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十二ヶ月と花の歌

水無月~紫陽花~

 雨が強く降っていた。

 ザアザアと。

 その音を聞きながら(はるか)はゆっくりと古びた本のページをめくるのが好きだ。

 微かに甘い香りのするしっとりとした紙質はよく指になじむ。

 そして雨の音は外のやたら五月蝿い車や人の声をけし尚且つとても聞いていると落ち着く。

 遥にとっては至福の時間だ。

 今読んでいるのは夏目漱石の「吾輩は猫である」でなんどか読んだことのある本だ。

 遥は本が好きだった。

 彼女がどっぷりと本にハマったのは同じく本好きであった祖父の影響がとても大きい。

 彼女が小さいころは太宰治の「お伽草紙」やミヒャエル・エンデの「モモ」等をよく彼女を膝に載せ読み聞かせ大きくなってからはいろいろな小説を彼女に薦め彼女もまた祖父に最近の小説を薦めその内容を二人で語り合った。

 けれども、その祖父も数年前に他界し、遥はその蔵書の数々と祖父の暮らしていた庭にたくさんの紫陽花の咲く古い昔ながらの純和風の家屋を引き取った。

――――遺産として。

 (ん、なにこれ)

 ふと、遥はページの間に何かが挟まっていることを発見した。

 (紫陽花の栞?)

 それは紫陽花の花の押し花と薄桃色の紙でできた栞だった。

 (どこかでこれ見た事がある)

 遥はそう思いそれを手に取る。

 (あ、これ小さい時におじいちゃんにあげた栞だ)

 そのしおりは遥がまだ幼いころに祖父の誕生日プレゼントとして作りこの部屋で手渡したものだ。

 (まだ、残っていたんだ)

 たぶん、おそらく病気に倒れ病院へ行く前に最後に読んだ本だったのだろう。

 そう思うと近くに祖父がいる気がして少しだけ遥はこの本が愛おしく思えた。

 外ではゆっくりと雨がしとしとと紫陽花を濡らしていた。

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