三毛猫
以前バトンを頂いた時に、コラボ、競演希望したい作家さんのキャラはいますか?と言う項目があり、そこで猫我好さんに「うちの猫を」と言って頂いておりましたので、調子に乗って書いてしまいました。
社交辞令や冗談を本気にするというスキルレベルは99です!
大事な事なのでもう1回言っておきます、
社交辞令や冗談を本気にするというスキルレベルは99です!
座り込んだまま動かないエドから少し離れた場所にいると、町の方からサクリアとディルク、カフラ。それにいつの間にか合流していたらしい恭治が歩いてきた。
町を空にしても大丈夫なのだろうか?と思ったのも束の間、樹海の方からこっちに向けてやって来る無数の気配がした。
このまま両者が進んで来るなら、戦いは免れないだろう。それなのに上空には1人の天使も飛んでいない。
そのクセ町の上空には数人の天使が飛んでいた。
「キリク、エド。ここにいたんだね」
俺は守るよ、絶対に…皆を守るんだ。
「俺が先陣を切るから、皆はここで俺が止め切れなかった魔物を食い止めて」
麻袋を頭から取り、樹海に向かって走り出そうとした所で後ろから伸びてきた鞭により足を封じられ、走ろうとした勢いのまま爽快にこけてしまった。
「我らの話も聞かぬとは、主は一体どうしたと言うのだ?少しは落ち着け」
落ち着いてる時間なんかないんだよ!だって、もうスグ魔物が樹海から出て来るんだよ!?話を聞いてる余裕だってないのに!
「町の周囲には兵士達がいる。それに、先陣を切るのは俺の役目だ」
グッと剣を構えて樹海を睨むのはディルク。
確かに、言われてみれば完全近接武器を持っている人が先陣を切るのは当然。俺も二刀流で近接、しかも機動力は高い。だけど1発1発の攻撃力は大剣をぶん回すだろうディルクの半分程だ。圧倒的な力を見せて敵の士気を下げるには…ディルクしか適任者はいない。
「ディルクの後を拙者とキリク殿。更にその後ろをエドとカフラ。サクリア殿は空からの支援でござる」
皆はちゃんと作戦を練っていたんだ…。
なんだか、1人で突っ走ろうとしていたのが馬鹿馬鹿しいよ。うん、皆で町を守ろう!ここにいる6人がいればきっと乗り越えられ…あれ?
6人、だよね?
先陣を行くディルクは準備運動なのか首をグルッと回していて、サクリアは低空飛行しながら武器の素振りをしている。エドは俯き加減で俺の後ろにいて、そんなエドの横には鞭でバシィンと地面を叩くカフラ。恭治は刀の鞘を握り姿勢良く立って樹海を見据えている。そして俺はカフラの鞭から自由になった体を起こしたばかり。
何をどう数えたって6人しかいないのに、いない筈の7人目の気配を感じる。
誰かの友の気配が“魔石”から漏れてる?としたって誰かも分からないのは不自然だ。
もしかしてもう魔物の攻撃は始まって?だけど攻撃的な気配ではない。
「クゥ」
緊張感溢れるこの場に、喉を鳴らしているような小さな鳴き声が聞こえた。
何処から?
キョロキョロと見回していると、さっきまではピシッと立っていた恭治がしゃがみ込んでいる。その足元には1匹の三毛猫。
さっきの声はこの子のものだったようだ。
それにしても、どこかで見た事あるような…しかも普通の猫ではない。7人目の気配はこの子で間違いない。
にしたって、何処で見たんだっけ?
「家族を探しに来たのかも知れぬな」
三毛猫を見ていると、同じく三毛猫に注目していたカフラが何気なくポツリと言った。
樹海にいる魔物の仲間?いや、だったらどうして今ここに?家族を探しに樹海に帰る途中?
「キリク殿が連れ戻った猫でござるよ。大きくなったでござろう?」
俺が連れて?
待って、今思い出すから…。
樹海から屋敷に連れて帰った覚えはない。猫…猫?
あぁ!そうだ、思い出した。
エドの家が潰された時、屋根裏から連れ出した子猫だよ!えー!?こんな大きくなったの?と言うか、今まで何処にいたのさ!?
あ、まぁ…屋敷に戻ってないのは俺の方だったんだけど。
スリスリと恭治の足に擦り寄っている三毛猫からは確実に魔物の気配がしていると言うのに、こうして眺めていると…微笑ましいと言うか…和むと言うか。なんかさっきまで色々難しい事考えてた気がするんだけど、なるようになるって楽天的になった。
今から戦いだってのに、すっかり癒されちゃったよ。
「皆、敵が出てきたよ!」
上空で樹海を見張ってくれていたサクリアが声を上げると、またピリッとした緊張感が漂う。
ザワザワと揺れている木々が風のせいでない事は気配を感じ取れなくても分かる。そして樹海から現れた魔物の軍勢。
「行くぞ!」
剣に手をかけ、物凄い速さで真っ直ぐに魔物の大群に突っ込んで行くディルクと、
「イザ!」
同じく真正面から向かう恭治。そんな恭治の足元には三毛猫。
身体能力がバケモノクラスの2人が全速力で向かってしまうと、追いつける人なんか誰もいない。
戦いの幕が下りる前に突っ込んで行くなんて、血の気が多いなぁ…じゃなくて、完全に出遅れた!
あの軍勢の中にアルとシノを探さなければならないってのに…とにかく急ごう!
急いで走り出し、少しばかりの異変に気が付く。
誰も攻撃を開始してない?
あれだけの勢いと気迫で飛び出して行ったディルクと恭治でさえ立ち止まり、何処からかヒラヒラと舞う淡いピンク色の花弁を見上げていた
「何があったと言うのだ?」
俺よりも少し早くに現場に到着したカフラの声が聞こえる。上空ではサクリアがこちらを見下ろしていて、やっぱり攻撃しようと言う素振りは見せていない。
魔物の軍勢に士気を奪われた?なら魔物側からの攻撃すらないのが可笑しい。それに気になるのはこの微量の魔力を纏うこの花弁。
ヒラヒラと落ちてくる花弁を掴んで見ると、それは季節的にはかなり可笑しな桜。術により出された花弁のようで、魔力の気配が消えるとスゥッと溶けるように消えてしまった。
「クルル」
微かな鳴き声に視線を下に向けると、そこには1匹の三毛猫。そしてハッとしたように武器を下げ、一斉に膝をおって跪く魔物達。そのお陰で俺は立ち尽くしているアルとシノを簡単に見つける事が出来た訳なんだけど、コレは一体どう言う事なのだろう?
なんだか良く分からないけど、今のうちに…いや、こんな静まり返った中でどうやってアル達のいる所までエドを連れて行くか、だよね…アル達を連れてくる?にしたってどうやって?
敵陣のかなり奥にいるアルは若。無闇に近付いたりしたら俺が原因で戦いが始まってしまうだろう。だったらエドを連れて…余計に駄目か。アル達がこっちに来てくれたら良いんだけど、それは難しそうだし…。
なんの解決策も見出せないうち、三毛猫から漂ってくる気配が強くなり、再び舞い始める桜。今度のは数枚がヒラヒラとか言う風流な感じではなく、大量の花弁が渦を巻くような激しさで、目もまともに開けていられない。
凄まじい魔力、だけど攻撃的な気配が感じられないのは不思議な感覚だ。
風の激しさが薄れて目を開けると、そこには大量に舞う桜の花弁と、遠くの方でこっちを見ているアルとシノだけがいた。
あれだけの軍勢が、一瞬にして消えた?戦わずに帰った?ボスを消されたケジメを付けるんじゃなかったの?
もしかして…あの三毛猫がボス!?え?そうなの!?ちょっと、誰か説明しに戻って来てよ!説明不足にも程があるよ!
とにかく、町を襲う気があるのか、ないのか、それだけでも聞きに行かなきゃ!
樹海に向けて走り出すと、アルとシノが近付いて来てくれた。
ちゃんとした説明が聞ける事と、エドとの仲直りをしてもらう最後のチャンス。そう思うと緊張する。
サクリアは歩いて来るのがエドの友だと思ったのだろう、町の様子を見に飛んで行き、ディルクは消え去った軍勢が町に入り込んだと思ったのか俺が目を開ける頃には既に町に向けて走り去って行ってた。そんなディルクを助太刀する為に恭治も町に向けて移動中だ。カフラは黙ったまま俺達を眺めている。
「ボスが戻られた。俺達はもう人間とは関わりたくない。以上だ」
3メートル程距離を空けた所で立ち止まったシノ。
やっぱりあの子はボスだったんだ…俺が見付けた時に子猫の姿だったのは衰弱してたから?にしてもどうやって“魔石”から出てきたんだろう?
けど、あれだけの数を一瞬で樹海に戻す術を使うんだから、衰弱する前はどれだけ強かったんだろう…そんなボスをどうやって“奪う者”は“魔石”に封じる事が出来たのか…待てよ、何人かの“奪う者”で封じた?
そんな事を考えたって今更答えは出ないだろう。そんな事よりも大事なのはエド達の仲直りだ。
「戻れる場所があるなら…戻れ。今まで連れ回して悪かった…。シノも、悪かった」
頭を下げたエドに声もかけず、シノはアルの手を引く。
その手を振り払ったアルは、消えずに残っている何枚かの花弁を拾い上げ、エドに向かって投げ付けた。
「エドがいない事を、ようやく受け入れる事が出来そうだよ…さようなら、ゾンビン」
何処となく不思議な言葉を残したアルは、頭を下げ続けているエドを少しの間眺め、舞う桜が消える頃、シノの手を握って行ってしまった。
結局、エドは2人の姿が樹海の中に消えるまで1度も頭を上げなかった。




