鎌を持った天使
気がついたら僕は白い部屋の中にいた
――ここはどこなんだろう
あたりを見渡してみても、なにもわからない
――何も聞こえてこない
僕が音源となって発する音以外、何も聞こえてこない
――どのくらいたったんだろう
時計もなにもないこの場所では、僕はそれを知ることはできない
――そして、僕はなんでここにいるんだろう
その質問を答えてくれる人は、誰もいない
どうやら僕はここに来る以前の記憶を失っているようだ
それは深刻なもので自分自身の名前でさえ思い出すことができなかった
なにもできない僕はその場に呆然と立ち尽くすことしかできなかった
「あなたは選ばなければならない」
いきなり僕以外から生まれた音が僕の耳に入った
それは女性の声だとすぐにわかり僕は声のした方向へ目をやる
すると空から一人の少女が舞い降りてきたのだ
その少女は背中から白い翼を広げ、金色の髪をなびかせ、琥珀色の瞳で僕を見つめていた
しかし天使のような外見には僕は見向きもせず彼女の両手にあるものに目が奪われていた
その彼女の両手には身長ほどの大きな漆黒の鎌を持っていた…まるで死神の鎌だ
彼女は顔色ひとつ変えることなく無表情のまま僕に近づいた
「わたしはドレアム」
――ドレ、アム?
「そう。わたしはあなたに終焉をあたえるための存在」
――終焉を、与える?
「そう。あなたは自分自身の未来を決めなければならない」
――自分の未来を、決める…それで決めたらどうなるの?
「それはわたしにはわからない。決めるのはあなた」
――そうなんだ
どうやら僕は何かを決めなくてはならないようだ
それによって僕は生きるか死ぬかも決まるらしい…
普通なら意味が分からないことばかりだ。とても信じられない
しかし…不思議と納得してしまっている自分がいた
――それで僕の未来は?
「1つは死にたいと願いながら生きていく未来」
「もう1つは生きたいと願いながら死ぬ未来」
「あなたはどちらかを選ばなければならない」
なんという選択肢なんだろう
どちらを選んでも自分の希望は叶うことがない
そればかりかまったく逆の終焉を迎えてしまう
こんな理不尽なことを選ばなくてはいけないのか
――こ、こんなの選べるわけないよ!
「そう。ならあなたは一生ここから出られない」
――なっ!そんなの酷すぎるよ!!
「そう。これは酷い選択肢。でも選ばなければならない」
――そんな…どっちを選んでもつらいじゃないか
「そう。でも自分の心に正直になれば、おのずと答えは見えてくる」
――自分の、心に正直に…
ドレアムの言った言葉のとおりに正直になろうと胸に手を当てて目を閉じた
すると身体の内側からあふれるように僕はいままでの記憶がよみがえってきた
両親、友達、先生、親戚、近所の人……今まで出会った人の顔が次々に思い出される
僕はかけがえのない記憶の泉とともに、涙が止まらなかった
――僕は…
「…」
――僕は、生きたい
「……」
――僕はみんなと、大切なみんなと一緒に生きたい!
「そう。それがあなたの決めた未来?」
――うん。
「そう…よかった…」
――えっ?
その瞬間を迎えるのはあまりにも早かった
僕はドレアムが手にした漆黒の鎌によって真っ二つに切断されたのだ
不思議と痛みは感じなかったが、どんどん解けていくように存在感が失われていく
薄れゆく意識の中でドレアムのほうを見ると、彼女は微笑みながら涙を流していた
「さようなら。あなたは現実の世界で生きてください」
最後にドレアムの発した言葉を僕は聞き取ることができなかった
ふたたび意識を取り戻すと、そこには白い天井があった
上半身を起こして自分の姿を見ると、随分と華奢な体つきになっていた
よく見ると身体のいたるところにパッチのようなものが貼られている
ここはどこだろうと周囲を見渡すと両親が涙ぐんでこちらを見ていたのに気づいた
その瞬間母親は泣き崩れ、父親は何度もナースコールを押して先生を呼んでいた
意識がぼんやりとしたままなんとなく窓から空を見上げると何かが通ったような気がした
もう一度見ようと目を細めて空を注意深く見たが今度は何も見えなかった
なんだろうと思って視線を戻すとふと肩になにかが乗っているのに気づいた
手にとって見てみるとそれは透き通るような白さを持つ羽であった
「羽、天使…漆黒の鎌…!」
その羽をみると一気に僕は先程の夢のような出来事を思い出した
「そうか…きみが僕をこっちに送ってくれたんだね。ありがとうドレアム」
羽にむかってお礼を言うと、その羽が一瞬だけ金色に光ったように僕には見えた
読んでくださった皆様。ありがとうございます!
今回は初めて短編小説を書きました
なるべく短文で表現したいことをまとめてみよう…とやってみたのですがとても難しいですね。なんか分かりづらい作品になってしまったかもしれませんね(汗)
でも短編でしか表現できないものもある!そんなことも実感できたのでよしとしよう…と自分に言い聞かせますw
これからも長編小説を書いている合間にちょこちょこ投稿しようと考えていますのでお時間があるときにでも、少しの暇つぶしに読んでいただけると幸いです