大掃除
俺達は今日“掃除”の最上級“大掃除”と言う催し物の真っ最中だ。
自分の部屋は綺麗に使いなさい。と言うハクシャクンの言葉を守って3日に1回は掃除するようにしてるんだけど、この大掃除は普段では掃除しないような所までも綺麗にするらしい。
窓のサッシとか電気傘とか…。
でも俺、そんな所の掃除も3日に1回してたから汚れてない。って事で、皆の様子を見にいこーう♪
廊下に出るとそこではハクシャクンの友達が廊下掃除をしていて、俺と目が会うとニッコリと綺麗に笑いかけてくれた。確か名前はリッチと言って、ハクシャクンと似たような翼が生えてる。
普段は見えないようにしてるとかなんとか説明してくれたんだけど、まぁいっか。
「ゾンビ~ン、大掃除出来てる?」
ハクシャクンの友達に笑顔を返し、伝わったかな~?とか思いつつやって来たのは、隣のゾンビンの部屋。
数回のノックの後に戸を開けると、ゾンビンは右目をいっぱいに伸ばして汚れている場所を探している最中だった。
「俺は後コレを捨てに行くだけかな~ガイコツンは?」
ゾンビンが指し示したのはゴミ袋3つ分のガラクタの山。
町によく出かけて行くゾンビンは、その度に何かを拾ってきたり買ってきたりするから、これらはそう言った物の一部だろう。
ゴミ捨てを手伝い、ゾンビンと一緒にやって来ましたオチムシャンの部屋。特に物音もしない部屋をノックしながら開けてみると、オチムシャンは窓掃除を綿棒まで使って物凄い丁寧にしていた。
普段は掃除しない場所も掃除、なるほど…サッシの溝と言うその発想はなかったなぁ~。
「お二人はもう終わったんでござるか?」
俺達に気付いて話しかけて来たオチムシャンに、サッシの溝まではしてないよとは答えず、
「まあね。普段から部屋の掃除はしてたからそんなに汚れてなかったんだ~」
と、答えた。
今から部屋に戻って溝まで綺麗にするのが良いんだろうけど、掃除終わった~ってテンションだし、ゾンビンと合流もしたし、今からはオチムシャンも連れて皆の所を回ろうとしてるんだから3日後に掃除する時にでも溝は綺麗にしようかな~なんてね。
「そうでござったか…拙者もこの窓掃除が最後でござるよ」
その後窓掃除を手伝った俺達は、フラケシュンの部屋に向かった。
フラケシュンの部屋には照明がなくて、机もなくて、って言うかベッドと剣以外の物はなんにもない。だから大掃除と雖も普段の掃除と変わりなく済ませてしまってる筈。
数回ノックして戸を開けてみると、太陽の光が差し込む部屋の真ん中で床に座り込んでいるシルエットが見えた。
「大掃除終わったぁ?」
不機嫌そうな顔してるんだろうな~と思いつつ話しかけると、フラケシュンがゆっくりとこちらを向いた…気がする。
「これからミイランの様子見に行くんだけど、一緒にいこー」
ゾンビンが部屋の中に向かって手招きし、フラケシュンはゆっくりと立ち上がると廊下に出て来た。
無言だけど“行く”と言う意思は伝わり、俺達は列を成してミイランの部屋がある地下を歩く。
そんな廊下にはゾンビンの友達2人がいて、2人は地下の使っていない部屋の掃除をハクシャクンから頼まれたと言って忙しそうにしている。だから長々と話を、とか言う雰囲気でもなく、邪魔にならないようにと足早にミイランの部屋の前まで移動した。
「ミイラン、大掃除終わったぁ?」
数回のノックの後開けた戸、部屋の中ではミイランが何か考え込んでいる様子で、中央にある王の棺桶を眺めている。
「どーしたの?」
右目だけ入室したゾンビンは、ミイランの顔を正面から見ながら声をかけた。それによって俺達に気が付いたらしいミイランは、いきなり視界に入って行ったゾンビンの右目を反射的に攻撃してから振り返ってきた。
ゾンビンただいま廊下で悶絶中。
「…今日は大掃除だな?」
うん?難しそうな表情で何か考えてると思ったら、そんな事を考えてたんだ?そもそも大掃除だってハクシャクンに言われたからこうして掃除を始めたのにさ。
「そうでござるよ?」
何も答えない俺達に代わり、オチムシャンが首を傾げつつも返事をした。
「普段は掃除しない場所も綺麗にするんだったな」
どうしたんだろ?
もしかして・・・ボケが始まっちゃった?とか声に出したらかなり激しく怒られるんだろうから黙ってるけどね。
ミイランは何回か軽く頷くと棺桶に視線を戻してもう1回頷き、その後再び俺達の方を見て、
「あの中を掃除する、手伝え」
と言った。
棺桶の蓋はかなり頑丈に閉められている上に重くて、俺達全員で持ち上げてようやく開いた。その中にも蓋があって、その中にもまた蓋、結局5枚もの蓋を外してやっと中身とご対面。
「これが王様なんだ…」
包帯に包まれた物体、それは人型をしている。
ミイランは取り外した全ての蓋を綺麗に磨き、その王様を大事そうに棺桶から出すと棺桶の中も綺麗に磨いた。そして最後に真新しい包帯を手に、
「包帯を換える」
と、宣言した。
こう言うのって王の祟りとか色々あるんじゃないだろうか?っても、棺桶の蓋を開けてしまった後なんだからもう遅いのかな?もしかすると、包帯を換えるって事は綺麗な状態にする訳だから、呪いじゃなくてご利益があるかも?
まぁ、やらないと言った所でミイランは納得してくれないか。
王様のミイラを床に置き、丁寧にゆっくりと包帯を解いて行くが、一向に中身が見えてこない。その代わりに、綺麗に人型に作られた植物の塊が徐々に姿を現した。
多分、王様のミイラと見せかける為に誰かが作ったんだろう。
何の目的で?
疑問には思うんだけど、随分昔の事だから解き明かすのはもう不可能なのかも知れな…ん?この植物、どっかで見たような?この枯れ具合と良い形と良い…あ、そうだ、間違いない。
「この植物って砂漠地帯に生えてたよね?」
「…確かに…似ているな」
俺の後に続いてフラケシュンも言い、それによってミイランは植物で出来た人形を無造作に持ち上げ、
「我はコレをズット王だと信じていた。王は暗殺された、その者の陰謀でこのような小細工が施されているのなら…我、この謎必ず解いてみせる!王をこの手に!!」
と、決意表明した。
えっと…この王様って暗殺されてたんだ…何故それを知って…あ、ミイランはこの棺桶の文字が読めるから、そこに書いてたのかな。
昔の人は、奪う者が蘇るって事で普通の人間も蘇ると信じていたって聞いた事がある。で、この王様が蘇るかも知れないから死体を残したくなかった暗殺者がこんな小細工をしたって事は十分考えられる。じゃー王様の死体ってもう何処にも存在しないんじゃ…って、こんな事言ったらミイランに千回は殴られる。
「じゃぁ、この重なった棺桶を1つずつ調べてみよっか」
何となく探偵気分になってそう発言すると、皆は頷いて棺桶の取り出し作業に入った。1つ取り出す毎にミイランは棺桶に書かれた文字を読んでくれて、全ての棺桶の文字を聞いた俺達はミイランの生きた時代の事が少し分かった。その中でも1番印象に残ったのが“太陽派と月派”と言う宗教的な言葉。何でも信仰する対象の違いから戦争まで起こったとかで…今じゃ考えられない。信仰の自由なんてミイランの時代にはなかったんだ。で、この王様が最後の“月派”だったらしい。王は最後まで月派を貫き、そのせいで太陽派を推し進めていた神官に暗殺されたのだ。
「王はその遺言通りカフラの元で眠りにつき、やがては蘇るだろう――…」
最後の一文を読み終えたミイラン。
因みにカフラってのはミイランが生きてた頃の名前らしい。
それにしてもこれで全文か…手がかりらしい事は何もなかったな…それに全ての棺桶には似通った事が繰り返し書かれてただけだし。
「我は1度あの建物に戻ろうと思う…何かが分かる気がする」
何者かの陰謀で王様が植物と入れ替えられた、だからそのお墓とも言えるあの建物の近くに本物の王様に通じるヒントがあるとは思えない。
ヒントを残そうとした人物だっていた筈…何処に残した?俺なら、どうする?
燈台下暗し。
「ちょっと、その前にこの人形分解してみない?」
今にも部屋を飛び出していきそうなミイランを止めて提案すると、僅かに頷いたフラケシュンが剣で人形を容赦なく真っ二つに斬った。すると剣は何かの障害物に当たったらしく、甲高い音を上げた。
その物体を拾い上げたミイランは注意深くそれを眺め、
「カフラ、奇跡の場所?」
と、書いてある言葉を呟いた。
えっと、カフラってのはミイランの事だからミイランの奇跡の場所って意味だ。でも、一体どー言う意味なんだろう?
生前の記憶がないミイランも何の事だか分からないようで、眉間に皺を寄せつつ考え込んでしまっている。
「ミイランの友達なら知ってるかも…俺、ちょっと呼んで来る!」
ゾンビンは部屋を元気良く飛び出し、5分程でミイランの友達引き摺るようにして戻って来たんだけど、余程急いで来たんだろうな、ミイランの友達は息を切らしている。
「教えてくれ、我の奇跡の場所とは何処だ?」
そんな息が整うのを待ってから聞いたミイランに友達は“う~ん”と考え込み、そして
「多分祈祷の場所だよ!」
と。
祈祷と言えばミイランが雨乞いの儀式をしたとか言う場所の事?成功したのかその結果は書かれてなかったけど、奇跡とか言われてる位ならきっと成功したんだ。
「それは何処だ!!」
地図を広げたミイランに友達は詳しい位置の確認をしているが…行くとなると泊りがけになるな…ハクシャクンに知らせて来ようかな。
そう言う訳で“奇跡の場所”に行く事にした俺とミイラン、フラケシュンの3人は、ハクシャクンに事の説明をし、
「心の整理をつける事も大掃除の一環だよ」
と、詩人のような言葉で見送られた。
オチムシャンは俺達の分まで屋敷の掃除を頑張ってくれると言い、ゾンビンは飛び出した目に砂が入るのを嫌って砂漠への旅を却下した。
「ここだよ」
丸1日かけて目的の場所に辿り着いてみると、そこは他の場所と違って石造りになっていて、崩れてはいるけど記念碑みたいなのが建てられていた。
ミイランが生きていた頃に建てられた筈の建物なのに、こんなにも古いんだな…。
「…掘り起こしてみよう」
時間をかけて記念碑の残骸を調べたけど、何の手がかりもなく、俺達はフラケシュンの提案通り記念碑を退かしてその下を掘ってみる事にした。
少しバチ当たりかな?とは思ったんだけど、ミイランが探してるのは王様の手がかり、じゃなくて王様自身。そもそも王様だよ?暗殺して小細工して、って言う方がバチ当たりだよね。それを正そうとしてるんだから俺達は褒められた行動を取っている…筈。
始めから掘るつもりでスコップはハクシャクンの屋敷から持参してるんだけどさ。
えぇ、もう、そりゃ~掘る気満々で来ましたとも。
ガッ!
掘り起こす事数十分、スコップが何かに当たった。石とは違った手ごたえと音に、俺達はただ無心になって地面を掘り、それで金色に光る蓋を見つけた。
きっとこれは棺桶の蓋だ、なら蓋だけじゃなく棺桶もこの下にあるんだろう。蓋を見る限りミイランの部屋にある棺桶と同じ位の大きさ、金色なんだから重さも同じ位あるんだろうな…。
発掘調査してる訳じゃないからガンガンスコップで掘り続けた結果、半日と言う驚異的な速さで完全に掘り出す事が出来た棺桶、中には包帯でグルグル巻きにされた何かがいる。それも人形ではないかと包帯を取っていくと、正真正銘ミイラだった。
棺桶の外には何も書かれてはいなかったが、中側にはびっしりと文字が書き込まれていて、それによると暗殺された王の遺体を密かに処分する事を知った王の側近が、この場所に王を埋葬しろと命じ、自身は王の身代わりとなって命を絶ったらしい。
と言う事は、このミイラが本物の王様なんだ。
ミイランは幸せそうな表情を浮かべ、その表情のまま棺桶ごとハクシャクンの屋敷に運べと俺達に恐ろしい事を言ったのだった…。
出発してから数えて3日目の夜、クソ重い棺桶を担いで屋敷に帰り着いた俺達を見てハクシャクンは“間に合ったね”と笑い、今日が大晦日だと教えてくれた。
こうしてハクシャクンが手作りしたらしいソバを皆が食べているのを眺め、遠くで鳴る鐘の音を聞いていると、皆でこうしている事がすっごく幸せなんだなって再確認させられて、それと同時に色々と…考えさせられる。
“黒き悪魔”を持っている事を黙っているのは絶対に正解じゃないし、いつまで動いてられるのか、なんて誰にも分からない。
今日、今、この瞬間が最後に…そんな事が起こりえるかも知れな……
「皆さん、今年最後の大掃除。皆で仲良く聖水飲んで下さい」
あ…あぁ、そっか。
皆は、折角のほのぼの気分に水を刺したエンゼルンに苦笑いを浮かべているけど、俺はちょっとだけ感謝してしまった。
もし、俺達が放っておいても昇天するんなら、エンゼルンがこんなにしつこく聖水飲めって言っては来ない筈。
いつ動けなくなるか分からないって状況は、自分で聖水を飲まない限りは来ない。それを気付かせてくれたんだから感謝するしかないんだけど、結局は昇天させに来てる訳だから“少しだけ”感謝。
俺達はいつものようにエンゼルンを追い出しに掛かり、そしてこれが今年最初の出来事となったのでしたとさ。