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星神機ミソロジア―孤独を抱く瞳に白翼の道標を―  作者: 巴 雪夜
第二章:弱さに震える心を抱きしめて

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第5話 震える手に力を籠めて、戦地へと


『リュウグウ国、オウラン地区――北部2203区 複数のアポストルスを確認』



 通信機から流れる指示にアルフィルクは眉を寄せる。ザフィーアのコックピットで視界モニターから外を眺めれば、何機かのアポストルスが街を破壊していた。


 無残なものだった、それは。火の手が上がり、瓦礫の海と化し、街の面影などもない。人の影すらもなく、無機質なサイレンの音が響く。


 自分が襲われた街もこうなっていたと思い出して、目を背けたくなるのを堪える。


 ザフィーアの索敵機能で判明しているのは、どれもリーダー機でないこと。周辺にも現れていないことから此処には出撃していないようだ。ふっと息を吐いた、少しばかり安堵して。


 リーダー機と戦ったけれど、他のアポストルスたちと違って力が強かったのを覚えている。


 恐怖が身体を這うのを感じながらアルフィルクはザフィーアを操縦した。操縦桿を握る手が少しばかり震えているのを握り締めることで誤魔化す。


 ビルをなぎ倒すアポストルスの前に白き隼が優美に降り立った。蜘蛛の多脚の機体とカマキリのような腕を持つアポストルスの二機がザフィーアを視認する。


 ザフィーアに追走していた多種多様な姿をしたエクエス機が、周辺のアポストルスと交戦を開始した。


 睨み合う三機、先に動いたのはカマキリのような腕を持つアポストルスだった。


 ゆらりゆらりと身体を動かしながら、鎌の手をザフィーアに振り上げる。瞬時にアルフィルクは操縦桿を切り返し、ザフィーアは後ろへと避けた。


 アルフィルクが操縦することでザフィーアは軽やかに動く。


 蜘蛛の多脚をわきわきと動かしながら突撃してくるアポストルスを白翼のマントで受け止めると、手にしていた隼の爪を思わせる槍で薙ぎ払う。


 ばちっと火花を散らせて左腕が吹き飛び、蜘蛛のアポストルスは悶えながら後退した。


 背後から振り下ろされる気配にザフィーアは白翼のマントを翻して槍で受け止めた。ぎちぎちと鎌の腕が槍を捕らえ、折らんとする勢いで力が籠められている。


 アルフィルクは操縦桿を操作し、ザフィーアはカマキリのアポストルスの腹を蹴飛ばした。


 タッチパネルに指を滑らしてコマンドを入力する。ザフィーアは迫りくるカマキリのアポストルスに複数の鎖を放った。


 生き物ように動く鎖がアポストルスの身体に巻き付き、拘束する。その勢いで地面を転がるカマキリのアポストルスを飛び越えて、蜘蛛のアポストルスが降ってきた。



「ちっ」



 アルフィルクは操縦桿を荒く傾けて、タッチパネルを押す。ザフィーアは姿勢を低くし、飛び込んでくる蜘蛛のアポストルスに向かって槍を投げた。


 一連の流れは早く、避ける隙も与えずにアポストルスの胸を突き抜ける。


 ザフィーアはそのまま拘束していたカマキリのアポストルスを蜘蛛のアポストルスにぶつけるように振り回した。


 がんっと機体同士がぶつかり、蜘蛛のアポストルスは吹き飛ばされて瓦礫に叩きつけられる。蜘蛛の多脚をぴくぴくと数度、跳ねさせてから機能を停止させた。


 アルフィルクは続けて操作をし、ザフィーアは拘束しているカマキリのアポストルスを何度も地面に打ちつけた。


 ばきばきっと音を鳴らし、崩れていく身体などお構いなしに打ち付けて、思いっきり振り回してから瓦礫へと放り投げる。


 腕が、頭部がばきっと折れる。どろりと液が垂れ流れて、それでも動こうとするのをザフィーアが止めを刺す。


 蜘蛛のアポストルスの胸から槍を引き抜き、這うカマキリのアポストルスの頭部へと突き刺した。


 視界モニターの端に【生命反応無し】と表示される。二機のアポストルスの死を確認して、アルフィルクははぁっと息を吐く。


 ぎゅっと瞼を閉じてからゆっくりと持ち上げ、視界モニターを確認すれば少し離れた先で複数のエクエス機がアポストルスと交戦しているのが見えた。


 まだいるのかと、アルフィルクは眉を下げた。怖気づきそうになる身体を無理矢理に動かして、交戦するエクエス機の元へと向かう。


 ザフィーアは白翼のマントを羽ばたかせながら槍を持ち変えると、エクエス機の前に立ってアポストルスの攻撃を薙ぎ払った。


 歪な形をした人型のアポストルスは後ろへと下がるも、手にした猟銃の武器を構える。


 放たれる弾丸を白翼のマントで跳ね返し、ザフィーアは地面を蹴ってアポストルスとの間合いを詰める。


 背後からエクエス機の援護射撃が飛び交う中、ザフィーアはすっと姿勢を下げて懐へと潜り込むと槍を振るった。


 首根を貫く槍にアポストルスが銃口を向ける――アルフィルクは一気に操縦桿を押し切った。


 ザフィーアは槍を持つ手に力を籠めて深く刺した刃を引き抜き、さらに一撃を加える。銃口から放たれる弾丸は頬を掠め、ザフィーアが武器を持つ腕を掴む。



「消えろっ!」



 アルフィルクの叫びと共にザフィーアの槍がアポストルスの腕を刺し、引き千切る。アポストルスの悲鳴のような声が響き、瓦礫の海へと崩れた。


【シールド耐久値:82.4% 稼働率:72.7%

 アポストルス:生命反応無し 周囲索敵:異常なし】


 視界モニターに表示される内容にアポストルスが居ないというのを確認する。


 遠くの方でエクエス機たちが戻ってきているのを見るに、追い払うことができたということなのだろうと、アルフィルクは握り締めていた操縦桿を離す。


 手を握っては開いてを数度、繰り返して震えを止めようとするけれど、そう簡単にはいかない。恐怖が、戦いたくないという感情があるのだから。



『こちら母艦オリジンビリーブ、オペレーターKR。アポストルスの撤退を確認しました。ザフィーアは帰還してください』



 通信機から聞こえる帰還命令にポラリスが返答する。アルフィルクが返事を返すことはなく、ザフィーアは優雅に白翼のマントを羽ばたかせながら空を飛んだ。


 巨大空母艦オリジンビリーブへと戻る中、この数日間をアルフィルクは思い出していた。ザフィーアの動かし方を基礎から叩き込まれた嫌な記憶を。


 バイタルなどの管理・補助はポラリスが全てやってくれている。ザフィーアも自分の意思で動ける範囲で行動してくれているので、彼が判断できない細かな操作をアルフィルクは覚えさせられた。


 操縦桿とタッチパネルを操作すればいいとは言うが、状況を素早く判断し、行動するというのは難しい。それをたった数日で叩き込まれたのだから嫌にもなる。


 似合いもしないパイロットスーツを着せられて、ぐちゃぐちゃになった感情で胸は焼け、気持ちが悪い。胃の中のものを吐き出したくなる衝動を堪えていた。


 よくこの状態でザフィーアの動かし方を覚えたものだと、アルフィルクは自分自身に驚く。若さなのか、死にたくないからなのかは分からないけれど、必死に覚えたのだ。


(気持ちが悪い……)


 アルフィルクは抑えきれない吐き気に口元を押さえる。隼のように飛ぶザフィーアの視界モニターから見える蒼い空を眺めてからゆっくりと瞼を閉じた。


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