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ディスペル  作者: SIN


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ガイコツン

 目的の樹海に着いたのは“黒き悪魔”討伐出発から2日経ってからだった。

 あの凄まじい気の波動が既に山から吹き付け、鳥は我先にと飛んで逃げて行く。

 俺達は逃げない。そもそも逃げるならここまで来てない。

 樹海の向こう、頂上付近だけ見える山を見上げると、またあのモノクロっぽい映像が脳裏に浮かんだ。

 映像の中の肉の付いた両手は、この映像が生前のモノだと言う証だ。

 手探りで何かを探していた俺は、指先に微かに触れたソレを慌てた様子で拾い上げると、ソレに走り書くようにして色々なメッセージを書き込んでいた。

 ソレとは蘇ってから見付けたあの手帳だ。

 腐食していてほとんどの文字が読めなかったあの手帳、今はその内容がハッキリと見て取れる。

 “奪う者”について、“魔石”について、“黒き悪魔”についてが細かく説明されていた。だから俺は知っていたんだ、自分が蘇る事も、蘇った時には記憶がなくなっていると言う事も。もしかしたらそれは生きている“奪う者”にとっては常識的な事なのかも知れない。

 手帳を雑にズボンのポケットに入れた俺は、また何かを手探りで探し始めた。そして何かの視線に振り返るとそこには…。

 「ガイコツン、そろそろ行こうか」

 俺の肩を軽く叩いているハクシャクンがいた。

「ガイコツン?どうしたでござるか?」

 心配そうに俺の顔を覗き見るオチムシャン。

 2人のこの様子から見ると、俺は相当長い時間を生前の映像を見て過ごしてしまっていたんだろう。

 そんな俺の顔を覗き込んで見たって何も分からないくせにさ、だって俺骸骨で表情なんか全くないし。

 こんな姿になって蘇った所でどうなる?今度は本気で灰だ灰。

 「…」

 なにを、こんな時に。これから絶対に勝たなきゃならない戦いを始めるんだ、新たな“奪う者”の犠牲を出す前に倒さなきゃならないってちゃんとした目的だってある。それよりなにより自分の仇だ。

 「行こう!!」

 凄まじい気の波動に押されながらも山の頂上に着くと、目当ての奴は悠然とそこにいた。

 “黒き悪魔”と称されるに相応しいまでの黒い服装と長くて黒い髪、エンゼルンが持っていた鎌よりも大きな鎌は所々欠けていて、それが恐ろしく光って見えた。背にはボロボロに羽の抜けた翼、血のように真っ赤な眼球が俺達を直視している。

 この目…覚えがある。やっぱり俺はコイツと戦っていたんだ。生前の俺って勇気があったんだなぁ。

 「フッ…死に損ない共が」

 笑ってるくせに全く微笑ましくない“黒き悪魔”の第一声に、身が引き締まった。スキなんか見せたらものの数秒で殺られる、そう直感したんだ。それは過去の教訓だろうか?

 「今日は死に損ない記念日にしよう。コイツを倒したって言う記念日だ」

 俺は戦闘態勢を整えながら皆の士気を高めようとそう息巻いた。

 「ソレ俺達の伝説に残る名言だね」

 隣にいたゾンビンがちょっと笑いながらそう言うと、フラケシュンは無言のまま剣を構えて、オチムシャンも刀を抜いて、ハクシャクンは友を“魔石”から呼び出し、3人でレイピアを構えていた。

 ジリジリと間合いを詰め“黒き悪魔”をグルッと取り囲むと俺達は一斉に攻撃を開始させた。

 四方八方から攻撃されていると言うのに“黒き悪魔”は余裕すら感じさせる動きで全てをかわしている。まるで霧のように実体がないモノに攻撃しているようだ。こんなのと俺はどうやって相打ちにまで持って行ったんだろう…。まさか弱らせもせずにそのまま“魔石”を押し付けたのだろうか?いや、そんな事すれば攻撃受けて即死だっただろう。

 当たらない攻撃ばかりを続ける事数分、やっと一発だけ当てる事が出来た。それは攻撃と言うよりも…事故と言うべきか…説明すると、ゾンビンの右目が風に煽られて“黒き悪魔”の腕に当たったのだ。だから現在ゾンビンは戦闘の前線から外れて後ろで蹲っている。

 始めは、完全に無防備なゾンビンが狙われると警戒していたんだけど、蹲っているゾンビンに対しては何と言うか…無関心って感じだった。だからもしかしたらコイツ、根は結構良い奴なのかも知れない。まぁ元々天使族だしね。だとしたら気になる事がある、何故天使族であるコイツが“黒き悪魔”と呼ばれるまで堕ちてしまったのだろう?

 「元々は天使族だったアンタが何故今“黒き悪魔”とか呼ばれてんの?」

 どうしてもその理由が聞きたかった。

 本当はもっと弱ってからにしようと思っていたのに、頭に浮かんだ瞬間勝手に口が動いたって感じだ。だから普通に攻撃されると思った。でも“黒き悪魔”は全員の攻撃を体に受けてしまっても身動きすらせず、俺を凝視していた。

 「まさか…お前は…」

 そう言ったままジッとしている“黒き悪魔”。だから俺は以前戦った時にもその理由を説いていたのかも知れない。

 「俺を知ってんの?」

 この場合、覚えてるのかと聞いた方が良かったのだろうか?そんな心配を他所に“黒き悪魔”は軽く頷き、その後も俺をただジッと見ていた。どうやら詳しく昔話を聞かせてくれるつもりはないらしい。

 その間もハクシャクン達の攻撃は続いていて…なんで動かないんだろ?さっきまでは幾ら攻撃しても軽く避けてたのにさ、絶対可笑しいと思うものの、これはまたとないチャンス。攻撃を受け続けて多少なりとも弱っている筈だから“魔石”に封印するなら今だ!

 当初から決めていた“魔石”を使うという合図を出すと、皆が一斉に反撃を警戒して背中に回り“黒き悪魔”に向かって“魔石”を突き付けた。勿論俺だってそうしたかったんだけど、俺が動くとそれに合わせて“黒き悪魔”も動くので、俺だけが正面からで…頭の陥没、これ以上酷くしたくないんだけどなぁ。

 「何故俺達が蘇ったのか…分からない?」

 封印の手を休めずにハクシャクンが尋ねている。

 そんな場合じゃないだろうとツッコミを入れそうになったけど、聞き出すにはもう今しかないのは事実だ。

 「それを知る為、俺は幾人もの“奪う者”を葬って来た…でも結局分からなかった…しかし…蘇ってほしかった者は蘇っていた。それだけで満足だ…」

そう意味深な言葉だけを残し“黒き悪魔”は計5個の“魔石”の中に封じられた。だからもう復活するのは難しい。それにハクシャクン達がその“魔石”を商人に売ると言ってたから、復活自体無理だろう。って事は俺の知りたかった真相は結局分からずじまいだ…新たな謎まで増えてしまった気がする。

 “黒き悪魔”は一体誰を蘇らせたかったのか、そしてその人物は既に復活していると言った。でも蘇った“奪う者”は俺達だけの筈、って事は俺達の中の誰かという事だ…一体ソレは誰だったのか…いや、考えなくたってそれが俺だって事は分かる。

 「終わったんだな…」

 下山の最中、不意にフラケシュンが言った。

 途中まではあんなに強かった“黒き悪魔”が途中から反撃すらせずに立ったままいた事への呆気なさからなのか、まだ皆がボンヤリとしている。

 「まだだよ、その“魔石”を商人達に売るまではね」

 一指し指を立てながら念を押すように言ったゾンビンの指先は、もう震えてはいない。

 樹海の入り口まで戻って来ると、俺は皆には何も言わずに奥に戻って歩いていた。

 全てが終わった今、このままハクシャクンの屋敷に居候する事がしっくり来なかったからだ。勿論そんな俺を皆は呼び止めていたし、今は俺の後を全員が着いて来ていた。

 折角入り口まで送ったのにこれじゃー意味がないよ。

 「俺、ここに残る事にしたんだ」

 蘇ったその場所に立った時、入り口に着いた時そう言ってから戻ってくればよかった。とか今更ながらに思いながらそう皆に説明した。

 「そっか…俺は店があるから今すぐ帰るけど、早めに帰ってくるんだよ?後、聖なる水なんか飲んで昇天したりしたら君の亡骸、変に改造して屋敷のレイアウトに使っちゃうからね、OK?じゃー君の帰りを屋敷で待つ事にするよ」

 ニッコリ笑顔のハクシャクンは後ろ手に手を振りながら真っ直ぐ出口の方向に向かって歩き出していた。きっとここへ来る途中何かしらの目印を着けて来たんだろう。

 「我も王がおられるハクシャクンの屋敷に戻らねば。ガイコツン、お前が我を連れ出したという事、忘れるな。お前が我に仲間を与えたと言う事、忘れるな。お前は我の友だ」

 そう言ったミイランは慌てた様子でハクシャクンの後を追いかけた。多分出口までの道が分からないのだろう。そんな2人の後を追うようにフラケシュンも歩き始めた。俺にたった一言、

 「待っている」

 と言い残して。

 残ったのは俺とゾンビンとオチムシャン。既に去って行った3人の姿はもう見えない。

 「拙者は何処に帰れば良いのか…拙者、生前は旅人であったのでござろう?」

 首を捻るオチムシャン。

 でもさ、目的は果たしたんだし好きにすれば良いと思う。ハクシャクンはあんな事言ってたけど聖なる水を飲んで昇天するってのも1つの手だとは思うよ?

 暫く考え込んでいたオチムシャンだったが、数回頷いた後、

 「ハクシャクンの屋敷に厄介になる事にいたした。これからの事は後々考えていこうと思うでござるよ」

 何かを吹っ切ったように清々しい笑顔のオチムシャンは、また真っ直ぐ出口に向かって歩き出していた。

 「今戻ったらただの駄々っ子みたい?」

 そんな後ろ姿を見送っている俺は隣にいるゾンビンにそう聞いてみた。

 「うん、ちょっとね」

 ハハハと笑うゾンビン。

 「俺と“黒き悪魔”って知り合いっぽかったよね」

 「うん、ちょっとね」

 表情も言葉も変わってないのに、何となく沈んでしまった雰囲気のゾンビン。

 あ~せめてもう少し生前の事が分かれば良いんだけどなぁ…いや待てよ、色々思い出したとしても後味悪くなるだけか?そうだよな、もし“黒き悪魔”が俺の友達か何かだったら俺2回もその友達封印して、結局的には殺したって事になるじゃん。そんな記憶が戻る位なら今の方がマシかもね。

 「なぁ、ガイコツン。俺さ、蘇った時すっげぇ不安で、怖かったんだ。町の人には魔物扱いされてるし、記憶はないし、自分の体は半分腐ってるしで、本気で泣きそうだった。でもガイコツンは町の人に追われてた俺の手を引いてくれた。こんな腐ってて汚い俺の手をだよ?飛び出したこの眼球も個性だって受け入れてくれたじゃん?嬉しかったんだ。ガイコツンとならこんな体になっても生きられる、そう思ったんだ…って事で、ガイコツンがここに残るってんなら俺も残るって事に今決めた」

 …前半のシリアストークは何だったんだよ。今後の事をそんな軽く決めて良いのかよ!確かに俺はゾンビンの手を引いて走ったし、飛び出した目も視野が広くて便利そう、でも砂とかゴミ対策は大変そうだな、位にしか思わなかったさ。

 何もない俺に比べたら、ちょっとだけ血色が悪くて、ちょっとだけ腐ってる。その程度の感想しかない。

 肉体があるゾンビンにとって樹海での暮らしはきっと大変だろう。まず食料調達は狩をするって事になるし、雨風を凌げる寝床作りから始める事になる。そうなると材料集めをしなきゃならないんだけど、木を切る道具がない。そんな苦労が分かった上で一緒に残ると言ったとしてもゾンビンは屋敷に戻るべきだ。

 どうにか説得できる言葉はないものかと視線を巡らせていると、視界に石が映った。その石は俺が蘇った時に頭の右側にあった石だった。

 蘇った状況を再現するように石の横に寝転び、見える景色から判断して顔の角度を調整してみる。

 「俺はここで蘇って、自分が何者なのか、何故蘇ったのか、その答えを探す為にここを出た。そして今、知れる所までの真相を全て知った。もう、動く理由がないんだよ」

そう言って目を閉じると、ハクシャクンの屋敷に戻る事に対して納得行かなかった説明が付いた。

 動く理由がない、本当にその通りだ。 

 「記憶もなく蘇って、色々知りたいと思ったのは皆もだし、自分の仇を討った今、次になにをしたら良いのか分からないのも、きっと皆だ。で、俺はガイコツンと一緒にいたいからここに残る。それだけの事」 

 ゾンビンは横たわる俺の横に豪快に寝転び、頭を石にぶつけて蹲ってしまった。

 なんでそう後ろを確認せずに思いっきり寝転べるんだよ…そんな注意力のなさでよくもまぁ樹海に住む~とか言えたもんだ。

 俺と一緒にいたいからって言葉は凄く嬉しいんだけど、それをも帳消しにする程の出来事になったのは確かだ。

 ゾンビンの目的が俺と一緒にいる事なんだったら、俺がハクシャクンの屋敷に戻ればそれで済む話し、なんだよな…。

 確かに蘇った時に記憶がないのは皆で、仇を討ったって状況も同じ。これからの事を考えるには皆が一緒にいた方が良い…とか色々考えても、もう結論が出てしまった後なんだからただの後付けにしかならないか。

 俺の目的はゾンビンを屋敷に戻す事、だね。

 「よぉ~し、駄々っ子2名帰ろうか」

 「おぅ!」

 勢い良く歩き出した俺達の前に突然エンゼルンが現れてこう言った。

 「考え直しましたけど、やっぱり昇天させるしかないと思いますの」

 だって。

 それはハクシャクンが言った事と全く同じで、思わず俺達は声を出して笑ってしまった。

 「ちょっと!待ちなさい!」

 走る俺達の後ろをエンゼルンは飛んで着いてくる。

 このままハクシャクンの屋敷まで逃げてさ、まだ着いてくるようだったら、また皆に追い払ってもらおっと。

 じゃあ今から捨て台詞返しの言葉を考えとかなきゃね。

挿絵(By みてみん)

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