テスト中
草原に立つ俺の隣では、少し前に出した問題を正解させるべくエドが4枚の草を前に頭を抱えている。
その様子を眺めながら、俺は全く関係ない事を考えていた。
ラミアがカフラの友ではない…また俺が時間を戻ろうとするのを防ぐ為か?
だけど、俺はもう既に不自然な存在になっているんだから、天使達がラミアの存在を消した訳ではない…と思う。だったら何処にいる?魔界と考えるのが普通だけど、どうやって行けば良いんだ?また悪魔になれば…いや、それをしてしまうと不自然な魂に戻ってしまうんだろうし…このままこんな平和で、幸せな時間を過ごせば良いのか?
そうすれば良いんだよな…折角平和なのに、それを変えようとするなんてバカバカしい。折角…こうしてエドが元気でいるんだ。
「依頼もしていかなきゃならないし、制限時間は後1時間だよ」
エドに声をかけて、南の方角を眺める。
ここから南にズーット行った先には砂漠があって、ピラミッドが建っている。その中にカフラはいた…もちろんアクアもいて…本当だったらラミアもいた筈。もしかして、ただカフラがラミアの入った“魔石”に気が付かなかっただけって事はないだろうか?
1度、見に行ってみよう。
とは言っても、大量に来ている依頼を済ませてからになるかな。
ラミアに会ってどうしたいんだろう?ラミアは人の生きた時間を食べる悪魔で、時間を戻せる訳じゃない。いや、戻った所で俺が不自然な魂である事に変化はない。
何故不自然な魂に?
食べられた時間と、実際の時間に差が生じたからだっけ?じゃあ、その差を食べてもらえれば、俺は不自然ではなくなる?
その辺りの事を1番良く知っているのはルシファーでも、天使長でもなくてラミア自身なんだろうから、結局の所は見付けて聞くしかない。
で、魔界にいる悪魔にどうやって会いに行けば?
堂々巡りだよ!もう!
「依頼が全部終わったら、屋敷から出てくのか?」
静かに尋ねてくる声の方に顔を向けると、4枚の草を手に持ったエドがこっちを見ていた。ほとんど無表情だから怒っているのかどうかも分からない。
ルシファーの紹介も出来たし、天使って事も言ったのに皆の態度が変わらなかったから、今後の事は考え中。1番近くで皆を守った方が良いのかも?とか思いついてしまったから、屋敷を出ない可能性の方が大きい位。
だけど、砂漠のピラミッドには1回行かなきゃならない。
「まぁね…行きたい所があるんだ。その間の依頼はエドに頼んだよ」
樹海の魔物と村の戦いも気になるから様子を見に行きたいし、エルナさんにも会いたい。後はお城に行って王様が“奪う者”を拷問したりしてないかの確認もしないとね!
1番大事なのは皆の願いを叶える事の筈なのに、結局は何も出来なかったんだな…サクリアとカフラの願いは過去に戻らない限り叶える事は出来ないし、ディルクの願いだってそうだ。いや、ディルクの場合はエルナさんを幸せにする事なんだから今からでも出来そうだよね。そりゃ、人間のまま幸せにしたかったんだろうけど…。
「…俺、ガイコツンにエドって呼ばれてたんだ?」
え?
あ、しまった。つい本名で呼んでしまった!前はどのタイミングで本名呼びを始めたんだっけ?
皆は名前で呼び合っているけど、俺もそう呼んで良いのか確認してないし…。
よし、誤魔化そう。
「今ゾンビっぽいのって寧ろ俺だからね」
だからっていきなり本名で呼ぶ口実にはならないか…。
「じゃあガイコツンじゃなくて、ゾンビンその2。とかで呼べば良い?」
ネーミングセンス凄いな!
「なにそれ!?ガイコツンで良いよ!」
「ガイコツじゃないのに?」
確かに…。
それに、ゾンビっぽくないからって理由でエドと呼んでしまっているんだから、ここで俺がガイコツンのままで良いって言うのは矛盾がある。
「だったら…俺、キリクって言うんだけど…」
今この時を本名で呼び合う切欠にしても良いかな?
「それ、人間の名前だよな?」
話に集中したいのか、エドは手に持っていた草を置いてから立ち上がり、真正面に立ってからジッと俺の顔を、目を見上げてきた。
「そうだけど?」
ガイコツンの方が良いって事?それとも“奪う者”になったら別名とか付けられるとか?そんな話は聞いた事がないし、ポチ達が俺をキリクと呼ぶんだから名前はキリクで間違いない。
「お前天使でもあったんだよな?天使名ってあったのか?」
そう言う事か。だけど、その名前を発音してしまったら不自然な魂に戻るんだろうから、絶対に名乗れない。
「あぁ~…どうなのかな?」
俺には天使だった頃の記憶なんかない。どう思って人間になろうとしたのかだって分からないままだ。
元々は天使長だった俺が、現天使長にその座を譲ってからは天界においても俺の名前は禁句になってたから、ポチ達も俺を本名では呼ばなかった。それなのに、俺は自分の名前を知っている。
「名前も覚えてないのに、自分が天使ってどうやって知ったんだよ」
記憶がないのに自分を何者か知ってるって言うのは、改めて考えると可笑しいよね。でも知っているんだからしょうがない。
「…そのうち羽が生えてくるから、そしたらエドにも分かるよ」
そうなったら、やっぱり屋敷を出なきゃならないよね…。羽が生えてこないようにする方法ってないのかな?あ、でもそれだと気配を感じ取れないから色々と不便だし…羽が生えなくても気配を感じられるようにはならないのかな?
「分かるって、名前が?」
違うわ!
「天使だって事がだよ」
また、同じように拒絶されるのかな?俺に直接「聖水出せ」とか言ってくるのかな?嫌だな…本当に羽なんか生えて来なくて良いよ。このままただの蘇りとして皆と一緒に…
「知ってるけど?」
ん?
知ってるって…え?
エドが1番俺を嫌ってたんだよ?天使は敵だーって、そんな態度だったよ?それなのに、どうして反応が薄いままなんだよ。信じてないからだって思ってたけど、天使である事を知っている?
「態度が一緒だから、信じてないのかと思ってた…」
だったら、前の時はどうしてあんなにも激しい嫌悪感を示していたのだろう?天使だったって事の他に、何か原因があった?
それが分かっていたら苦労はしない。
「信じてるし…」
少し恥ずかしそうに視線を外したエドだが、それでもチラチラと右目だけが忙しなく俺の方を見てくる。
本当に、信じてくれて?
だったら、俺ももっと素直にエドの言葉を聞こう。裏とか真意とか考え過ぎていたからすれ違ったのかも知れないしね。
折角、そんなどうしようもない日々がなかった事になってやり直せるんだから!
「ありがとう…あ、それで、最終問題があるんだけど」
そうと決まればテストの続きだ。
屋敷を出ないのなら俺が傷薬を作れば良いんだろうけど、薬の知識は知っていて損はないし、万能薬の開発だって2人でやった方が楽しい。
「え?まだあんの!?」
何を言ってるんだよ。覚えて欲しい事なんかまだまだ沢山あるんだからね!今やっているテストは初歩的な事だから100点取ってもらわないと困る内容なんだからね!
「勿論。じゃあ出すよ。そのメモに書かれている“毒と麻痺を同時に治す薬”に使用する材料を俺の所に持って来て」
本当は、調合する所まで。としたいけど、その前に草が持つ副作用とか、相性とかを教えてからじゃないと危険だから、それはまた今度…依頼を片付けた後になるかな。
「難易度高過ぎだし!」
これで難易度が高いなんて、まだまだ先が長いな…だったら先にもう少し細かく草の見分け方を?だけど、今の季節じゃあ採取出来る薬草も限られているし…道具屋に行っても乾燥したやつしかないだろうし…。
「やめる?」
そうだ、図書館で図鑑を見ながら説明しようかな?でもそれじゃあ臭いの違いとか、味の違いとかは教えられないよね…レア薬草が図鑑に載っているかも怪しい所だし…そう言えば、図書館で借りた本の通りに傷薬を作ったら大失敗しちゃったから、やっぱり実物を見て、触って、自分で調合して。って勉強した方が確実だ。
なら今は取り合えず道具屋で薬草を買って、草の見分け方とかは薬草が生えてくる時期を待とう。その間に依頼を全て終わらせると考えたら、丁度良いし。
と、今後の予定を考えて結論に至ったタイミングを丁度見極めたかのようにヌッと視界に入ってきた眼球。顔を上げてみると膨れっ面のエドがいて、
「やめない!スグ採ってくるから待ってろ!」
そう元気よく叫んでから走って行ってしまった。
俺は100点を取って当たり前の問題しか出していない。勿論、最後に出した問題だって非常に簡単な筈だったんだけど、エドは勢い良く飛び出し、今は遠くの方でしゃがみ込んで草を探し始めている。
さっきまでエドが立っていた場所には丁寧に置かれている4枚の草。この4枚の見分けすらまだ付いていなかったくせに、ちゃんと探せるのだろうか?そもそも、メモを見て気が付かなかったんだから無理だろう。
だって、この4枚の草が答えなんだから。




