ハクシャクン
町から離れる為大陸を南下する事2日、そこには今まで見た事もない町があった。
この大陸に町は2つあったって今日、今、始めて知った。
その町はそんなに大きくはなかったが彼方此方で蒸気が上がっていて、ちょっと文明が発達しているように見えた。
町の外から様子を伺っている俺達に対する反応は皆無に等しい。だからもしかするとここには“奪う物”が大勢いるのかも知れない。
「なぁガイコツン、ここにいるのかな?仲間」
ゾンビンはそう言いながら背伸びをしたり、しゃがみ込んだりして町の中の様子を注意深く見回している。
「さぁ。でも俺達を見ての反応が全く違うから…もしかしたらいるかもね」
勇気を出して町の中に1歩入って、スグに出て再び外から様子を伺っていると、1人のオッサンがものすごい笑顔で俺達に向かって手招きしてきた。
どうしようか?と考える間もなく、オッサンは手招きしたまま歩いてくる。
町の人から追われた経験のあるゾンビンは、今にも走って逃げて行きそうな雰囲気なので、その腕を掴んでオッサンの到着を待ってみる事にした。
友好的かそうでないか、外から伺うより直接話した方が手っ取り早い。
「あんた達は魔物かい?」
オッサンは笑顔を絶やさないし、喋り口調も穏やかだ。それに俺達のこの姿を見ても魔物と決め付けずに魔物か?と尋ねてくるんだから、この町に蘇った“奪う者”がいる可能性はかなり高い。
「奪う者だよ。何も覚えてないけど一応ね」
オッサンは、うんうんと頷き、親切にもある一軒の店まで案内してくれた。そこはダイエット塾と称されている何処にでもあるような店…なのだろうか?で、中に入ると1人の男が俺達を迎え入れてくれた。見る限り腐ったような形跡もなく、どちらかと言うと美形だ。気になる事があるとするならこの男、牙のような歯が左右に1本ずつ伸びている。明らかに人の物ではないから魔物の一種なのだろう。
「おや?また珍しいお客さんだね。奪う者が2人」
男は俺達の素性をアッと言う間に見抜くと、その日の業務を停止させて自分の屋敷に案内してくれた。
町外れにあったその屋敷は昼間だと言うのに関わらず薄暗く、門飾りもおどろおどろしくて、一言で言うならお化け屋敷のような所だった。
「ようこそ俺の屋敷へ」
そう言って俺達を歓迎してくれた男は、窓を背にして立つと両手だけじゃなく、背中から伸びる立派な翼も大きく広げて見せてくれた。普通なら翼があると言うのは異常なんだけど、牙もあって魔物なんなんだろうな~と思ってたしで違和感はない。むしろこの立派な屋敷にも合ってると言うか…きっと伯爵だ。うん。
「ところでハクシャクン、この町に“奪う者”がいるの?」
町の人達も俺達を怖がらなかったし、明らかに人ではないハクシャクンが町に堂々と店を構えてるんだ、きっと“奪う者”が沢山いるに決まってる。
「ハクシャクン?俺の名前は…」
「ハクシャクンってここに1人で住んでんの?」
「ねぇねぇハクシャクン“奪う者”が他にもいるんでしょぉー?」
「…」
「ハクシャクンってその翼で空飛べんの?」
「ねぇーハクシャクンってばー“奪う者”の居所教えてよー」
交互に喋る俺達の質問を聞いていたハクシャクンは、大きな溜息と共に首を振ると不意にパンと手を叩いて俺達の気を引いた。
「OK、俺はハクシャクンね。で、何だって?」
ハクシャクンはもう一度大きく溜息を吐いた後俺達の質問に全て答えてくれた。ここでお供のコウモリ達と住んでいる事、自分以外の“奪う者”はこの町にいない事、背中に生えている翼で空を飛べる事、後はハクシャクン自身の事。
ハクシャクンは、数日前に目覚めた時には翼があったと言うが、その体の異変がズット前からあった物なのか、それとも目覚めた時に突然現れた物なのかは分からないらしかった。つまりハクシャクンも生前の記憶がないのだ。それに“魔石”と言う言葉にも聞き覚えはあるもののソレが何かは俺達と同じく分からないようだ。でも全く腐食が見られない事から死後そんなに時間は経っていない事が分かる。
後、あのダイエット塾は空腹を満たす為目覚めてから開業したらしい。ハクシャクンの主食は生き物のエネルギーだとかなんとか。そう考えると生前から人ではないよね、これ完全に。
と、言う訳で仲間が3人になった俺達、取り敢えずハクシャクンの屋敷が住処となりました。




