設定
大量に来ていた依頼をこなす為、俺とエドは簡単に依頼を手分けして片付ける為に朝から町中をウロウロとしていた。
依頼の手紙を出してから随分と待たせてしまっているので、簡単な依頼は無償でやる事にしたんだけど…荷物運びとか掃除だから簡単だけど時間がかかる。
そんな感じで夕方になってもエドは町の何処かで依頼中。俺はと言うと、今日の分を終わらせて自室にて休憩中。
夜は夜で外壁の修理手伝いの依頼が来ているから、今のうちに眠っておかなきゃならない。と、そんな事は分かっているんだけど、このまま元の生活に戻るには引っかかる事が多過ぎる。
ラミアは後日ピラミッドまで探しに行くとしても、俺の設定がどうなっているのかをもう1度ちゃんと説明してもらいたい。
「皆、出て来て」
ベッドの上に“魔石”を置いて呼びかけると、ルシファーも遠慮がちに出てきた。
確か、ポチ達は俺が不自然な存在になっている事を知らないんだっけ。
本当に?
「今日から本名を名乗る事にしたんだけど、どう思う?」
天使の時の名前。それを口に出すだけで壊れるようなもろい設定なのかは分からないけど、少なからず何かはあると思うんだ。
もし、ポチ達が設定を知っているなら、黙ってはいない筈。
「え?もうキリクと名乗っているでしょう?それともガイコツン?」
慌てて発言したのはルシファー。それに頷くポチ、直立不動のピヨ、溜息1つのペペ。
うん、ポチ達は俺が不自然な存在である事を知ってるな、これは。
何故知らないとか嘘を付いたんだ?詳しい設定を知らないから?まぁ、見張りは必要だったんだろうから、傍にいても怪しまれない天使が必要だったんだろう。
「どちらでもないよ?天使の時の名前…知らないと思ってた?」
さあ、どう出る?
「何故…貴方には天使だった頃の記憶はない筈です!」
慌てて発言したのはルシファー。それに頷くポチ、直立不動のピヨ、溜息1つのペペ。
さっきと同じ反応か…これはどう言う意味だろう?そもそも、俺が可笑しな事を言うと駄目なんだったら、俺の記憶を消したら良かったんじゃないか?人として転生とか、悪魔のままにしておくとか…その方が余程安全だと思う。
蘇りのメカニズムをまだ教えていないから?
ルシファーを自由にしていないから?
だけど、恭治が蘇る所は天界にいる天使長にも見えていただろうし、俺が悪魔になってルシファーを天使のままにしたんだから一応自由には出来た筈だ。それを、元に戻す理由は何処にある?
「記憶がなくても、名前位なら知る事は出来たんだよ」
時間を戻って天使長の座を渡すまでの数日間は実際俺が天使長だった。判子とかあったし、サインもあったし、名前入りの肖像画まであったからね。それなのに知らないと思ってた方が凄いよ!
「お願いです、止めてください…」
必死なルシファー、頷くポチ、少し目付きの悪くなったピヨ、腕を組んで深い溜息1つのペペ。
俺が自分の天使名を発音するだけで駄目になるなんて、そんなもろい設定しか作れなかったの?記憶を残すからこんな事になるんだよ!悪魔のままにしておかないからこうなるんだ。人間として堕ちる所まで戻ればそれで済んだんじゃないのか?
けど、実際に戻って来たのは蘇りになった後。
俺の人生の中で、1番平和な時間。
「じゃあ正直に教えて。まずはルシファーが大天使のまま“黒き悪魔”になっている所。何故この時間に戻ってきたのか。どうして俺の記憶が残っているのか。ポチ達が不自然な存在の事を知らないと嘘を付いた理由」
今の所はいくら頭を捻ってもこれだけしか質問が浮かんで来ない。もっと他にも疑問だった事があるんだけど、この際それはなんだって良い。結局頭に浮かんで来ないんだから大した事じゃなかったんだろう。
ルシファーにしたこの質問だって本当に知りたい事じゃなくて、ただの確認だ。
「全ての悪行は貴方が。全ての善行は俺がした事にして、俺は天使に戻る事が許され、イ…ポチ、ピヨ、ペペの3天使と貴方の見張りを任されたのです」
スラスラと喋っていたルシファーが、ポチの名前の所で軽く噛んだ。
ポチの本名はイから始まるのかな?
「それから?」
もっと噛まないかなぁ。
「この時間を選んだのは…1番見張りやすかったからです。貴方の記憶を消さなかったのは、この時間で見張るのに都合が悪くなるからですよ」
へぇ~。
天使長は随分と俺に対して甘い決断をしたもんだ…って、納得出来る訳がない。
1番見張りやすいって言う所がそもそも間違ってる。
不自然な存在だよ?放っておいたら神と同等のモノになってしまう、世界にとっての悪にしかならない存在だよ?それを、設定を付けて生かしておく事が可笑しいんだ。
不自然な存在に設定を付ける本当の目的は、ちゃんと何者かとして討伐する為。
天使長がこんな俺を生かそうと考える筈ないのに、こんな甘い設定とかありえない。
だけど、実際はこんなにも平和な時間で生きる事を許されている。
「もう1回聞くけど、どうして“黒き悪魔”で俺の友だったルシファーが、今は大天使なんだよ」
そろそろ教えてくれないかな?
「それは先ほど説明したように…」
用意した台詞みたいに淡々と喋ってさ、大事な所は黙ってるつもり?
「副長になったから。でしょ?」
考えれば考えるほど、そうとしか思えないんだ。
「何故…」
あ、当たりだ。
副長がこんな所にいて良いのだろうか?俺を見張るより長の仕事を手伝った方が良いんじゃないか?だってルシファーは資料整理がやたら上手いんだ。まぁ、この場合俺の見張りは重要な仕事の1つではあるのか。
それにしても、副長かぁ…だったらルシファーって呼ぶのはマズイんじゃないだろうか?ルシフェル?いや、呼び捨ても駄目か。
「ルシフェル様。だな…ですね。俺の事はどうぞキリクと、お呼びください」
あまり慣れないなりに挨拶をしながら跪いてチラリと見上げて見ると、やっぱりと言うのか、なんと言うか、物凄い目で俺を見下ろしているルシファーがいて、
「止めてください!!」
と叫びながら俺の両肩を掴みながら項垂れてしまった。
そんなに俺の敬語は可笑しかったのだろうか?だったら練習をしないと…。
「ルシフェル様を長に。と、下っ端天使なら誰もが思う事です。そのルシフェル様が副長になられたのですから、長にしろと言う声がここにまで届いて…」
分かりやすく褒め称えてみたつもりだったのに、ルシファーは心底気に入らなかったのだろう、俺を押し倒した。
「何故ですか?何故俺が…何故?長に相応しいのは貴方だ!」
攻撃的なのに、褒め称え返し!?それに、副長が現長を否定するような事を言って良いのか?そんなにも…どうして俺に執着するんだよ。俺はお前を自由にしたいのに、何故それをお前が望んでくれないんだよ!
「俺は天使ではないんですよ?」
人間になって、蘇りになって、悪魔になって、そして今は不自然な存在だ。天使からしてみたら不浄な魂よりも厄介なモノだ。
「関係ありません。貴方を慕っているのは俺の意思!それが全てです!」
ルシファーの事を慕っている多くの天使や天使長である弟よりも、振り回していただけの俺を慕う意味が分からないよ!そんな意味不明な事は止めさせなきゃならない。こんな俺が全てだって可笑しいだろ?可笑しいんだよ。
そうでしょ?
「キリク、ここにいる間は今まで通りに接してあげなさい」
長く溜息を吐いたペペは組んでいた腕を解き、腰に手を当てて強めの口調でそう言った。
「そうそう。お前時々性格悪いぞ?」
と、コクコクと頷きながらポチが腕を組む。ピヨは射抜くような鋭い視線を向けてくるだけなんだけど、こう言う雰囲気の時って俺に拒否権なんかないんだ。
「そう言われても…今から練習しとかなきゃ、イザと言う時にタメ口じゃ駄目でしょ?」
自分で言っておきながらイザってどう言う時なんだろう?と考えてしまった。タメ口じゃ駄目なのは今だ。副長なんだから、本当だったらポチ達だって敬語じゃなきゃ駄目なんじゃないの?
「ルシフェルが良いならそれで良いんじゃないの?」
そんな緩くて良いの!?
あぁ、でもポチ、ピヨ、ペペは俺のせいで“奪う者”になっちゃてるから、俺がどうにかなっても天使には戻してもらえないのかな?なかった事になってるけど、天使長に歯向かって悪魔にまで墜ちてしまった身だもんね…だったら余計に副長に対してタメ口は駄目なんじゃないの!?
だからこそ?副長がタメ口を望んでいるから、それに歯向かわないように?
「…じゃあ、本当に敬語使わないよ?それで良いの?…ですか?」
確認するとルシファーは急に安堵の表情を浮かべながら、
「はい…」
と、何処か幸せそうに返事をした。
そんなに敬語が嫌いだったなんて知らなかったよ。ただの言葉使いをいちいち気にするなんて、可笑しいって思わないのかな?
敬語だろうと、タメ口だろうと、無言だろうと、俺はルシファーを大事に思っているよ?だけど、ルシファーは違うんだな。敬語ってだけで距離を感じてしまってる。
でも流石に呼び方はルシファーじゃ駄目だよな…ルシフェルって呼ぶ?ルシフェルって呼ぶなら様付けが必要になるかな?けど様付けするとまたスネそうだしなぁ…。
あ、だったら、
「今日からは親しみを込めてルッシーとかで呼ぼうかな」
ポチ達みたいにあだ名で呼べばサックリと解決!と思ったのに、
「ルッシー…ぶっ!!」
ポチは思いっきり吹き出した。
ルッシーは可笑しい?なら、
「ルルとかどう?」
ちょっと可愛過ぎるかな?
「ルルゥ!?」
今度は、さっきまで一言も発せずに厳しい顔で立っていたピヨが大声を上げる。やっぱり駄目か…。
「い、良いんじゃない?…ぷっ!!」
ちょっと、良いんじゃない?とか言っておきながら笑ってるじゃないか!分かったよ、もっと別のを考えれば良いんでしょ?
他の名前…そうだな…ルシフェルだから、シッフィー?シェフ…は、違う意味になっちゃうし、やっぱりルルが1番しっくり来るんだけど…。
少しだけポカンとしていたルシフェルは、穏やかに微笑むと慣れた動作で極々自然に跪くと、
「貴方の、お好きなように…」
と。
「マジか!?」
ポチは大笑いしていた事も忘れ、今日1番の真剣な顔をルルに向けた。




