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ディスペル  作者: SIN
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オチムシャン

 フラケシュンが加わって数日、それまで平和だった屋敷内がちょっとしたパニックに陥ったのは、ある訪問者が切欠だった。

 その訪問者は町にある唯一の宿屋に泊まれなかった旅人で、なんと“奪う者”だと言った。でも間違っても死んでないし生きている。

 生きている“奪う者”に会うのが初めてだった俺達、しかしこの訪問者が蘇った“奪う者”を見るのは初めてではなかった様で、ここから遥か南に行った砂漠地帯の、不思議な三角の建物の中で1人見たと言う。

 一晩の宿を頼んだ訪問者は俺達に“魔石”に封じた1匹の魔物を出して見せてくれた。

 魔物はその訪問者の側を離れようとはせず大人しくしていて、首を傾げる俺達に訪問者は教えてくれた。“奪う者”はこうして封じた魔物と共に戦うのだと、かつては俺達にもこうして共に戦った友がいるのだと。

 友にならなかった魔物はコレクターに売ったり商人に売ったりし、その商人は封じられている魔物から魔力だけを抽出、それで色々な魔法アイテムを作るのだそうだ。そして空になった魔石をまた店で売るんだって。つまり魔法アイテムは魔物の成れの果てなのだ。

 重要な事をいっぱい聞いた俺は、取り敢えず頭に残った言葉だけを思い出してみた。

 共に戦った仲間がいた筈だ。

 フラケシュンを迎えに行った時、1人の魔物が大暴れしていた。もしその魔物がフラケシュンを殺したのが研究員の仕業だと勘違いしていたら?ああやって暴れたかも知れない。それに仲間だったと考えると、あのフラケシュンに対する執着の意味も分かる。

 「フラケシュンの仲間って、この魔物かも知れないよ」

 そう言って俺はあの日持って帰っていた“魔石”をフラケシュンに差し出した。すると今まで赤く光っていた“魔石”が青く光り出し、それを見た訪問者はニッコリと

 「間違いないようでござるな」

 と言った。

 “魔石”をしばらく見つめていたフラケシュンは、訪問者にやり方を聞きながら封じていた魔物を出し、出てきた魔物は嬉しそうにフラケシュンに寄り添った。

 「青く光る“魔石”はそー言う意味があるんだね」

 と、ハクシャクンはポケットの中から青く光る“魔石”を2個出し、訪問者は笑顔で頷く。ハクシャクンは続けて

 「数に限りはないのかな?」

 と、質問をした。

 「大体の“奪う者”は2体が限度でござるよ。何故なら友と雖も相手は魔物、数が増えればその分体力の消耗が激しくなるでござるから」

 訪問者はありったけの情報を俺達にもたらし、一晩泊まった後町を去って行った。その後を俺とゾンビンは追いかけている。

 その訪問者の動向が気になって、とかじゃなくて、俺達は友だと言われた青く光る“魔石”を持たずにいた。

 きっと目覚めた場所に置き忘れてきたんだ。

 と言う訳で、元いた場所まで取りに行く途中。でも向かう方角が一緒だから追いかけると言う形にはなっている。

 2日後、樹海が見えてきた所で俺達は別れた。ゾンビンは町へ、俺は樹海へ。そして訪問者は樹海の奥にある山へ。

 何故山に行くのかと聞くと、倒しておきたいモノがいるのだと言った。

 訪問者を見送った後、目覚めた場所に向かおうとして立ち止まる。道に迷ったとか1人で樹海に入るのが心細くなったとか、そんなんじゃない。

 普通樹海は同じような景色だから迷いやすいものだ。なのに俺は、ここからどう進んで行けば自分が目覚めた場所に着くのかと言う道順が頭の中にある。

 特に重要視する所でもないんだろうけど、こう言う無意識的な事って生前からの記憶と結びつく筈。なら俺は生前樹海の案内人だった?そこで賊かなにかに後ろから鈍器のような物で強打…ありえない話しではないか…じゃなくて、今は“魔石”を探しに行こう。

 道から外れ、生い茂っている草木を分け入って進んでいくと、突然モノクロ的な映像が脳裏に浮かんで来た。

 見えるのは草木を掻き分けながら何かを必死に探している両手。

 視点から考えるとこの両手は俺の手なんだろうけど、今とは違ってちゃんと肉が付いている。

 この映像は俺が生きていた時のもの?

 慌てた様子で何かを探している俺は、不意に感じた視線に振り返り…。

 「なにしてんの?」

 映像につられるように振り返るとそこにはゾンビンがいて、そのゾンビンは右手に青く光る“魔石”を2個手にしていた。

 「今から目覚めた場所に向かう所」

 そう返事をした後、もうあの映像は見えなくなっていた。

 「じゃー俺も一緒に探すよ」

 そうやって探し集めた“魔石”の数5個。うち2つが空で、残り3つは俺の手の上でほんのりと青く光っている。

 訪問者は青く光るモノが友であると言った。そして2個までが限度だとも言った。でも…3つあるんですけど?

 「ガイコツンスゲー。もしかしたらもっと探せばもっと出て来るかもしんねーな」

 ニコリと笑ったゾンビンだったが、急に吹いてきた突風に煽られ、飛び出した眼球が隣にあった木に当たってからは目を押さえて蹲ってしまっていた。

 風は山の方から吹いて来ているが明らかに自然的な感じではなく…こ~…邪悪的な何か?を感じると言うか、殺意?うんうん、それだ。

 アレ?待てよ、訪問者は倒しておきたいモノがいると言って山に向かった。って言う事は、その戦いが今始まったって事?

 訪問者はここに来る間に何度か魔物と戦闘になっていて、それを後ろから見ていた俺は普通に「強いな」なんて思ってて、倒しておきたいモノとか言われても、「あ、そう。いってらっしゃい」って特になんとも思わなかった。でも、分かる…訪問者は今、かなり不利な状況におかれてる。

 「山に行こう!」

 俺は隣でまだ蹲っていたゾンビンの手を引いて山道を駆け上がった。

 どんどん濃くなる嫌な予感。邪悪な気で満たされた空気が波打って、まるで勝ち誇ったかのように笑ってるみたいだ。

 一度立ち止まってしまったら足がすくんで動けなくなるような恐怖、こんなのがこの世にいたなんて…でも、何となく覚えがあるようにも感じる。

 もしかしたら俺、コイツに挑んで負けた?

 「ガイコツン、俺…もう駄目だ、これ以上進めない」

 俺の手を振り払ったゾンビンはそう言って立ち止まり、自分の体を抱き締めながらしゃがみ込むと、見て分かる程に震え始めた。

 見上げてくる目は完全に涙目だ。

 「ここで待ってて、俺はあの“奪う者”が心配だ」

 本当は立ち止まったままこの場で事の納まりを待っていても良かったし、実際そうしたいんだけど、それだとあの訪問者は…だからと言って俺が駆け付けても何になる訳でもないんだけどね。

 でも、いないよりかはマシだと思うんだ。

 山頂の方を見上げた時、それまであれだけ邪悪な気で覆われていた空がスッカリと晴れ、重苦しかった空気も今は普通で、逆にさっきまでのあの恐怖が嘘のように消えた。

 「ガイコツン…どーなってんだ?」

 「分からない…とにかく山頂へ急ごう!」

 再び走り出した俺達だったが、山頂に辿り着いた瞬間唖然としてしまった。そこにはあの訪問者がいたんだけど、胴体と首が別々の位置にあって…殺されていた。

 ゾンビンは首を拾い上げると胴体の所にまで持って行き、何処から出したのか針と糸で縫い合わせ始めた。

 「生き返るかも知れないだろ?」

 そう言われて改めてこの訪問者を見る。

 若くて綺麗な容姿、長い髪を後ろで縛った髪型、戦いの最中で刺さったのか頭には弓矢、和装姿に“~ゴザル”口調、もう1つしか思い当たらない。

 ゾンビンが首を縫い終え、俺達は訪問者の死体を担いでハクシャクンの屋敷に向かって歩いた。でもその道中に訪問者は目覚めた。

 「…そなた達は…拙者は…ここは何処でござるか?」

 つまり、ここは何処?私は誰?あんたら誰?と聞きたいのだろう。って事は即ち記憶が失われているって事。それでも自分が蘇った事は理解しているようだった。

 「オチムシャン“魔石”の事とかもすっかり忘れてる?」

 「オチムシャンは一体誰に殺されたのかは覚えてない?」

 「オチムシャン?」

 「オチムシャン、俺達も蘇った者でさ」

 「オチムシャンも“奪う者”だから絶対生き返るって思ってたんだ」

 「…拙者は…何も覚えてはござらん…何処でどのようにして殺されたのかさえ分からないでござる。“魔石”や“奪う者”とは何でござるか?」

 俺達はその後オチムシャン自身から聞いた“魔石”の話を今度は蘇り、何もかもを忘れてしまったオチムシャンにした。

 そして2日後、無事にハクシャクンの屋敷に着いた俺達は、見つけて来た青く光る“魔石”と、見事蘇ったオチムシャンをハクシャクンとフラケシュンに得意げに紹介した。

 こうして俺とゾンビン、ハクシャクンとフラケシュン、オチムシャンの気軽な生活が始まったのだった。

 勿論、かなりデカイハクシャクンの屋敷にはまだまだ空き部屋がいっぱいあるから、いつでも仲間募集中だよ。

挿絵(By みてみん)

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