祭
ガイコツンが樹海に行ってから屋敷の中はやけに静かになった。
皆の口数が減ったとか、そんなのじゃなくて静かに感じる。
「主、なにを呆けておるのだ?」
広間のソファーに寝転がっていると、紅茶を飲んでいたミイランが俺を見て軽く注意をしてきた。
「暇だなってさ」
特にする事も見付からないままソファーから立ち上がってみて、一応依頼箱を見に行ってみる。しかし平和なもので、ここ最近依頼らしい依頼は1件もない。
今頃なにしてんだろ…薬草煮込んで訳の分からないモン体に塗りたくってたりしてな…でも意外と物知りなトコあるし、痒み止めのすっごいの作って結構普通に暮らしてたりしそう。てか、手紙位くれても良いんじゃないか?あ~、紙とペンがないだけかもな…。
「ゾンビン殿?そのような所でどうなされた?」
買い物帰りだと言うのに手ぶらで戻ってきたオチムシャンが不思議そうに俺を見ている。
そんな所って、依頼箱の前だけど?ガイコツンが作って設置した依頼箱。ちゃんと寸法計ってなかったのか、右側が少しだけ長くて斜めになってる、依頼箱。
「なんもない。今日の晩飯なに?」
「今日は祭りでござる。夕飯は出店で食べようとのハクシャクンから伝言を頼まれておる故、これにてごめん」
祭り?なにかはよく分かんないけど、なんだろう、このワクワクする響き。出店で食べるって事は外食になるのか…俺の体、だいぶん治ったと思うんだけど大丈夫…だよな?まぁ、町の人達は俺の事も見慣れてるし、行っても良いよな。駄目って言われたら長袖着て、ガスマスク姿になってでも行ってやる。いや待てよ…祭りってんだからキツネのお面の方が雰囲気出る…のか?まぁ、出そうだけど…和服には寧ろピッタリな気さえしてきたけど、なんでまたキツネのお面一択だ?
夕方を過ぎて暗くなる頃、俺達はハクシャクンを先頭に市場に向かい、そこで色んな出店を見て回った。
金魚やボールをミニプールの中に入れて、薄い紙を張った輪っかですくい上げるというミニゲームや、1Gを水の張った水槽の中に沈んだグラスの中に落として入れるミニゲーム、くじ引きもあるし、市場の中心では何人かの町人が重たそうな何かを担いで大声をあげている。
どれもこれも始めて目にすると言うのに、何故だか俺はそれらの名前を知っていた。
金魚すくい、スーパーボールすくいに1G玉落とし、町人が担いでいるのは御輿だ。
「エド、どうしたの?やきそば食べに行くよ」
御輿を眺めていると後ろから酷く違和感のある名前で呼ばれた。振り返ってみると、そこには俺を見ているハクシャクン。そうだった、ハクシャクンは皆を生前の名前で呼び始めてたんだっけ。それに釣られたのかは分からないけどフラケシュンも徐々に生前の名前を使う事が多くなっている。
回復が完全に終わったのにあだ名で呼び続ける事に抵抗があるとか、そんな理由だった。と言う事は、今エドと呼ばれた俺の回復も完全に終わったんだろう。
回復が終わった時、右目は動かせなくなるんじゃないかって心配してたんだけど…至って普通に動き回す事が出来る。
試しに右目だけで屋台を覗いてみると、その煙がダイレクトに目に入ってしみた。
「ってぇ…」
こんな時、いつも傍にはガイコツンがいてくれたっけ…大丈夫?ってさ、全然関係ない背中とか摩ってくれたりしてさ…。
会いたいな…元気にしてんのかな?痒みが引いたら帰って来るって言ってたけど、多分回復が終わるまで帰って来ないんだろうな…それでもネガティブな感じで行った訳ではなかったから安心してたんだけど、実際こんだけ会ってないと寂しいだろ。
祭りだってのに、俺って暗いな…うん、こんなんじゃ折角の祭りが台無しだ。今日参加出来なかったガイコツンの為にも、俺がしっかり2人分楽しまねーと!んで帰って来た時にこんな事あったんだぞって教えてやんなきゃな。
気合を入れた俺は目が飛び出さないように眼帯を付け、金魚すくいに挑戦してみる事にしてしゃがみ込んでみたんだけど…ジックリと金魚を見たのが駄目だった。呼吸をするためなのか、水面から口だけ出してパクパクとしている大量の金魚の口が…口が…。
「ぅわぁ~…」
完全に戦意を喪失し、皆と合流して大人しくやきそばを食べる事にした。
「もうそろそろ花火が上がるみたいだよ」
空を見上げたハクシャクンに、それはなにか?と尋ねたオチムシャン。俺は花火がなにか分からないのに、漠然と怖い物だと理解し、やきそばを頬張りながら身を低くした。
「何をしておる?」
テーブルの下に隠れている俺を見付けたミイランが少し屈んだ時、ドーンと言う爆音がして真っ暗だった空に綺麗な花が咲いた。
え?これが花火?
「綺麗でござるなぁ」
ドン、ドドーン。
花火は次々と上がっては綺麗に咲いて散って、その美しさで俺は自然とテーブルの下から這い出して食い入るように空を見上げた。
違う、俺の知ってる花火はこんなじゃない…。
頭に浮かんだのはそんな言葉。けど、俺は花火なんて言葉さえさっき知ったばかりで…生前の記憶?にしたって、こんな綺麗なモノをどうして怖いなんて思ってたんだ?
しばらくして火薬の臭いが漂ってくると、また突然恐怖が蘇って来る。花火にではなく火薬に嫌な思い出が?でも最初は花火って言葉に恐怖を感じてたんだよな…俺は花火で倒された?いや、それなら腹にあった傷が不自然過ぎる。絶命したのは確かに“黒き悪魔”による攻撃だったが、実はそれ以前に花火で重症を?それだと“黒き悪魔”という言葉に恐怖を感じない理由が分からないよな…。
ドーン。
一際大きな音がして空を見上げると、大輪の花が咲いていた。
もしかしたら、この花火の音が怖かったとか?
まっ、今は怖くないんだし大した事じゃないよな。そもそも思い出せねー訳だし。
「ちょっと遊んでくるわ」
一応声をかけ、金魚すくいを避けながら出店を見て周りながらくじを引いたり、射的をしたりしていると、色んな商品がもらえた。
「これ可愛い」
あ、でもこっちのも捨てがたい…うわ~、これ何処に飾ろう?そうだ、皆は出店で遊んでないみたいだし、皆にもなにかお土産として商品を分けてあげよっと。じゃあ、人数分とりたいな。
こうして1時間ちょっと、やきそばを食べていたテーブルに戻るとそこにはオチムシャンだけが立っていた。
「皆は?」
「花火も終わった故、屋敷に戻ったでござるよ」
あ、そうなんだ?
なんだろうな…やっぱりちょっと静かになったよな…もし遊ぶ為に単独行動したのがガイコツンだったらさ、きっと皆は「何処に行った」とか「遅い」とか怒りながらもここで待ってたんじゃないか?って思ったりさ…。まぁ、そりゃその気持ちは良く分かるんだけど…ほら、ガイコツンって変にネガティブな所あるから、またどっかで自己否定して帰って来ないんじゃないかーって心配になんだよ。
皆が先に帰ったと言う事は、俺は全然心配いらないって安心されてる証拠だ。
「オチムシャンはここでなにやってんの?」
見る限り何も食べてないようだし、花火も終わったんだよな?遊びに行く為だって言うんならこの場に留まってるのは可笑しいし。
「拙者はゾンビン殿を待ってたんでござるよ」
えっと?
「皆帰ったよーって言う為に?」
そんなの、ここにいなきゃ「帰ったんだな」って判断して屋敷に戻るって。それなのにわざわざ待ってたのか?
「ぬ?一緒に帰る為でござるよ?」
一緒にって…皆はもう屋敷に戻ったんだよな?だったら皆と一緒に帰れば良いんじゃないのか?いつ戻ってくるか分からない俺を何で待つんだよ。
首を傾げながらこっちを見ているオチムシャンの事だ、多分なにも考えずに待ってたんだろう。なにも考えなくても人を待てるってんだから相当気が長いのかも知れない。
「オチムシャンって何色が好き?」
「そうでござるな…青色でござろうか」
あ~、確かに青色の着流しを着ている事が多いっけ。
「じゃあ、ハイ。これあげる」
くじの景品でもらった青色のスーパーボールを手渡す。
スーパーボールすくいのとは違って大きさが4倍程もある特大サイズの重量感たっぷりの代物、しかもマーブル模様のレア品だぞ~。
こうして屋敷に戻り、広間にいたハクシャクン達にも好きな色を聞く。もし好きな色が被っても大丈夫なように商品は結構沢山用意してるから大丈夫だ。
紫だと答えたハクシャクンに大きなスーパーボール、ラメ入りを手渡し、黒と答えたフラケシュンには大きな真っ黒のスーパーボールを。そして水色と答えたミイランに大きなスーパーボール、マーブル模様を手渡そうと鞄から出した。
「スーパーボール一択とな?!」
え?
喧嘩しないようにって同じのにしたんだけど…駄目だった…のかな?




