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ディスペル  作者: SIN
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恭治~オチムシャン~

 魔族、天使族、そして人間。

 弱い立場の人間は魔族に抵抗する為に魔石を作り、天使族に抵抗する為魔石から魔法石を作った。

 奪う者と呼ばれる術者が魔石に魔物を封じ、その魔物の魔力だけを取り出して魔法石を作る。

 奪う者が魔石に魔物を封じた時、契約を結べた者に限り仲間となる。

 仲間になった魔物は共に魔物を倒し、開封しない限り共にあり続ける。

 友となった魔物は術者の生命エネルギーを餌として生きる為、いくら経験を積んだ奪う者でも2体が限度である。

 そして死んだ後時々蘇る奪う者がいる事…。

 旅の途中で立ち寄った町、宿屋がいっぱいだからと町人に紹介されて連れて来られた屋敷内、拙者は奪う者として当然知っておくべき常識的な話をしていた。何故ならその屋敷内には蘇った奪う者が4人もいたからだ。

 蘇った奪う者には生前の記憶が全くないと言う話しは本当だったんでござるな。

 そして数日前に砂漠で偶然見つけた建物内にも蘇った奪う者がいた事を教え、その見返りとして屋敷の主人は無料で1晩泊めてくれた。

 翌朝、蘇った奪う者達に見送られつつ出発した拙者の後方、白骨化した男と半分腐った男が付いて来た。一定の距離を保ったまま付いて来る2人は、野宿の時ですら近くに寄っては来なかった。

 只管北に2日、ようやく目的とした山が見え、そこへ向かう為に樹海に足を踏み入れる。白骨化した奴も一定距離を保ったまま樹海にまで付いて来たが、中腹辺りまで進んだ時、何の前触れもなくいなくなっていた。半分腐った男に関して言えば樹海近くにあった小さな町の方に向かっていて入っても来なかった。

 もうすぐあの“黒き悪魔”が潜んでいる山の頂上だ…長かった…。

 仲間が魔物に襲われた事が奪う者になる切欠だった。それから8年…皆殺しにされた仲間達の亡骸に誓った。最強最悪の魔物“黒き悪魔”を従え、世界中に存在する魔物を根絶やしにしてやると。魂を取りに来るだけで魔物から救ってくれなかった天使族を根絶やしにしてやる、と。

 今日、拙者は“黒き悪魔”を魔石に封じ誓約する。それはただの始まりにすぎない。魔族、そして天使族を滅ぼす為の出発点。

 「気負い過ぎだ。少し休んでからにした方が良い」

 山頂を睨み付けていると、そんな出鼻を挫くような台詞が後方から聞こえた。

 「ミタマ、勝手に出て来るなと言ったでござろう?」

 「まぁまぁ、イザって時には便利だぞ?」

 便利不便の問題ではないのだが、今ので注意するのは10回余りだ。

 もう何回言っても一緒でござるか…。

どうして勝手に出られるようになったのかは分からない。普通、一般的には呼び出さない限りは出て来られない筈で、ミタマを友にした始めのうちは現に勝手に出て来たりはしなかった。それがいつの間にかこうやって勝手に出て来るように…。拙者の奪う者としての能力が上がったせいか、それともミタマの能力が上がり過ぎ、拙者では封じておけなくなったからなのか…もしそうだとしても、ミタマは今まで通り側にいてくれている。その事実があるのだから理由なんて考えるだけ無駄なのかもしれない。

 「魔物をさ…根絶やしにするって言ったよな?それって俺も入るのか?」

 ミタマが提案したように木の幹に寄りかかって休んでいると、後方から弱々しい声が聞こえた。

 そう言われて改めてミタマも魔物だったんだと再確認する。

 ミタマは魔物以前に大事な家族…魔物に仲間を殺された拙者に残った唯一の存在なのだ。いくら何でもその家族を手にかける事はない。

 「そんな事は有り得ないでござろう?」

 魔物を根絶やしにするとは言え、他の奪う者達の友を取り上げて殺すような事だってしない。そもそも奪う者の仲間になった時点で魔物ではない。そう言った魔物達は個々の奪う者にとっては掛け替えのない友であり、家族なのだ。拙者にとってのミタマのように。

 充分な休息をとり、イザ出発しようと立ち上がった所で突然辺りの様子が一変した。さっきまでは鳥の鳴き声も聞こえていて、平和そのものだった雰囲気が突如毒々しいモノへと変わったのだ。

 急な変化に鳥達は我先にと飛び出し、空では一種異常な禍々しさが漂っている。そして山頂から吹く風…明らかに自然的ではなく、邪悪な何かを感じた。

 早く来い、と挑発されているようだ。

 ならば、お望み通り早く行ってやる。拙者は“黒き悪魔”であるお前を友に向かえて出発点に立たねばならぬのだ。その為なら、こんな邪悪な気配、恐るるに足りず!

 「イザ!」

 「オゥ!」

 時々突風のように吹き付ける気配の波を越えて山頂に辿り着いてみると、そこには隠れもせずに“黒き悪魔”が悠々と立っていた。“黒き悪魔”と称されるに相応しい出で立ちと、あまりにも大きな鎌。

思わず息を呑んだ拙者に“黒き悪魔”はさも楽しげに笑って見せると、さっきの比にならない程の邪悪な気を放った。ソレはまるで台風のように渦を巻きながら下に広がる樹海へと流れて行った。 

 これだけの余裕を見せる“黒き悪魔”。なのに全く隙がないとは…最強最悪の呼び名通りと言う訳でござるな。

 “黒き悪魔”の武器はボロボロの鎌、しかし斬れない訳でもない上に恐ろしく大きい。すると多少は動きが鈍いのかも知れない。奴は鎌を右手で握っている、なら左側の懐に攻め入って攻撃すれば勝機はある筈。

 「ミタマは右、拙者は左。気を引くだけで充分、下手に近付き過ぎぬよう」

 「分かった。任せろ」

小声で軽い作戦を伝えた後、刀の柄を握りしめ間合いを詰める。次の作戦なんか全くないのだからチャンスはたったの1回、これで…決める他になし!最初で最後の攻撃、推して参る!!

 ミタマは右側に回り込み、拙者が左へ。しかし“黒き悪魔”鎌を振る速さは予想外の素早さを見せた。思わず足を止めてしまった拙者の鼻先、鎌が通過した風を感じる。もう少し立ち止まるのが遅かったら…そう考えると嫌な汗が流れた。

 「恭治!伏せろ!!」

 突然そんな声が真後ろでして、慌てて伏せると、途端“黒き悪魔”に向かって何本もの矢が放たれていた。これはミタマの“千本ノック”とか言う技だ。

 「…奪う者よ」

 ミタマの技をまともに受けた筈の“黒き悪魔”なのだが、何本かの矢を体に深々と刺したまま平然と立っている。

 奇襲攻撃、それが成功したにもかかわらず、その効果は恐ろしいまでに僅か。絶望的、そう思った。しかし、負ける訳にもいかないし逃げ帰る場所もない。きっと他に手はある筈、奴にだって弱点はある筈だ。どうにかしてそれを見極めるしかない。 

 「蘇ってみよ」

 正面に見据えていた筈の“黒き悪魔”がいつの間にか隣にいて、刀を構えるより早くに飛び退いたのだが、そんな拙者の動きなど見切っていたかのように“黒き悪魔”はピタリと隣に寄り添う形で付いて来た。そしてまた、

 「蘇ってみよ」

 と、自らの体に刺さっていた矢の1本を抜き取り、それを拙者の頭に向かって突き刺した。

 矢が刺さる違和感と衝撃はあったものの“痛い”とは感じない。助かった…?

 「ミタマ…魔石の中に」

 とは言っても勝機など見えない。先程から“蘇ってみろ”と言っている事から察すると、“黒き悪魔”は拙者を見逃す気など毛頭ないのだろう。なら、その前にミタマを開封しなければならない。

 確かに奪う者の中には時々蘇る人がいるが、それはごく僅かな人数だ。この間泊まった屋敷には4人もいたし、その前砂漠では1人見かけた。しかし…あんな魔物のような姿で生き返った所でどうしろと言うのだ?生前の記憶をなくし、あんな姿で…目標もなく生きるのならそれは生きる価値などないと言う事だ。

 御免蒙る。

 ここでこの命が失われるのであれば、決して蘇ったりなどしない。蘇ったりなどしたくない。

 「何でそんな事言うんだよ!まだ完全に負けてない!諦めるなんてらしくないだろ!」

 ミタマの言葉に何か言い返そうとした時、頭の奥がチリッと痛んだ。助かった、そう思ったがそうでもないらしい…もう時間は限られている。

 「ミタマ、良いから。開封…」

 「開封されては意味がない」

 “開封させろ”とミタマに告げる前に“黒き悪魔”はそう拙者の言葉を遮り、鎌を大きく振り上げて拙者の首目掛けて振り下ろした。咄嗟に刀で防御はしたが力で負け、鎌は首の中程にまで達し、一気に引き抜かれると血が噴き出すのが見えた。今からミタマを開封するだけ命が持つかどうかも分からない状態で、拙者は諦め悪くミタマに魔石に戻るよう進めた。

 傷口を手で押さえているのに指の間から血が漏れ出し、急激に体温が下がったように感じる。しかもミタマはそんな拙者の傷の具合ばかりを気にしているらしく一向に魔石へ帰る気配すら見せない。

 「俺達家族なんだろ?恭治がここで死ぬんなら俺だってそうだ!絶対に開封なんかさせない!」

 ミタマ…。

 そこまで言うなら、承知した。拙者は先に行っておくが、後から必ず…必ず追いかけて来るんでござるよ!

 「黒き悪魔…お前には…殺されない…」

 既に耳が遠くなっていてその言葉が“黒き悪魔”に届いたのかは定かではないが、拙者は刀を手に取ると中途半端に斬られていた自分の首を自らの手で切り落とした。

挿絵(By みてみん)

 酷い眩暈に急かされるように目を開けると、拙者は2人の男によって何処かに運ばれている最中のようだった。

 2人の男のうち1人は骸骨で、もう1人は半分腐ったような容姿で、右目だけが突起して拙者を見ていた。

 「ガイコツン、起きたよ~」

 半分腐った男が言い、

 「最近の奪う者は蘇るのが早いねぇ」

 と骸骨男。ガイコツンと言う名前、なるほど。

 「…そなた達は…拙者は…ここは何処でござるか?」

 拙者は先程“蘇った”と言われた。即ち1度死んだのだろう。それに頭に刺さったこの矢、少しだけ傷む首には糸が張り巡らされている。自分では確認出来そうにないが、どうやら首は胴と繋がってないようで、無理矢理縫われて保っている状態だ。

 「オチムシャン“魔石”の事とかもすっかり忘れてる?」

 ガイコツンとやらは魔石と言う酷く聞き覚えのある言葉を口にした。

 「オチムシャンは一体誰に殺されたのかは覚えてない?」

そこで拙者は全くの記憶がない事に気が付いた。そうだ、首を斬りおとされたのだから何者かと戦っていた筈、一体誰と?わからない。

 拙者はその後、何処かに向かって歩く2人の後を追いかけながら“魔石”や“奪う者”の話を聞いていた。そして実際に拙者が持っていた魔石から1匹の魔物が現れ、嬉しそうに抱き付いてきた。しかしそれでも何故か全く実感が沸かない。

 何も覚えてないのだから当然と言えば当然でござろうが…。

 こうして歩く事2日、町が見えて来た。

 「たっだいまー。オチムシャンとオチムションの仲間を連れて来たよー」

 ガイコツンが1軒の立派だが趣味の悪い屋敷に入るなりそう叫ぶと、奥から1匹の魔物がやって来た。

 この魔物は後に“ハクシャクン”とか言う奪う者であると知った。だから拙者は攻撃しないで良かったと心から思ったのだった。


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