靴
下校時刻、祐樹は美穂の靴箱の前に立っていた。ごくっと生つばを飲み込む。
周りには誰もいないから、絶好のチャンスだ。祐樹は彼女の上靴を手に取り、食い入るように見つめた。
さすが女の子の持ち物だ。自分の物と違ってきれいに使われていて、どこも破れていない。眩しいほどの白さだ。
祐樹は勇気を振り絞って、酸素マスクのように靴を鼻にあてた。「おおっ」と声が漏れた。美穂の天然のフローラルな香りがビンビン突き刺さってくる。全身から力が抜けてタコみたいになりそうだ。
「キャッ」という悲鳴と鞄を落とした音がした。忘れ物を取りに来た美穂が玄関に立っていた。
「な、何してるの?」彼女は体を震わせている。
「オレの靴と交換しようと思ってたんだ、ゴメン!」祐樹は美穂に靴を押し付けて、逃げ帰った。
頭の先から首筋まで赤くなった美穂は、靴を元に戻した。そして隣にある祐樹の靴にそっと手をかける。
彼女は、彼の靴の中の匂いを吸いこんだ。思わず笑顔がこぼれる。半年以上続けているこの習慣を今さら辞めることなんて、できるわけがない。
普通にこんなことしているのが見つかったら、社会的に抹殺されますね。