだ、俺の膝は毎日エドによって砕かれてたんだった。

 だからって諦める訳にはいかない!今はまだ俺の頭の中にしかない“なんちゃって万能薬”の調合方法を、1人でも多くの薬師に伝授…。

 先に首が繋がってからにしよう。

 こんな状態で出歩いたら、明日からエドにどんな目に遭わされるか想像が付かない。

 エルナさんが蘇るまでは怪我の回復に専念する。結局コレが1番良い時間の過ごし方なんだろう。

 なんだろうな…生前の記憶が蘇ったら、もっと飛躍的に変化があると思ってたけど、なにも変わらないや。

 あれ?

 どうして俺はキリクの記憶を見る事が出来たんだろう?だって、エルナさんを見る限りそれはありえないんじゃ…待てよ…皆は少なからず生前の事を思い出してるよね?って事は、エルナさんだけが特殊?

 皆の友に、かなりプライベートな事を聞かなきゃならないみたいだ。

 エドは?エドの事は誰に聞けば…樹海に行くしかない。アルとシノだってエドには会いたくないって態度だったし、人間とは関わりたくないって言ってたけど、俺、天使だし。

 いや…会わなくたって想像は出来てるんだ。

 生前はきっと強い絆で結ばれていた筈の3人。だけどシノはエドを簡単に切り捨てていたし、アルだって最後に意味深な言葉を残して消えた。

 エドがいない事を受け入れられる。それって、もうそう言う意味だよね…。

 首は繋がってないけど、1度エルナさんの様子を見に行こうかな。それに、不眠不休のディルクも心配だ。なら、また勝手に出歩いて怒られるのも嫌だし恭治と一緒に行こう。

 床に足を付くとまたこけてしまうので、上着を脱いで飛びながら廊下を移動する。

 なんだ、結構楽に移動出来るんだなぁ、しかも歩くのと違って1歩1歩の衝撃もないから首にも響かない。もっと早くに気が付いていれば良かったよ。

 広間に向かって廊下を進んで行くと、突然後ろから羽を捕まれた。

 全く気配がなく、あまりにも突然の事に防御姿勢すらとる暇もなく、そのまま廊下に落下してしまい、見上げてみると羽を掴んでいた者が俺を見下ろしていた。

 「何処行く気だ?」

 エドだった…。

 え、えっと、寝た振り!?いや、今まで飛んでおきながらそれは不自然か、じゃあ、えっと…しまった!俺の前に現われるなって言われてるのに、顔すら隠してない!

 首を1回外して背中に隠す?いや、そんな事をしたら後から恭治に怒られる。羽で隠す?と言っても俺の羽は小さいから顔まで届かない。

 そうだ!

 俺は“魔石”からポチを呼び出してエドの前に立ってもらい、さっきの質問の答えを呼び出したペペに耳打ちした。

 「はぁ…。今からエルナさんの様子を恭治と一緒に見に行くそうよ」

 これでエドからは俺の姿は見えない筈だし、声だって聞いてない。だから怒らせるような事はなにもしていなのに、エドは俺の羽から手を離さない。

 「動けるようになったら出てくんだよな?」

 羽を掴む力が一層強くなり、恐怖から俯いていると、視界に突如1つの眼球が入ってきた。

 どうして、折角姿を隠してるのに見てくるんだよ!いつも眼帯してるくせに、どうして態々見てくるんだよ!

 そっちがそんなテンションで俺を嫌ってくるなら、俺だって嫌ってやる!もう仲間でも友達でもなんでもないって思ってるのなら、俺だってエドをそうだとは思わない!

 「ポチ、ペペ、ありがとう。戻って良いよ」

 2人の背中を叩いて声をかけた後、覗き込んでくる眼球をピンッと爪で弾くと、羽を掴んでいた手が離れていき、廊下には呻き声が響いた。

 心配はしない。それが約束だから。

 「え?放っといて良いのか?」

 蹲るエドを廊下に残して広間へ向かおうとした所、後ろからポチの声がした。

 「姿も見たくない、声も聞きたくない。そう言ってるんだ、離れてやるのが優しさだろ?」

 仲直り出来ないなら、距離を開けて極力会わないように残りの時間を過ごす方がお互いのため…いや、俺の為だ。

 「それ、出てくって事かよ!?」

 目を押えて蹲っていたエドがユラリと立ち上がり、何の助走もなく物凄い高さまでジャンプする。その高さは、廊下の天井に頭がついてしまうんじゃないだろうか?というほどで、そんな勢いを付けて俺に飛び掛ってきた。

 「うわっ!」

 少しだけ浮いていた俺はドサッと床に体を叩きつけられ、両手をガッチリと押さえつけられてしまったので逃げられない。

 「足だけじゃ駄目なのか?どうすれば良いんだよ!」

 俺はただエルナさんの様子を見に行こうとしただけなのに、何でこんな目に遭わされなきゃならないんだよ!

 もう怒った!痛覚ないから分からないけど、今のこの上から飛びかかられた時、完全に床で頭打ったからね!首も繋がってないのに、後頭部を強打したんだからね!

 ここはルシファーを呼び出してエドを退かしてもらおう。そう思って真正面にあるエドの顔に向かって睨みをきかせたんだ。

 久しぶりにしっかりと見るエドの顔、回復が終わって血行が良い筈の顔なのに、ゾンビンだった頃と変わらないほどの濃いクマが出来ていた。それに、ポタポタと俺の顔に落ちてくる大粒の、涙。

 「…なんで泣いてるの?」

 どうしてそんなにも苦しそうなの?

 「お前が目に指突っ込んできたんだろ……」

 そうだけど…目が痛くて泣いてる姿はこれまでにも何度も見て来たから分かるよ。今の泣き顔は、痛みによる泣き顔じゃない。それに、気配を感じ取れるんだからそんな嘘だって通じないんだ。

 普段は本当に気配を消すのが上手いくせに…どうしてこんな所で急に下手になるんだよ。これじゃあ、また心配してしまうじゃないか。また…仲間に戻りたいって感情が芽生えてしまうじゃないか。また…守りたいって、思ってしまうじゃないか!

 どうせ嫌うくせに、どうせ…信じてないんだろって怒るくせに!なのになんで俺に構うんだよ!

 どうしたら良いのか、俺が聞きたいよ…。


挿絵(By みてみん)

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