ゾンビン
樹海の奥深く、そこで目覚めると俺の体は白骨化していた。
何故?
白骨化していると言う事は死んでいると言う事で、でも何故?
樹海と言うと自殺の名所だったりするし、やっぱり自殺したんだろうか?いや、この不自然に陥没した頭蓋が他殺だって物語っている。
でも何故。
何故俺はこうして動けるんだろう?
取り敢えず町に行って着るものを調達しよう。でも魔物と間違われて攻撃…されるかなやっぱり。
そー言う事で他の死体の服を拝借しようと歩く事数分、俺は少量のGとボロイ服を手に入れた。後は陥没した頭蓋を覆う何かが欲しい。
と、言う訳でやって来たのは町の市場。
完全に服も着ているのにやっぱり頭蓋が目立ったのかスグに“魔物”だと追われる羽目になった。それでも何とか手に入れたのが、町で芸をしていたピエロが被っていたアフロ調のド派手なカツラだった。
これでもないよりマシだ。
一旦樹海に戻って、もう1度状況を把握しようと自分が倒れていた付近の捜索に入る。
落ちていたのは1冊のメモ帳、だが腐食が進んでいて辛うじて読めたのが“魔石”と言う文字だけだった。
魔石と言う言葉は何となく…覚えてるような…ないような…でも“魔”って事は魔物とも関係があるんだろうな、多分。そー言えば魔王ってのがいた筈だ。俺今魔物ッポイし会いに行ってもあっさり会ってくれるかも。
何処に行けば会えるんだろう?あ、魔物の事は魔物に聞けば良いんじゃん。
「魔王って何処に行けば会える?」
折角手に入れた服を脱ぎ去り、アフロのカツラだけをつけた姿で魔物に話しかけると誰も俺が人である事に気が付かなかった。だからもう俺は人ではなかったんだろうか?と考えさせられた。
「魔王様なら魔王城にいるに決まってる」
異形の魔物がガハハと笑う、こんなに近くにいるのに怖くないって事はやっぱり俺も魔物の一員になってしまったのだろうか?と、また考えさせられる。
「魔王城なら魔王島にあるに決まってる」
また別の魔物がそう言って笑う、こんな大勢の魔物に囲まれているのに違和感ないって事は俺は立派な魔物なのだろうか?と、また考えさせられた。
「魔王島なら魔物船で行くに決まってる」
魔物船なるものが停泊している港まで案内され、案外親切だった魔物達にお礼を言った俺は2回程大きく深呼吸してから乗り込んだ。
見付かったら多分即効殺されるだろう。アレ?でも俺もう死んでるんだっけ。そう考えると俺はもう立派な魔物だった。
数時間して魔王島に着いた。
もっとおどろおどろしい場所だろうと思っていたけど、案外普通。でも住人が全員魔物で、今の俺にとってはコッチの方が住みやすい場所だと言えた。
魔王城の前には2人の門番がいたけど、中に入ろうとする俺を止めようともしないで喋っていた。だから容易に魔王に会えたのだが、
「何しに来た?」
呆れたように魔王が言った。
それもそうだ、俺は魔王の前に出てから5分は黙ったままいたからだ。しゃれこうべの俺の表情が分からない魔王はズット俺の事を見ていたんだケド、ついにそう声を発した。
えっと、俺何でここまで来たんだっけ?あ、そうそう“魔石”の事を聞こうと思ってたんだっけ。
「魔石って、何でしょう?」
そう聞いた刹那、俺は周りにいた魔物達によって押さえ付けられてしまっていた。でも魔王は何かを察したらしく満足そうな表情をしていた。
「お前のような“奪う者”は追放するのがこの世界の慣わしになっている」
何か肝心な事を知っているのだと思ったのに俺はアッと言う間に城を追い出され、さっき乗って来た船に無理矢理戻された。そうして戻って来たのは元いた樹海、俺は…人でもなく魔物でもなく“奪う者”だったらしい。でもその“奪う者”が何をする者なのかいまいち思い出せない。奪うって言う位だから何かを奪うのだろうが、それと“魔石”とは何の関係があるのだろうか?
「まぁ良いや」
思い出せないって事は思い出さなくても良いって事だ。一応頭の隅には置いとくけど、もーこの話題はお終い。それよりも俺と同じような“奪う者”がいるかも知れないからそっちの捜索に全力を注ごう。
こんな世界でどーやって生きれば良いかってのを教えてもらおう。いや、生きてはないんだろうけど…多分。
安易だとは思ったが取り敢えずやって来たのはお墓、俺のように死んだ後も動ける者を探すには手っ取り早いかなぁと。
広大な敷地内に所狭しと並んだ墓石を1つずつ見て回るが、生き返った者を見付ける事は出来なかった。
丸1日以上も賭けて捜索したかいもなく、一旦樹海に戻ろうとした俺の目に町から追われて出る1人の青年の姿が映った。
一見普通の人間のように見えるその青年だが、よくよく見ると肌の色が有り得ない程の土気色で、右の眼球が飛び出していた。でも青年は痛がっている素振りも見せず走っていた。だから多分仲間だ。
青年の手を取って樹海に逃げ込むと町の人達は樹海の中までは追って来なかったようで辺りは静寂に包まれた。
「はぁ…はぁ…。ありがとう骸骨」
息を整えながら青年はそう頭を下げた。
お礼を言われた訳なんだけど、骸骨ってさぁ、もっと他に呼びようが…ないか。実際骸骨だし。
「どーいたしまして。君はどーして追われてたんだ?」
青年は飛び出していた眼球を元に戻すと、
「分からない…気が付いたらこんな体でさ、家を出た途端魔物だって言われてさ、今に至るって訳」
卑屈そうに笑いながら自分の体を見つめ、軽く溜息を吐きながら俺を見た後、無理矢理にでも落ち着こうと思ったのかもう1度、今度は大きく溜息を吐いた。だからもう黙っていようとも思ったんだけど、疑問に思った事はその場で消化しとかないと後からじゃ聞きにくいし、言い辛くもなっていくので、
「家を出たらって事は元々町に住んでたんだ?」
と、極々普通に質問を続けた。
「分からない…俺、どーやって死んだんだ?何で今こーやって動ける?」
青年は取り乱したように頭を掻き、その衝撃でゴロっとまた右の眼球が飛び出した。
「俺も、俺も何も覚えてないんだ。でも魔王は俺の事を“奪う者”だと言った…魔石と言う言葉に覚えはない?」
「魔…石?…何か聞いた事があるような…でも何も思い出せない」
やっぱりこの青年も俺と同じだ。魔石と言う言葉には聞き覚えがあるもののソレが何なのかが分からず、自分がどうやって死んだのか、生前の記憶もない。
「俺は他に仲間がいないか探していた所だが…一緒に来ない?」
青年は迷わず俺が差し出した手に捕まり、満面の笑みを見せてくれた。ついに仲間が出来た訳だが、いつまでも“骸骨”と“青年”じゃー折角仲間になったってのに親近感が全く感じられない。ここは1つ呼び名を決めようじゃないか。とは言っても自分の名前が何なのかなんて覚えてる訳もなし。
「俺今日からガイコツン」
「じゃー俺は…ゾンビっぽいからゾンビンで良い」
こうして俺、ガイコツンと、ゾンビンの気楽な旅が始まったのだった。