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ディスペル  作者: SIN
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フラケシュン

 俺達がハクシャクンの屋敷に住み始めて3日が経った。

 3人共‘奪う者’である事、生前の記憶がない事、そしていつ蘇ったのか、そんな意見交換も初日のうちには済ませていて、他に新しい手掛かりもなく時は平和に過ぎた。

 ゾンビンは飛び出す右の眼球を自由に動かせるようになり、ハクシャクンのダイエット塾も大盛況。

 この2人に腐食が進んでいる兆候は見られない。

 何故俺だけが完全な骸骨になるまで目覚めなかったんだろう?のわりに目覚めた時期は俺が1番早い。樹海で俺が目覚めて2日後にゾンビンが目覚め、その後ハクシャクンが目覚めた。

 俺が引き金になった?

 何がきっかけとなった?

 やっぱり“魔石”なのだろうか…一体“魔石”とは何なのか、“奪う者”とは一体何なのか…。

 魔王や魔王島にいた魔物達は確かにその存在を知っていた。そして俺に対して罪人のような扱いをした…つまり“奪う者”は“魔石”を使って魔物にとっては嫌な事をしていた人の事なのだろうが…それが何故蘇る?

 この時期ってのにも何か意味があるのだろうか?とは言った所で、記憶がないんじゃーどうしようもないけどね。

 「ガイコツン、ゾンビン。新情報持って来たよ」

 夕方、いつもよりも少し早い時間、ハクシャクンは慌てた様子も見せずに新しい情報があったと素晴らしい報告をした。勿論早くその情報が聞きたい俺とゾンビンはハクシャクンの周りを忙しなくうろついている。

 「生きている時に“奪う者”だった人の肉体を使って実験が成されているようなんだ」

 フフンと鼻歌交じりのハクシャクンは、お気に入りのソファーに優雅に足を組んで座り、

 「“奪う者”とは“魔石”に魔物を封じる技術に富んだ人の事らしい」

 と、目を輝かせながら続けた。

 “魔石”に魔物を封じる技術ぅ~?って事は俺も生きてる時はそんなたいそうな人だった訳か…で、何でそれが蘇ったりするんだろう?

 アレ?そー言えばさっき生きてる時に“奪う者”だった人の体を使って実験してるって言った?もしかして俺達はその実験によって蘇ったんじゃー…。

 「何処で実験してるの?」

 「ここからそう遠くないよ。この町を出て南に3キロ、そこに大きな屋敷があるらしいんだ。そこで“フランケンシュタイン”の実験が行われているんだって」

 ハクシャクンはそう説明しながらも自分は店があるから行けない事を俺達に告げた。

 3キロしか離れてないんだったら往復したって明日の開店時間には間に合うと思ったが、まぁ何があるか分からないしね。

 「俺達で行って来るよ」

 俺はゾンビンに確認を取ってからそう言った。

 「フラケシュンは仲間だしね」

 「“奪う者”って事はフラケシュンが蘇る可能性は高いよね」

 「フランケンシュタインだって…」

 「やっぱりフラケシュンも生前の記憶がなかったりするのかな?」

 「フラケシュンでどんな実験してんだろ~?」

 「…」

 「フラケシュンだけじゃなくて俺達“奪う者”全員にだったら?」

 「どっちにしろフラケシュンとは接触しないとね」

 「…ハイハイ。OK,フラケシュンね。で、何だって?」

 大きく溜息を吐いたハクシャクンに俺達は、フラケシュンを連れて戻ると約束して出発した。

 言われた通り南に行く事3キロ、確かに立派な造りの建物が見えて来た。

 あの中で“奪う者”を使って実験してる人がいるんだな。待ってろよフラケシュン、蘇るかどうかなんて分かんないけど、目覚めた時に体中が切り刻まれてたなんて事がないようにするからな!そんな事このガイコツンが許さん!!って、もうスデに手遅れだったらどーしょうもないけどね。

 「見張りはいないみたいだよー」

 ゾンビンが右目を伸ばして門の外から中の様子を伺っている。なにかの実験が成されているというのに見張りもいないのか?それにしても…、

 「ゾンビンの目って何処まで伸びんの?」

 「あ、やってみよー」

 そう言ってゾンビンは目を伸ばして見せてくれた。1メートル程伸びた時、それまで宙を飛んでいた目が重たそうにヨロヨロと低迷し、そして血管やら筋の重さに耐え切れなくなったのか、ポテッと地に落ちた。

 「ギャー目に砂入ったぁーー!!」

 ゾンビンは自分の右目を拾いに行くとポロポロと涙を流しながら砂が塗された眼球を吹いた。そんな後姿に、砂に目が入ったんじゃないかな?とは流石に言えない。

 「まだ痛い?」

 少しだけ休憩して潜入すると、ゾンビンは右目を伸ばして見張りがいないかを確認しつつ先行してくれた。んだけど、まだ痛そうにしていたし、何よりも涙が止まってない。

 「いたい~~~」

 正直に答えたゾンビンはその場に座り込んでしまったが、その行為と同時に建物の奥から人の、明らかに何かに怯えてるような叫び声が聞こえて来た。キャ~とかギャ~とかの悲鳴じゃないから何か喋ってるんだろうけど、発音がちゃんとされてないようなので、ただの大きな声としか言いようがない悲鳴。

 「これ、向かった方が良いのかな?」

 しゃがみ込んだまま動かないゾンビンは、声の聞こえた方を指差しながら涙の止まっていない両目で俺を見ている。どうやら今後の行動を俺に委ねたようだ。

 人の声がするって事は、実験室みたいなのがソコにあるって事。そこで悲鳴が聞こえたんだからもしかしたらフラケシュンが今、まさに蘇った場面だとか?それともなにか問題が起きて…問題が起きたから悲鳴が聞こえてるんだよね。

 ゾンビンの手を引いて騒がしい方へと進んで行くと、そこでは1人の魔物がもの凄い勢いで暴れていた。それなりに巨体な魔物が暴れているんだから実験室内は滅茶苦茶で、床には逃げ遅れた研究員?が身を低くして隠れていた。

 この状況は、なんと言うか…違和感がある。

 生きてる間に“奪う者”だった人を使っての実験をここでしていたなら、なぜ今ここで魔物が暴れてるんだろう?魔物を使っての実験だった?にしたって魔物が暴れる、なんて事は当たり前でしょ。なのにどうして何の対処法もないんだろう?

 「ガイコツン!あいつの後ろ!」

 床に伏せながら右目を伸ばしていたゾンビンは、魔物の後ろに何かあると言って顔を上げると、今度は魔物の方を世話しなく指差し始めた。

 うん、何かあるんだろうなって事はその様子で分かるんだけどね、俺の目は伸びないし、この位置からじゃあの大きな魔物の後ろなんて見えないからね。

 えっと、どうしようかな…。

 「これ、一体どうしたの?」

 とりあえず、床にうずくまっていた研究員に事の説明を頼んでみたんだけど、骸骨とゾンビである俺達の姿を見て魔物の仲間と勘違いしたんだろう、落ちていた石ころを突きつけて来た。その行為に俺達は顔を見合わせて首を傾げる。石を手にとって、投げ付けるならまだしも何故突きつけて来るんだ?

 「やはり“奪う者”にしか使えないと言うのか!!」

 石を手にしたまま後退さる研究員、でも“奪う者”にしか使えないって事は、まさかその石ころが“魔石”なのだろうか?

 「それって、魔石?」

 綺麗にハモッた俺とゾンビンの声に研究員は“そうだ”と何度も頷きながら、腰の抜けた体で一生懸命床を張って逃げようとしていた。でも、もっと聞きたい事があった俺達は研究員を連れて魔物が暴れ狂うその部屋を一旦後にした。

 「俺達は王の命令で“魔石”の研究をしていた…“奪う者”が蘇る原理を紐解く為だ。だが、“魔石”で魔物を封じる力を一般人にも扱えるようにする事を目標にしていた…」

 幾分落ち着いたらしい研究員は、まだ何も聞いていないのに自ら進んでポツポツと喋り始めた。

 なにをどう聞いたら良いのか分からなかったし、丁度良かったよ。

 「…全てを分かったつもりでいた俺達の研究は、魔石に封じられていた魔物を呼び出すまでに至った。しかし封じる事は出来なかった」

項垂れてしまった研究員、でも色々話してくれた後で悪いんだけど、何だって?重要な事ばっかり話すから理解するにはちょっと時間がかかりそう。

 えっと…とりあえずこの石ころが“魔石”で、この“魔石”に魔物を封じるんだ。で、“奪う者”は研究が始められるズット以前から蘇っていた事。後は…この世界に王がいる事も。まぁ魔物に魔王がいるように人にも王がいたって不思議はないか。

 とりあえず話の内容を理解出来た所で、俺達はその場に研究員を残して魔物が暴れ狂っている部屋に戻ってきた。

 これが“魔石”で、さっき研究員はコレを俺に突きつけていた。その上で“奪う者”にしか使えないのかって言ってたから、使い方は突きつける、んだろう。でも、そんな事で本当に魔物を封じられるのだろうか?

 とにかく、やってみるしかないか。

と、俺は手にした“魔石”を魔物に向かって押し付けてみた。

動きの止まった魔物は封じられる、と言うよりも「なにやってんだ?コイツ」的な感じで俺を見下ろし、軽く小突いてきた。

 一旦“魔石”を引いて、もう1度強めに押し付けてみるが状況は変わらず、魔物は、今度はコンコンと俺の頭をノックするように小突いた。それによって著しくズレたアフロのカツラを被り直しながらゾンビンが言っていた魔物の後ろ、を覗き込んでみた。

 いつの間にそこに行っていたのか、そこにはゾンビンがいて、1人の人間の、明らかに実験されてましたよって感じに切り開かれた状態の…多分、この人がフラケシュンだ。で、ゾンビンはそのフラケシュンの切り開かれていた傷口を針と糸を使って縫っていた。

 「テメっ!なにやってんだ?!」

 魔物は、慌てた声をあげながらゾンビンとの間に割り込むようにしてフラケシュンの傍に寄り添い、かなりきつく俺達を睨み付けた。

 「いや、だって…蘇った時にそのままじゃ怖いなって…」

 あ~、確かに怖い。

 「蘇った時…。テメェらも“奪う者”か」

 なにか1人で納得したらしい魔物は、フラケシュンの体をゾンビンに預けると、その傷口が全て縫い合わさるまでジッとしていて、終わると同時に俺が持っていた“魔石”に吸い込まれるようにして消えてしまった。

 少し赤く光る“魔石”。この場に置いて行こうと思ってたんだけど、俺達を“奪う者”だと知った途端なんか大人しくなった事とか、フラケシュンに対する執着?が気になって持って帰る事にした。

 さて、後はフラケシュンが蘇るのを待つだけだ。だからと言ってこの部屋で気長に待っている訳にもいかないから、ハクシャクンの屋敷に運ぼうかな。

 2人がかりで持ち上げたフラケシュンは、かなり重くて足が思うように進まない。1時間程は歩いたと言うのに振り返るとまだあの建物が大きく見えた。だからハクシャクンの屋敷に着く頃にはもう夜中になっていた。とは言ってもズットフラケシュンを担いで歩いていた訳でもなくて、フラケシュンはここまでの道中に目覚めていた。やっぱり記憶がないみたいで、でも“魔石”と言う言葉には聞き覚えがあったようだった。

 「おかえり」

 夜中だと言うのに寝ずに待っていてくれたハクシャクンは、いつものソファーに座って紅茶を飲んでいた。

 「約束通りフラケシュン連れて帰ってきたよ~」

 「あ、フラケシュン、こっちはハクシャクン」

 「俺はフラケシュンと言うのか?」

 「ハクシャクン、俺にも紅茶頂戴~フラケシュンもいる?」

 「そう言えばこの“魔石”はフラケシュンのかなぁ?」

 「俺には記憶がない。俺はフラケシュンと言うのか?」

 「…OK!」

 パンパンと2回手を叩いたハクシャクンは大きく溜息を吐いた後、

 「記憶がないのはお互い様、君は今からフラケシュン。OK?」

 と、人差し指をフラケシュンに突き付け、それによって頷いたフラケシュンは出された紅茶を美味しそうに飲んでいた。でも無意識なんだろうけど砂糖を3個もいれていたから生前はきっと物凄い甘党だったんだろうと思う。

 こうして“魔石”の秘密を知った俺とゾンビン、ハクシャクンにフラケシュンも加えた4人の共同生活が始まったよ~。

挿絵(By みてみん)

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