カフラ~ミイラン~
収穫祭を控えたある日、我は大きな仕事を任されていた。
年々砂漠化が進むこの地に雨を降らせよとの命が下ったのだ。
何故我が?と首を傾げてスグに思い当たった事がある。我の祖母は祈祷師で、幾度となく干ばつからこの地を救った英雄だったのだ。
なるほどな、と鼻で笑う。
神官達からすれば邪魔な我を始末出来る絶好の機会だ。
神官達は太陽を信仰の対象とするグループで構成されている。それと相成って我は月を信仰の対象とするグループの一員、今の王を月派に引き入れたのが我なのだ。
太陽派も月派も大昔からあった宗教の1つで、この2つの思想は交わる所が無い程に大きく違っていた。以前なら王がどちらを信仰しているかでそれを決めていたのだが、神官達は太陽派を無理に推し進めようとしていた。そこで起こったのが内部戦争、無駄な血を流し合う戦争が数年続き、今も尚続いている状態だ。しかし、数ヶ月も続く干ばつで井戸は枯れ、折角実った実も枯れていくと言う惨事に見舞われた。こうして我に神官達が祈祷を依頼したと言う訳だ。成功すれば“雨は太陽と対を成しえるモノ”とか言って我をさも太陽派であるように言うのであろうし、失敗すれば“この地を死に至らしめる気か”とか言って処刑するつもりだ。どっちにしろ我は殺される、そう言う訳だ。
成功しても殺される理由は、我は月派を信仰するグループの代表格だから。もし我が太陽派などと言う噂でも立てば月派の連中が黙っている訳が無い。
「カフラ!何故あのような仕事を引き受けたりした!!」
城の長い廊下の向こうから全力疾走でこっちにやって来ながらそう叫んだのは、今年成人を迎えられたばかりの若き王だった。
王が我をカフラと親しく呼ぶのには訳がある。歳も近かった我は幼き頃から王の遊び相手、時には勉学を教える先生として常に共にあったからだ。
「安心して下さい、手は打ってあります。奴らが驚愕する様をご覧いれましょう。それより…廊下は走らないで下さい。仮にも王ですよ?」
フゥと溜息を吐いて思い出した。そうだ、もうこんな口をきける相手ではなかったのだ。
「ゴメン。でも、俺カフラが心配で…」
「…王、我の心配ではなく干ばつに苦しむ多くの民の心配をして下さい」
それでは、と言って我は早々にその場を離れる。王は数歩だけ付いて来たが、向こうから家臣の呼び声がして、そっちに歩いて向かっていた。そうだ、これで良いんだ…我は一家臣、魔石を使って魔物を操ると言う特別な力を持っているとて、それ以下でも以上でもない。
さて、そんな事より考えなければ…何の策もないのに“手を打ってる”なんて大見得切った手前、何もないじゃ格好つかない。それに神官達をギャフンと言わせる何か…ないだろうか?まぁ簡単に思い付くのが“月の下で祈祷する”事。派手さは全くないが月派である主張にはなる。
「カーフラ。あんた本当に素直じゃないんだからぁ」
魔石から出て来たのは下半身が蛇の形した魔物、我の仲間だ。でも突然出て来るからビックリする事が多い。
ラミアと名乗ったこの魔物は、しょっちゅうこうして勝手に出て来た。しかし、もう1人の仲間であるアクアは呼ぶまでは絶対に出て来ない。どちらが良いのかは分からないが突然話しかけられない分アクアの方が良いような気がする。
「ラミア、今はまだ呼んでない。魔石に戻っておけ」
そんな事を言った所で1度出て来たラミアは自分の気が済むまでは絶対に魔石には戻らない。だから半分は諦めてはいるが、ここは城内だ。家臣の目もある事だし極力避けて欲しいものなんだが。
「そんな事よりカフラ、雨乞いの儀式どーすんの?策があるってのは嘘なんでしょ?」
流石は友、全てお見通しと言う訳か。
「大声を出すな。ここには神官共も出入りしてるんだ」
そう言って自室に戻った所で思い付いていた事をラミアに打ち明ける。“夜に儀式を行う”と。するとラミアは、
「それだけの事で作戦って呼ぶには随分大層ね」
と鼻で笑ったが、他に良い案を出してくれると言う訳ではなく、ただ“満月の日が良いかも”と言っただけに留まった。どうやらラミアと我の思考は似ているようだ。
と言う訳で後の作戦はアクアに相談する事にした。
魔石から現れたアクアは既に相談内容を魔石の中で聞いていたらしく、何か考え込んでいる様子でゆっくりと出てきた。
「かなりシンプルだが…それが1番良い方法だと俺も思う…後、言うならば月神の名を何度も口にした方が良いだろう」
いつも的確な答えをくれるアクアが我の友になったのは1ヶ月程前、砂漠で倒れている所を助けたのが切欠だ。水魔であるアクアにとって砂漠と言う環境は厳しく、我が声をかけると自ら進んで魔石の中に入っていた。そしてその場で“友になる”と契約したのだ。
アクアのように頭の良い者が何故砂漠に足を踏み入れたのか、そして何故我の友となったのか、以前尋ねた事がある。するとアクアは、全ては運命だったのだと言った。
「どっちにしろ雨が降らなきゃ死刑だ」
雨乞いの儀式と言えば何日もかけて祈りを捧げると言うのが普通だが、あの神官共がそう何日も時間をくれるとも思えない。加えて月の下で行う祈祷など1日与えられて良い方だ。なら雨は儀式を始めて数時間内に降らせなければならないと言う無理難題著しい計算になる。
雨が降りそうな雲行きになるまで儀式を先延ばし、という訳にも行かず、儀式は既に“収穫祭前の1週間前後”と言う事が決まっている。
無理、だな。
儀式当日、王が直々に用意してくれた衣装に身を包み、満月を前に手を合わせた。
見渡す限り雨を降らせるような雲はない空には、星まで綺麗に見えた。
神官達は不機嫌そうに腕を組んで立ってはいたが、中には目障りな我を消せる喜びを隠し切れずに笑顔を見せる者もいる。
「月の神イアフよ。我の願いを聞き入れたまえ…」
そんな神官を横目に神の名を呼ぶが…不思議なものだ、あれほど絶対神だと崇めてきた月神に祈りを捧げていると言うのに、ちっとも救われる気分にはなれない。それどころか儀式の失敗を既に覚悟していた。
我は…実は何も信じていなかったのだろうか?
「カフラ!頑張れ!!」
完全に諦めた時、王がそう声を上げた。
そうだ、我は王の為に失敗は出来ないのだ。王は月派、我が失敗したとあれば神官達は王の身も危険に晒すだろう。それだけは何としてでも阻止せねばならない!しかしどうすれば良い?さっきより雲は増えたが、それでも雨を降らせるような雲ではない。後数時間で夜が開ける、タイムリミットは目前だ。どうすれば…。
「俺に…任せろ」
スグ側でそんな声がした。
何故だ、何故呼び出してもいない筈のアクアの声が…。
アクアの声がして数秒、空から水が降って来た。それは雨と呼ぶには優しく、少量だったが、畑を潤すには丁度良い程の水だった…コレは雨ではない、きっとアクアが空気中にある水分を集めて液体として降らせているんだろう。しかしこんな大掛かりな技、大丈夫なのだろうか?
「雨雲もないのに雨が…カフラ様万歳!!」
何も知らない民は大いに沸き上がり、我は“神官達の驚愕の表情”を約束通り王に見せる事に成功していた。
「カフラ様万歳!月神万歳!!」
そんな歓迎の言葉が心苦しい、コレは我の力ではなくアクアの技だ。我はなにもしていない、それなのにこんな喜ばれるのは…。
部屋に戻りアクアを魔石から呼び出すと、案の定グッタリとしていた。またラミアが勝手に出て来てアクアに大丈夫かと尋ねているが、アクアは何の反応もせず、ただ苦しそうに顔を歪めるばかりだ。
「魔石の中にいた方が楽か?」
「カフラ…俺はしばらく動けない…頼む…開封しないでくれ…1ヶ月もあれば…元に戻れる…だから…開封しないでくれ」
動けないなりにも必死になって頭を下げるアクア。
動けなくなったからと言って友を開封すると本気で思っているのか?それにアクアは水魔、こんな砂漠の地で開封なんかすれば1日だって生きてはいられないだろう。
「分かっている。安心して眠れ」
「俺にとってカフラは…唯一絶対の…神だ…」
魔石に戻りつつアクアはまた我に頭を下げていた。
「かなり信仰されてんじゃ~ん。じゃぁカフラの唯一絶対神は王だね」
ラミアはそうからかってはいるが、確かにそうだと思う。我は月派でも勿論太陽派でもなく、ただ王と言う存在を慕っているのだ。こんな命など王の為にならいつだって差し出す準備は出来ている。
そして王の為に命を捧げるイベントはスグに起きた。
神官の1人が長い間続いた宗教的争いの決着方法を定めたのだ。それは“黒き悪魔を倒す事”だった。
“黒き悪魔”とは最強最悪と歌われる程の力を持った魔物の事らしい。そして神出鬼没で、出会えば最後、必ず殺されるのだと言う。
なるほどな、と鼻で笑う。
相手が最強だろうが何だろうが魔物なのなら討伐に向かわされるのは我ら奪う者、そして“黒き悪魔”は出会った者全てを殺す。神官共、この間雨乞いの儀式で我を殺しそびれて躍起になっているとみた。しかし…そこまでして我を殺す意味はあるのだろうか?我が死んだとて王は月派、意味などないように思えるが…。
まぁ実際“黒き悪魔”が現れる可能性の方が低い。それに出会った者を全て殺すと言うのもただの噂に過ぎない。鵜呑みにして恐れるのは愚か者のする事だ。ようは勝てば良いだけ、奴の首を持ち帰れば良いだけの事だ。
「カフラ、ちょっと待って」
目撃情報があった森に出発しようと城前で奪う者の徴集をしていた我の元に王が走ってやって来た。
「王、廊下は走らないようにと何度言えばお分かり頂けますか?」
「カフラ!約束しろ、絶対生きて帰って来い!!」
王は肩で息を整えてから叫び、ソレによって神官達の顔が険しくなる。率直な意見、何故だ?何故王の言葉にあれ程までの嫌悪感を示す?しかも隠そうともせずに…まるでわざと見せているようにも見える。
不穏な空気を感じる…いや、我が“黒き悪魔”を打ち負かして戻ってくれば、神官共も大人しくなる筈。
「必ずや黒き悪魔の首を手に戻って参ります」
王に敬礼し、出発してから数日の後、目的の森に到着した。
森から少し離れた所には町もあり、一見平和そうな景色なのだが、森の奥に見える山から邪悪な何かを感じ取る事が出来る。どうやら、間違いはないようだ。
「止まれ!これ以上進むな」
森に進軍しようとした我らの前に1人の男が立ちはだかる、さっきまでは何の気配もなかったのにだ…コヤツ、只者ではない。もしかしたらこの男が“黒き悪魔”か?しかし人にしか見えない。“黒き悪魔”をかくまう輩か?
「我らはこの先にいる“黒き悪魔”討伐に来た。通せ」
そう言って魔石をかざす、この行為は自分が奪う者だと証明する為の挨拶のようなものだ。するとその男も懐から魔石を取り出し、同じように掲げた。
「死にたくなければ帰れ」
男いわく、我らでは“黒き悪魔”には太刀打ち出来ないらしい。なんでも“黒き悪魔”に関して流れている噂は本当なのだとか。
「ならば何故お前は生きている?」
「それは――…」
「我らは王の命によって討伐に来た。我らを止めるという事は謀反の罪に問われるが?」
王の名を出した途端男は渋々道を開けた。終始何か言いたそうにコチラを見ていたが、森に足を踏み入れると後ろを黙って付いてきた。
邪悪な気配漂う山の麓に着き、我らは魔石から友を呼び出し、空の魔石を手に持ち、いよいよと迫った戦いの準備を整えた。
「カフラ、アクアは呼ばなくて良いの?」
ラミアは魔石から出るなりそう言い、アクアが眠っている魔石を指差した。
「まだあれから2週間しか経ってない。無理などさせられんだろう?」
アクアには色々作戦の相談とかしたいのだが、まだ体力の戻らないアクアに無理などさせられない。だからと言ってラミアに無理をさせようと言う訳でもない。万が一我らが全滅するような事があれば開封してやるつもりだ。でもアクアは…どのみち死ぬのなら最後まで我の友であれ。
準備が整い山頂に行くと、そこには1匹の魔物がいた。
切れ味良さそうな大鎌を持ち、背にはボロボロだったが天使族に良く似た翼が生えている。“黒き悪魔”その容姿はまるで天使族、だから何となくコイツの素性が見えた。コイツは元々天使族だった、そして余程の事を仕出かした為堕とされたのだろう。
「多勢、しかし無勢だ。一気に…来い」
一気に来い、確かにそう言ったにもかかわらず“黒き悪魔”は自分から攻撃を仕掛けてきた。大袈裟に振り上げられた鎌、あんな巨大な鎌を振り上げているのだから少しは“遅い”のだろうと思った自分を恥じる。コイツは強いとか最強とかそんなレベルではない…単純に化け物だ。振り下ろされている筈の攻撃が全く読めず、確実に兵は餌食となり、地に這いつくばってしまっている。中には既に息絶えてしまった者までいた。
「ラミア、一旦魔石の中に戻れ」
“黒き悪魔”の攻撃風景を目の前にして我は士気が一気に下がって行くのを感じた。このままでは勝てない、どうやっても勝機が見えない。なら潔く諦めてしまうのも1つの手段だと思えた。
「そんな事言って開封する気でしょ!バレバレなのよ!私は絶対に諦めない!もしカフラが殺されたって私は消滅する日が来るまでカフラの友でありたい。ねぇカフラ、何とか頑張って王の所に帰ろ?」
ラミアは実行が難しい事ばかりを要求している。でも…そうだな、コイツを倒せないにしても王の元に帰ろう。そう約束したのだから。
「ルシファー!もう止めろよ!!」
突然大声を上げたのは森の入り口からついて来ていたあの男だった。
男は“黒き悪魔”をルシファーと呼び、今は両手を広げ、兵士を守るような格好で立ち塞がっている。すると“黒き悪魔”は慌てた様子で攻撃の手を止め、その鎌の先はほんの少し男の顔に当たり、頬に一筋の血が流れた。
「キリク…邪魔だ。退け」
“黒き悪魔”は男を“キリク”と呼び、切れた頬に触れた。それから察すると2人は深い仲のようだが…奪う者である“キリク”が何故“黒き悪魔”を封じる事もせずいる?何故名前で呼び合える程の仲なのだ?
「頼むから、もう止めてくれ…こんな事して何になるってんだよ?」
懇願するように“黒き悪魔”の腕にしがみ付いた“キリク”は、今にも泣き出しそうな表情だ。にもかかわらず我らに“今のうちに逃げろ”と言う合図を出して来た。
ありがとう、と心で呟き、生き残った兵を連れて我は山を下った。
後ろから誰かがついて来ていると言う感じは全くなかったのだが、森を抜けても尚走り続ける事しか出来ない。ハッキリ言えば今こうして生きていられるのが不思議な位なのに、悠長に歩くなんてとてもじゃないが出来ない。
「逃げるか、弱者よ…」
突然そんな声が聞こえて来たのは城が見えて来た頃だった。
城が見えた事による安心感が、一気にとてつもない絶望感に満ちる。この頭に直接響いて来るような声は“黒き悪魔”の声に違いないからだ。
振り返った視線の先にいたのはやはり“黒き悪魔”なのだが、その周りに“キリク”の姿は何処にもない。殺されたのだろうか?とボンヤリ思って止めた。今は考え事をしている場合でもない。
“黒き悪魔”は何も告げないままに鎌を振り上げ、そして攻撃して来た。
森からここまで、ほとんど休みもなく走り続けて疲労していた兵達は、武器を構えるよりも前に次々と犠牲になっていく。
「お前で最後だ…」
“黒き悪魔”は呟くと、何の躊躇いもなく鎌を振り下ろし、それによって我は腹部を串刺しにされた。他の兵達は一撃で呆気なく殺されたと言うのに“黒き悪魔”は我の時にだけわざと急所を外した上で串刺しにしたらしかった。
「蘇ってみよ」
鎌を一気に引き抜いた“黒き悪魔”は、余程早く帰りたかったらしい、そのまま消えるように去って行った。
鎌が貫通した傷口からは止めどなく血が流れ、頭の中で“もう駄目だ”と何度も呟いた。しかし、我にはやり残してしまった事がある。
王に…会わなくては。
「カフラ、待ってな!私が王をここに連れて来るから!!」
ラミアが魔石から飛び出し、城の方へ駆けて行った。
いくらかの時間を気が遠くなるのを耐えながら待っていると、全速力で走る王が…見えた。
「カフラ!!」
王は我の名を何度も呼びながら泣くばかりだ。きっと手遅れだと見て分かる程に我の傷は酷いのだろう。
言いたい事なんかいくらでもあった。しかし全身が痙攣を起こしたように力が入らないし、声も出せない。
これが…死ぬという事なのだろうか…嫌だ、我はもっと王と共に在りたかった。
奪う者は時折蘇る者がいるが、その記憶は失われている。
嫌だ、忘れたくない。
王の事を忘れるなんて在り得ない事だ。
嫌だ。
死にたくない。
忘れたくなんか…ない。
「カフラァ!!」
誰か助けて…。
長い夢を見ていた気分だった。そして今もまだ夢の中にいるかのような現状、何故こんな所にいるのだろう?それがどうしても分からない。
我は今四角い台座のような物の上で寝転んでいて、全身には包帯が巻かれていた。
見渡すと部屋の中には台座の他に棺桶のような物が1つ、それに壁と台座、棺桶にギッシリと書き込まれた文字、そして我の隣には薄っすらと青色に光る不思議な石が2個。
酷くカビ臭い部屋の中、出口らしき物があるにはあったがビクともせずに開かない。天井には穴が開いていて外の景色が少しだけ見えたが、穴は小さく、我が出られる程にまで広げるとこの部屋自体が崩壊する危険性を秘めていた。つまり閉じ込められている、こんな死体と一緒にだ。
「…奪う者?」
フト台座に目を落とし、最初に目に付いた言葉を呟いてみる。何故か聞き覚えのある言葉のように感じた。“魔石”と言う言葉にも同じ感じがして、気になったから台座にある文字の全てを読んでみる事にした。そして思った、読まなきゃ良かった、と。
我は死んでから蘇った奪う者、らしい。奪う者とは魔石に魔物を封じる者の事を言い、時には封じた魔物と仲間になるのだと言う。そして奪う者は時折蘇るらしい。そして蘇った者には生前の記憶がないと言う。つまり今我が置かれている状況がソレなのだ。
もっと読み進んで行くと、どうやら我は“黒き悪魔”と呼ばれる魔物に殺されたのらしい。ここに置かれたのは蘇った我がいつまでも王の墓を守る為、らしい。
壁の文字は“太陽派”だの“月派”だのの宗教的な戦いが何年にも渡って起こった事や、ここに眠る王が最後の“月派”だった事、王は25歳を目前に暗殺された事などがズラズラと書かれていて、酷い干ばつにより都が他の地に移ったと言うくだりで終わっていた。
「誰かいるでござるかー?」
全ての文章を3回も読み返した頃、そんな声が天井の穴から聞こえて来た。久しぶりに聞く肉声…いや、記憶にないから初めての肉声だ。
「我は蘇りし奪う者、用がないなら去れ」
本当は今の世がどんな様子なのか色々聞きたい事もあった。しかしこの場で王のミイラを守ると言う任務がある以上、それを優先すべきだろう。
「左様でござるか…拙者、野暮用があるので御免。しかしそれが終わればまた尋ねるでござるよ。同じ奪う者同士、何か教えられる事もござろう」
声はそう言った後聞こえなくなった。耳を済ませると去って行く足音だけがかすかに聞こえる。
天井から見える空に20回太陽が昇った時、急に外が騒がしくなった。
「去れ」
番人としての仕事をこなすが、それでも客人は我の言葉などお構いなく進んで来て、あの開かない扉をガンガンと音を立てながら必死に開けようとしていた。
我がどれだけ力を込めてもビクともしなかった扉は今回もビクともせず、客人は諦めて天井に開いた穴から話しかけて来た。
上手く言い包められた気もするが、我は王のミイラと共にあのカビ臭い部屋を出ていた。そして客人の3人と共にハクシャクンとやらの屋敷に案内されたのだった。
皆は声を揃えて“黒き悪魔を倒し、自分が蘇った訳を探る”と言った。目標が同じなら我は妙に居心地の良いこの場所にいようと決心した。




