大怪我
渋りに渋っているピヨを説得し、商人達の集う島までアンさんを迎えに行ってもらった。とは言ってもアンさんの都合もあるから、来てくれなかった時の対処法も考えないと。
せめてもう少し小さかったら独特な姿をした犬って事で屋敷に…無理矢理過ぎるか。第一連れて帰っても何を食べるのか分からない。
爪がこんなにも鋭いんだから草食って事はないよね…尻尾を振り上げての凄いジャンプ力なんて、狩をするのに使う能力だ。
「肉食、だよねぇ…」
としたら、今までは何を食べていたんだろう?こんな穴の中に餌となる生き物が…まさか、作業員をコッソリお持ち帰りしてた、なんて事はしてない…よね?あ、でもそれならさっきの作業員が助かっている説明が付かない。としたら肉食じゃない?
アンさんに来てもらわないと、色々と分からない事ばっかりだ。
そうだ、この子を連れて採掘場から離れた方が良いかな。作業員達は早く作業を開始させたいだろうし、そうしよう。
「キュッ!キュキュッ!」
抱き上げようとすると急に暴れるドラゴン。
「大丈夫だから、ね?おいで……」
ボタボタ。
あれ?
痛い。
「ギャッ!ギャァ!!」
ドラゴンは威嚇したように姿勢を低くして俺を睨み、高くジャンプして踏み付け攻撃を追加でして来る。
急に、どうしたんだよ…なんで、さっきまであんなに大人しかったのに、抱き上げようと…。
あぁ…そうだった。
ドラゴンの首には逆鱗って弱点がある。抱き上げようとして、丁度腕が当たっちゃったんだ。
作業員もきっと俺と同じような経緯であんな傷を負ったのだろう、俺が受けた傷も腕と喉だ。
だったらどうやってここから連れ出したら良いんだろう。
翼がないから飛んで行くのは無理だし、この子の足で細いハシゴを登って行けるとは思えない。それにアンさんが来た時、同じように抱き上げようとしたら…。
痛みがなんだ!俺は打撃やらそこらは効かない体。多少ボロボロになろうとも生身の人間に出来ない事は、俺がやるしかない!
待て待て、一旦落ち着こう。
もしここで俺が自棄を起こして抱き上げて上まで行けたとしたって、その後はどうなるんだよ。大怪我をしている俺を見た作業員がこの子を攻撃してしまうかも知れない。
ピヨが戻ってくれば、何か箱のような物にこの子を入れて、2人がかりで箱を持って飛んで出る事だって出来る。そっちの方が簡単だし安全だ。
じゃあ今の俺に出来る事は、アンさんが来てくれた時の為に出来るだけこの子を落ち着かせておく事だろう。
頭を撫ぜるのは危険そうだし、話しかけると言っても言葉は通じないし、ご飯?と言っても主食が分からない。
構い過ぎるのは良くないのかな?だったら傷の手当に全力を注ごう。まず痛み止めを塗って…の前に止血だ。えっと、あ、先に安静にした方が?
なんでも良いや、それより眠くなってきちゃったよ。
怪我の回復は基本寝て治せって言うよね?だったら一旦寝てしまおう。何がどう起きたって大丈夫、だって、俺は蘇りだもん……。
ギンギンと痛かった所が、徐々にジンジンとなり、そのうち何も感じなくなっていく。その間、寝たり、起きたりを繰り返しながら、どれほどの時間寝転んでいるのかも分からなくなる。だけど、ピヨの気配がしないからまだそんなに時間は経ってないのかも知れない。それにしては怪我の治りがやけに早い気がする。
まだ少し寝ていたいけど、流石に気になったので起き上がってみると、傷自体はまた全く塞がっていなかった。
「あれ?」
痛み止めを使った覚えも無いのに、全く痛くないのはどうして?
もしかして、と恐る恐るナイフで指先を切ってみて状況を把握した。俺の痛覚は、失われている。と言う事は、生身の人間だったら昇天レベルの傷を負っちゃったって事だね。
イカン!これがバレたらピヨによってドラゴンが倒されてしまう!
よし、眠気がぶっ飛んだ事だし手当てだ!傷を縫って止血して、痛覚がありますよーと思わせる為に痛み止めを大袈裟に塗っておこう。後は痛そうに顔でも歪めて…痛み止め塗ってるんだしそこは普通で良いかな。元気なさそうに寝転んどく?
寝たふり!これで決まり!
テキパキと小細工をして行く俺をドラゴンは首を傾げながら見ている。どうして生きているのだろうか?と不思議がっているのだろうか?それより、血だらけで意識の無い俺をなんともしなかったんだからドラゴンは肉食って訳ではなさそうだ。
聖水を飲まない限りは大丈夫、ズットそれは分かってた事なんだけど、実際それを体感しちゃうと妙な気分。こんな風に何も感じないなんて蘇ったばかりの事を思い出すよ。
ポチ達の事も何も覚えてなくて、誰も仲間がいなくて。あの時の俺はどうして平気だったんだろう?
行き成り魔王にも会いに行っちゃってさ、物凄い行動力だし。
「俺は今、何者なんだろう」
「キュ?」
自分自身に問いかけたつもりの言葉に、ドラゴンはまた更に首を傾げながら返事をするように小さく鳴いた。




