僅か
樹海と町の中間地点で足が止まって、これからどうしたら良いのか考える。
どうするのが正解なんだろう。
町に戻ってエルナさんの怪我の様子を見る?樹海に戻って魔物の説得をする?それとも、ボスを奪った事への罪を…。
待って、どうして町人は魔法石を作らなきゃならなかった?天使が来たからだ。
天使は何故町に?導く魂が存在していたから。
何故導く魂が存在したのか…魔物が襲って来るから?
じゃあ、一体何処がどう間違ってボスが材料にされた?
天使が来たから魔法石を作った訳じゃない?
ボス奪還の為に元々魔物は町を襲うつもりだった?
そうだ、確認しなきゃならない事があるじゃないか!
走って町に向かい、そのまま道具屋の中に入ってズラリと並んでいる人を無視してカウンターの前に立った。後ろからは順番を守れと怒声が聞こえ、腕とか頭とか髪とか引っ張られたけど、違うから!こんな1個25Gもする傷薬を買いに来た訳じゃないから!
「魔法石を最近作った?」
魔物は、ボスの気配が消えた時期を言わなかった。だから、もしかするとボスが材料にされたのはもう少し前なんじゃないか?って。
この町は前から魔物が襲ってきていた筈、だからエルナさん達がこの町に派遣されたんだ。だったら、大規模な攻撃はここ数日だとしても、魔物の復讐は既に始まっていた可能性がある。
「あぁ。兵士さん方が“魔石”を持ってくるようになったからな」
“奪う者”になる為に魔物がよく出るこの町に来た兵士達が、魔物を封じた後の“魔石”を持って来るって事は、何人かは“奪う者”になれたんだな。
その持ち込まれる“魔石”の中にボスが封じられていた“魔石”が混ざった?不自然だ。この町にとってもその“魔石”は重要な物だった筈、普通にしていて間違えるような場所に置かれている訳がない。
「空になった“魔石”を見せてくれる?」
「店の外にある木箱の中だ。まだ微量に気配が残っている物もあるから気をつけろよ」
店の外に置かれていたのは3箱にも及ぶ“魔石”の山。確かに微量に気配が残っているんだろう、いくつかは僅かに赤く光っていた。
この中にボスがいるかも知れない。もし見付ける事が出来れば、魔物を止める事が出来るかも知れない!
少しでも光っている“魔石”を選別していると、ここにいる筈もない人物の気配がして、思わず立ち上がって眩しい空の彼方に目を細めた。
小さく、小さく見える影は2人分で、大きな荷物を2人で持って真っ直ぐ飛んできている。
やっぱり、俺は気配を感じられるようになったんだな…これじゃあ、もう疑う余地がないじゃないか…。
じゃない!この町の中に魔物を入れちゃ駄目なんだ!
町の外に出て、更に少し離れてから両手を振り回していると、2人は俺の前に降りてきてくれた。
「頼まれていた物を持ってきたよ。ディルク達は何処にいるのかな?」
友のリッチと一緒に大きな樽を持ってやって来たのはサクリア。その樽の中には半分ほど傷薬が入っていた。
この量だと重さにして大体50キロはあっただろう。それをここまで運んでくるなんて。
「呼んでくるから、サクリア達はここでゆっくり休んでて」
エルナさんの所にいたディルクとカフラを連れてサクリアの所に戻ると、早速傷薬入りの樽を確認したディルクが樽を担ぎ上げようとしたんだけど、
「悪い知らせが1つあってね」
と言うサクリアの言葉に動きを止めた。
今よりも悪い事があるのだろうか?まさか、この場にいないエドと恭治の身に何か!?
「な、なに?」
違うよね?徒歩しか移動手段のないあの2人は屋敷で留守番をしているだけだよね?
心配過ぎて気が可笑しくなりそうな俺の背中をサクリアは笑顔で撫ぜてくれる。無言なんだけど、そんな対した事は起きてないって言われてる気がして、少しだけ落ち着く事が出来た。
のは束の間の事だった。
「俺達の町にも傷薬がないんだ。材料となる薬草も底を尽きたんだよ」
一大事じゃないか!
町にはまだ沢山の怪我人がいて、魔物は今夜もまた町を襲うって言ってるんだ。傷薬なしでどうやって戦えば良いの?
「これで最後と言う訳か」
溜息混じりにディルクが樽をコンと叩いた。
「うん。だからこれ以上怪我人が増えると大変なんだよ」
大変だ、そう言ってるクセにどうして笑ってるの?
決して楽しそうな笑顔じゃない。そうじゃなくて、もっとギラギラとした…なんて言うのか…怖い感じ。
怒ってるのかな?
「我らで魔物を食い止めよう。そう言いたいのだな?」
同じように笑ったカフラは、自分の武器である鞭でバシンと1回地面を叩くと樹海の方を睨んだ。
食い止めるだけじゃない、樹海にいる魔物を根絶やしにするつもりだ!
「正解」
ちょっと…正解、じゃないよ!
確かに魔物は町を襲ってるし、それで何人もの町人が犠牲となった。だけど、元を辿れば魔物はただボスを助けたかっただけなんだ。
大人しくしてればボスの命の保障はすると言ったクセに魔法石の材料に使った人間が悪いんだよ。
町から“奪う者”が誕生したらボスを開封するって約束をしたクセにそれを破った町人が悪いんだ…。
サクリア達が全力でかかれば、兵士達と戦って消耗している魔物に勝ち目なんてない。それにディルクはエルナさんを傷付けられているから戦う理由がしっかりとしてしまっている。
魔物が樹海から出て来た時、それが戦いの合図になるだろう。
止めなきゃならない!
「ね、ねぇ。エドは?」
この僅かに光る“魔石”とエドを連れて樹海にいる魔物に会わなきゃ。それも戦いが始まる前に!
今夜魔物は町を襲う…それまでになんとしても行かなきゃ!
「エドと恭治なら港町で傷薬を買ってから来るそうだよ。だから明日には来るんじゃないかな」
明日じゃ圧倒的に遅い…少し気まずいけど迎えに行くしかない。
あ、でも、顔も見たくないって言われてたんだっけ…消えろとまで言われてたんだった。いやいや、そんな事はこの際後回しに…しちゃ駄目だよね、エドを後回しにし過ぎたから嫌われたんだし…じゃあ、やっぱり頼れるのは仲間しかいない。
「ピヨ、ルシファー。エドを連れて樹海まで来て。出来るだけ早く」
2人はそれぞれ1回頷くと、きっと全速力なんだろう、物凄い速さで後姿が小さくなっていった。




