ミイラン
オチムシャンが仲間に加わり1週間。
ハクシャクンにだけ働かせてなんだか後ろめたくなっていた俺は1つの事を提案し、それによって今仲間達は完全に2チームに分かれてしまっていた。
俺が提案した事は、生きている頃にオチムシャンが言っていたもう1人の“奪う者”を探しに行くと言うものだった。
砂漠地帯にある不思議な三角の建物の中に、まだ見ぬ“奪う者”がいたと言うのだ。だから会いに行って見ようって。もしかしたら俺達の知らない何かを知っているかもしれないし、そう思ったから…でも砂漠地帯だというのでかなり強く拒否された。
「俺は店があるんだよ?」
と、ハクシャクン。
「砂漠なんて絶対ヤダ」
と、ゾンビン。
そして結局俺と、フラケシュンと、オチムシャンで砂漠に向かう事になった。勿論オチムシャンが道筋を覚えている訳はなく、ハクシャクンに用意してもらった地図だけが頼り。
取り敢えず南下だ。
道中襲い掛かってきた魔物を倒しつつ進んでいるんだけど、記憶がなくても何か勝手に体が動く。だからきっと戦い方は覚えてるんだろう。それはもうズット感じていた事だったんだけど、オチムシャンの戦い方が生きていた頃と全く変わらず見事で、だから再確認した。
小高い丘を何個か越えると急に視界が開け、ドンと広がる砂場を更に恐ろしいまでに巨大化させたような景色が広がった。
あそこからが多分砂漠なんだな。
砂漠をしばらく歩いていると少しずつ暗くなってきて、仕方なくその場で野宿する事になった。
「この辺りに見覚えはないか?」
それまでただ黙々と歩いていた俺達本日最初の会話がフラケシュンのこんな言葉だった。
記憶がないんだから見覚えも何もある訳ないのに、それをわざわざ声に出して聞くんだから、フラケシュンは無言だったこの数時間になにか思う所があったのだろう。
こんな俺にでも分かる。今、この場所に流れている空気は決して良い雰囲気ではない。
なんとかしようと思うんだけど、なにを言っても無駄な気もして、結局座り込んで地図を眺めているフラケシュンの隣に座って、同じように地図を眺めただけで終わった。
地図には砂漠地帯の事はのっていたが、俺達が目指している建物の事はどこにものっていない。
本当にあるのだろうか?ってのが率直な感想なんだけど、絶対何処かにはあるのだろう。だってオチムシャンがそんな嘘を俺達に教えたなんて思いたくないし。
「明日、またガンバロー」
片手を突き上げて元気さをアピールすると、オチムシャンは力なくだが笑顔を見せてくれたんだけど、フラケシュンはそんな俺達に背を向け、何も言わずに眠ってしまった。
…気まずい。
これならまだハクシャクンだけ働かせている後ろめたさを感じつつ暮らしていた方がマシだったかも知れない程気まずい。
もしかしなくてもフラケシュンも砂漠に来たくなかった?でもそれならそうだって言ってくれたらさぁ…。
「拙者のせいでござる…何も覚えていない拙者の…」
突然オチムシャンの声が聞こえた。
振り返ると、さっきまでは微かに笑っていたオチムシャンが、今は深刻そうな表情で俯いてしまっている。しかも、どうしようもない事を悔いながら。
「記憶がないのは皆一緒なんだから、責任なんか感じなくてい~の」
でも、何かやらなきゃならない事があるから生き返ったんだと思う。それは…きっとオチムシャンを殺したあのバケモノ、あいつを倒さなきゃならない気がするんだ。
まぁ、今の俺が行った所で今度は灰にでもされそうだけどね。
翌朝、1番に起きていたのはフラケシュンで、次がオチムシャン。俺はそのオチムシャンにやんわりと起こされた。
「ガイコツン、どっちに進めば良いんだ?」
太陽を見ていたフラケシュンが、目指している南とはまったく別の方角を指差しながら言う。多分方角が分からなくなったんだな。
「オハヨー。えっとね、こっちだよ」
俺は寝起きでちょっとズレてしまったアフロのカツラを戻しつつ起き上がり、先へと進んで歩いた。
「カツラだったんでござるな」
隣を歩くオチムシャンがそう言うと、その少し後ろを歩くフラケシュンが、
「そう言えばそのカツラをとった所を見た事ないな」
と、話を続けた。
昨日とは比べ物にならない程の和やかな雰囲気に嬉しくなった俺は、カツラをとって見せたんだけど、その途端に2人の顔が強張った。どうしてだろうと首を傾げてみて思い出す、俺って頭がかなり陥没してて…それを隠す為にカツラ被ってたんだっけ。
「言っとくけど、俺ハゲじゃないからな!」
なんて空々しく明るく振舞いカツラを付け直すが一回沈んだ空気が元に戻る事はなく、後はもう昨日と同じく無言。
やっちゃった~。
そんな空気を一気に変える出来事が起こったのは、そこから数時間後の事で、なんと、不思議な三角の建物があったのだ。
予想していたよりもかなり大きなその建物は離れていてもその存在が確認でき、見つけてから麓に行くまでに随分と歩いた。麓と呼んだのには訳があって、それは建物と言うよりも石を積み重ねて作られた巨大な山のようだったから。
入り口と思われる穴から中に入るとスグに俺達を拒絶したような声が聞こえて来た。たった一言“去れ”と。
この声の人物がオチムシャンの言っていた“奪う者”だと言うのは明白だった。だってこんな砂漠で何もない場所に生身の人間が住んでるなんて考えらんないし。で、まぁそんな事は良いとして、女の人だよ!もし仲間になってくれるんだったら紅一点だよ!
俺は“去れ”と言われた事にもお構いなく奥に進み、一枚の頑丈そうな石の扉の前に行き着いた。他に分かれ道もなかったしここが最終地点なのだろう。何か外見と違って中は結構狭い感じがする。でも天井だけはやけに高い。
「去れと言った筈だ!貴様我らの眠りを妨げる類の輩か!!」
扉の向こうからは強い口調で怒鳴る女の声がする。だからどうしても扉を開けて姿を確認したかったんだけど、押しても引いても何をしても扉はビクとも動かなかった。
「君さ“奪う者”だろ?生き返ったんだよね?“魔石”って言葉に覚えない?」
きっと中側からしか開かないんだろうと諦めた俺は、中の“奪う者”に向かって質問してみた。まずは軽い話題でフレンドリーになるのが基本だからね。
「“魔石”だと?…良く知っている…邪なる者を封じ邪なる者を討つ…“奪う者”と呼ばれる者達にのみ扱えるのだと。青き“魔石”を用いて邪を倒したとも書かれている」
よく知っている、と言う言葉に一瞬記憶があるんじゃないかとも思えたんだけど、違った。この“奪う者”は何かを読んでいるようだ。きっと訳も分からないまま書いてある事を俺達に聞かせたのだろう。
「じゃあさ、青色の“魔石”持ってる?」
「ある…お前もこの石が我の友だとか言うつもりか?」
言おうとしている事を先に言われてしまったがその通りなので正直に“そうだ”と答えると、突然中から笑い声が響いて来た。
「こんな石を友にせずともここには王がおられる、寂しいなど思った事もないわ!」
あ…寂しかったんだ?でも王がいるとか言った?って事は中には2人の“奪う者”がいるんだろうか?でもあの時オチムシャンは“1人”だと言ってた。それにこれだけいるのに1人分の声しか聞こえて来ないってのもひっかかる。
よし、次の質問だ、部屋の中に“奪う者”について書かれているなにかがあるのは確実なんだ、だったらもっと詳しい事が聞けるはず。
「君は…誰に殺されたのか知ってる?」
「我の棺に書いてあった。我は黒き悪魔に挑んで敗れたのだと。“奪う者”であった我は王の墓を守る守護神としてここに埋葬されたのだとな」
もしかしたらオチムシャンを殺したあのバケモノと同一なのかとも思ったんだけど、黒き悪魔、じゃよく分からない。でも、どうやら王ってのは“奪う者”じゃないみたいだ。
「君はいつ蘇ったの?」
「太陽が20回昇った…」
この“奪う者”妙に元気がなくなってしまった。だから俺はスグにでも扉を開けて中に入りたかったんだけど、やっぱり何をしても扉が開く事はなかった。
「待てガイコツン、今確か太陽が20回昇ったと言ったな」
体当たりでもしようと後ろへ下がった俺の行動をフラケシュンが止めた。
「っと言う事は中から太陽が見えているって事でござるな」
フラケシュンとオチムシャンは2人して大きく頷き、俺の手を引いて建物の外に出ると太陽の位置を確認した後建物を注意深く探り始めた。
「昇るって事は頂点よりも東よりでござるよ」
「穴ではなく石がずれていたりしている可能性もあるな」
そんな言葉を口々に2人は捜索を続け、俺も手掛かりになるような事はないかと考えながら意外と脆い石によじ登った。
えっと、うん、ここだ。
「この辺りの下があの部屋だよ」
そうやって数分後、俺達は石の隙間に部屋らしき空間がある事を探り当てた。覗いてみると中には2つの棺が並んで置かれていて、1つは豪華な金作りになっていた。
「聞こえる?」
と、隙間に口を当てて声を出すと、結構大きめの石が部屋に向かって落下した。
「やっと静かになったと思ったが、そんな所にいたとはな」
少々大きくなった穴から“奪う者”は俺達を見上げている。
「中は頑丈だったけど、外っ側はもろいね」
アハハと笑いながら手を付くと、今度はその石がズレて部屋に向かって落ちた。それによってバランスを崩して俺も落ちそうになったんだけど、
「早く出て来んと跡形もなく壊す」
とかなんとか言いながらフラケシュンが慌てて手を引いてくれたお陰で助かった。
「王の墓を守る為に存在するのなら、今出て来る事もまた守る事でござろう?」
俺達の説得に“奪う者”は2つの青く光る“魔石”を持って出て来た。
その姿は体の半分以上が包帯で覆われていて…うん、アレしかない。
「それでさ、ミイラン。俺達は“奪う者”で、ハクシャクンって言う仲間の所に集まってんだ」
「ミイランもこんな所でズットいるよりも俺達と来い」
「ミイランとやら、自分が何故蘇ったのかその訳が知りたくはござらんか?」
「待て!私にはカフラと言う…」
「ミイランが仲間になってくれたら紅一点、皆喜ぶと思うよ?」
「ミイランよ。いくら守ろうが“奪う者”ではない人間が蘇る事などない」
「ミイランとやら、自分を殺した相手に復讐したくはござらんのか?」
「~~~分かった!ミイランで良い!!共に行けば良いのだろう!」
そう言ってミイランは仲間になってくれた。
あっさりOKしてくれたのにはいくつか訳があったらしく、その1番の理由は、老朽化していつ崩れても可笑しくない場所で王を守るよりもハクシャクンの屋敷に移動した方が良いと思ったから、らしい。だから俺達は王のクソ重い金細工の棺をハクシャクンの屋敷まで運ばされたのだった。
王が蘇る事なんて勿論ないんだけど、一応屋敷の地下に棺を置いて、それでミイランは納得したらしい。まぁミイランも分かっているんだろう、普通の人間が蘇ったりしないって。それに…俺達だっていつまで動けるのかなんて分からない…。
取り敢えず今動ける“奪う者”は全員ハクシャクンの屋敷に集まったと言う訳だ。となるといよいよ俺達が生き返った理由を調べに入るのだろう。そして、自分がどうやって殺されたのかも…。
でもさ、正直な所、俺はこのまま気楽に皆と一緒に暮らせれば良いなって、そう思ったりする今日このごろでありました。ちゃんちゃん。