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星神機ミソロジア―孤独を抱く瞳に白翼の道標を―  作者: 巴 雪夜
第二章:弱さに震える心を抱きしめて

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第9話 いくつかの疑問の答えを知って


 なんだとアルフィルクが見遣れば、彼女はダイヤモンドをそのまま埋め込んだような瞳を優しく細めてみせる。


 許されるだなんて微塵も思っていないのだ、彼女は。アルフィルクはなんだか馬鹿らしくなって言い返すのを止めた。



「で、今は待機でいいってことか?」


「そうなる。アポストルスも動きを止めている。襲われている場所は今のところない。グラナートの発見か、アポストルスの行動再開までは待機していていくれ」


「わかった」



 アルフィルクの素直な返事にクリフトンは目を瞬かせるも、なんとも不満げな表情を見られて苦く笑われてしまった。



「君のサポートはポラリスがやってくれる。何か分からないことがあれば彼女に聞くといい。何かこちらに質問があるだろうか?」



 クリフトンに「多少のことであれば答えよう」と言われて、アルフィルクはじとりと彼を見遣った。


 聞きたいこと、知りたいことがないわけでなかったので、アルフィルクは腕を組んで暫し考えてから「ポラリス(こいつ)から聞いたが」と口を開く。



「こいつは人工的に作り出されたっていうのは本当なのか?」


「ポラリスはフォルティアの遺伝子を元に生み出されているのは本当だ。親子関係で言えば、彼女はポラリスの母に値する」



 ポラリスが言っていたことは事実のようだ。ならばとアルフィルクは「調律者は必要なのか」と質問した。


 パイロットだけでいいのではないかという疑問があったのだ。それに答えたのはフォルティアだった。



機械生命体(ミソロジア)を調整する存在、それが調律者。楽器だって調律を専門としている人はいるでしょう? それと同じで機械生命体(ミソロジア)のバイタルを調整する存在は外せないの。これは整備するという問題ではないから整備員では駄目なの」



 機械生命体――ミソロジアのバイタルを調整するには身体を繋ぎ合わせる必要がある。乱れたパラメーターを心で感じ、頭で理解して安定させなくてはならない。


 フォルティアの故郷の星ではミソロジアとフォルティアたち星人(ほしびと)がパートナーとなっていた。


 星人は本能で機械生命体の調律をできるようになっている。



「この星で調律者を選定するよりも、わたしたち星人(ほしびと)の血を継げば簡単に済むでしょう」


「あんたも調律者なのか?」


「オリジンビリーブの調律者よ。ただ、オリジンビリーブのパイロットは少し特殊なの。巨大空母艦となってしまった彼女を操縦する人は一人ではないわ」



 複数の人間によってこの巨大空母艦は動いているため、オリジンビリーブのパイロットとして一人を選別するわけにはいかない。皆、かけがえのない存在だからだ。


 その結果、指示を出している人間を選ぶことになったのだと、フォルティアは教えてくれた。



「総司令官、クリフトンがオリジンビリーブに選ばれた存在に位置するわ」


「話が事実なら、一つ気になることがある」


「何かしら?」


「こいつは十六年間、調律者として育てられたと言っていた。なら、あんたは何歳になるんだ」



 フォルティアは人形のように完成された見た目をしているが、幼い少女と言っても違和感のない身長と顔立ちをしていた。


 彼女の遺伝子を元に生み出されたポラリスが十六歳ならば、フォルティアはどうなるのか。


 少なくとも、この姿で十六歳以上の年齢ということになる。アルフィルクの疑問にフォルティアはあぁと口元に手を添えた。



「年齢なんて数えていないわね。アナタは何歳なのかしら?」


「……十八歳」


「そうね、少なくともアナタよりはかなり年が上ということになるかしら? この星の人間は生きた年月を数えるのね」



 わたしの星では年月なんて数えないからというフォルティアの回答に、アルフィルクはなんだそれはと思わず突っ込んでしまった。


 その見た目で成人年齢を超えているという事実もそうだが、自分の年齢すら数えていないということにも驚いて。


 アルフィルクに突っ込まれたフォルティアは何がおかしいのかしらと不思議そうに見つめている。


 そんな彼女にクリフトンが「これは彼女の故郷の星によるものだ」と代わりに答えてくれた。


 星人(ほしびと)と呼ばれる存在の身体の造りは、この星の人間と差異が殆どない。けれど、大きく一つ違う点があった。それは〝老化速度が遥かに遅い〟という特性だ。


 身体が老化する速度が遅いため、見た目が幼いままで成人年齢を超えているのだという。


 内臓器官・血液・脳などの身体内部器官も同じように老化が遅いため、この星の人間よりも長く生きる長命種であることが検査で分かっている。


 そう説明を受けて、アルフィルクは異物を見るような眼差しをフォルティアへ向ける。



「信じられない気持ちは分かる。私も今だに衰える気配のない若さに驚いているんだ」


「でも、こいつは成長して……」


「ポラリスには父親に値する遺伝子が組み込まれている。それはこの星の人間のものなのだが、どうやらそれが原因のようでフォルティアのような特性が機能をしていない」



 星人とこの星の人間の遺伝子が合わさったことで、老化速度が遥かに遅いという特性が機能していないため、ポラリスは成長してしまっている。


 これは生み出すのに失敗したというわけではなく、相性の問題であったのだろうという結果が出ているのだとクリフトンは話す。



星人(ほしびと)の証である宝石の瞳をポラリスは持っているし、この星の人間と似た体格をしている。上手く両者の特性を受け継いでいるんだ」


「異常はないってか」


「ワタシの身体は健康よ?」



 アルフィルクの呟きに今まで黙って話を聞いていたポラリスが言葉を返す、異常は何処にもないのよと。身体の心配をしていたわけではなかったのだがとアルフィルクは片眉を下げた。


 確かに身体的には問題がないのだろう。けれど、戦うために生み出されたという点はアルフィルクにとって異常だった。生きる選択がそれしかないのだから。


 戦いが終わった後に彼女には何が残るというのだろうか。選択肢が与えられないというのは残酷なことであるのだとアルフィルクは思ったけれど、口にはしなかった。


 自分を見つめるクリフトンの眼が察しているかのように揺らいでいたからだ。



「何が違うの?」


「別に。なんでもねぇよ」


「……そう」


「他に質問はあるだろうか?」



 他、と問われると今は特にないといった答えになる。だから、アルフィルクはこれ以上は問うことをしなかった。


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