Rb.2 毒道の森
「『毒道の森』に行く前に、零の武器石を買っておかないとね。」
「そうだな。魔法が使えるかどうかもわからないし、どんな武器が適性なのかも知っておきたい。」
三人は武器屋へ行った。
「いらっしゃいませー!」
「この子の武器石を買いたいんです。」
「わかりました。その前に、武器の適性を調べさせていただきますね。」
「あぁ、わかった。」
店員は零に直方体の石を渡した。
「この武器石に魔力と流すと、武器石の姿が武器に変わります。つまり、武器石の変化した先の武器があなたの適性武器となります。それでは、魔力を流してください!」
(魔力……確か、目を閉じて、冷静に、どこに魔力を流したいのか考えて念じれば………)
店員が話し終わって数十秒、何も起こらなかった。
「えぇと………零、本当に魔力を流しているかい?」
「流しているはずなんだけど……」
正哉の質問に零は答える。その間、二菜は零が持つ武器石をじっと見た。
「うーん………嘘はついていない………じゃ、じゃあ、零は適性武器のない魔法使いって事?」
「そういう事になるな…」
四人の中に、ほんの少しの沈黙が通る。
「あ、あー、そっかぁ。そうだったのかぁ。あ、あはは……それじゃ、行こっかぁ…」
微妙な空気の中、零、二菜、正哉は武器屋を出て『毒道の森』に向かった。数分後、三人は都市の北門を出て『毒道の森』のに入った。森の中は都市の雰囲気とは違い、空が葉に覆われ、少し暗くなっていた。
「そういえば、何で『毒道の森』って名前になったんだ?」
「それは、この道をまっすぐ進めばわかるよ。」
三人は森の中を進むと、零は遠くに紫色の何かがある事に気が付いた。
「何だあれ……?紫色の、道……?」
零は紫色の道をよく見ようとさらに進むと、見えない壁にぶつかり、しりもちをついた。
「いってぇ……!」
「零、大丈夫?ここから先は結界魔法が張られているから、私達は入れないようになっているの。」
「それは、なぜだ?」
「十年以上前、一人の女性が大量殺人をする事件があってね、リベルタージュの兵士が捕まえようとしても全員その女性に殺されてしまったんだ。そこで、通りすがりの魔法使いがこの森の奥深くに結界魔法を張って封印したんだ。」
「そんな事があったのか…」
「それで終わりならまだよかったのだけれど……見ての通り、あそこに紫色の道があるでしょ。不気味な事に、女性が通った後には紫色の液体みたいなものが残るの。リベラ王は森の奥深くに封印すれば餓死するだろうと読んでいたのだけれど……あの道が残っているってことは、女性がまだ生きている可能性があるって事なのよ。」
「十年以上封印されてるのにまだ生きているなんて…生命力が強すぎないか?」
「そうだよね…紫色の液体は時間が経てば消えるとリベラ王がおっしゃっていたから、あの道が残っている事が、女性が生きている証拠なのよ。」
「恐ろしいな………」
結界の奥を見ていると、二菜がパン!と手をたたいた。
「さて、暗い話はここまでにして、零が使える魔法を調べないとね!」
「そうだな。でも、どうやって調べるんだ?」
「その前に、ちょっと場所を変えよっか。」
三人は森の中でも木や植物の少ない場所に移動した。
「魔法には火・水・氷・土・雷・風・空間など、さまざまな種類があるからね、とりあえず、森の中だと火は使えないからできるだけ木の少ない場所で調べよっか!魔法の使い方は私が教えるから、零は指示通りに真似してみて!」
「わかった。」
「まずは魔法の基礎だね。魔法は基本、頭の中に出したい魔法をイメージして、その次に出したい魔法の位置を決める。そして出す魔法の名前を言う。これが魔法を使う一連の流れよ。例えば魔法使いの初心者が最初に覚える『火魔法 ファイア』は、頭の中に火をイメージして、次にどこに魔法を出したいのかを決めて、魔法を唱える。すると決めた位置に魔方陣が現れて火が出るの。私がお手本をするからよく見ててね。」
二菜は右手に杖を持ち、前に出す。
「火魔法 ファイア!」
二菜が唱えると、数メートル先に魔方陣が現れ、そこから小さな火が飛び出した。
「このような感じね。ここで気を付けるべき事は、流す魔力量とイメージする火の大きさよ。流す魔力が多ければ多いほど、またはイメージする火が大きければ大きいほど火が強くなったり大きくなったりするから、魔力量を多く持つ人はうまく調節しないとね。それじゃ、やってみて!」
「あぁ。」
二菜は杖を消し、零は両手を前に出した。
(頭の中に火をイメージして、魔法を出したい場所を決め、唱える。)
零の数メートル先に、魔方陣が現れた。
「火魔法 ファイア!」
零は唱えたが、何も起きなかった。
「………あれ?」
「魔方陣が出ていたから魔力はちゃんと流れていたのだけれど……失敗かな?もう一回やってみよっか。」
零は頷いて同じ動きをする。
「火魔法 ファイア!」
しかし、魔方陣は現れたが何も起きなかった。
「うーん、失敗ね。火魔法は使えないのかな。」
「えぇ……そうなのか……」
零は少し肩を落とす。
「でも、魔法使いの中でも向き不向きはあるもの。仕方がない。切り替えて、次は水魔法を使ってみよっか。」
二菜は零を励まし、魔法を教え続けた。しかし、二菜が教えた魔法は全て零には使えなかった。
「えーーーーーと…………これは、どういう事なのかな……」
「まさか、全部の属性の魔法が使えないなんてね……」
「全部惜しいところまではできているのだけれど、どうして使えないのかな………賢者のみが使える対アンデッドの魔法は教えていないから、もしかしたら零は魔法使いより賢者が向いているのかも………」
「マジか………」
零は肩を落とした。正哉は二菜に話しかけた。
「二菜、こういった事は珍しいのかい?」
「珍しくはないけれど、零の中に流れている魔力が異常なのよね……魔力は全身に流れているはずなのに、零は上半身に流れている量が少ないのよ。もしかすれば、上半身に流れる魔力量が少ないと、魔法が出にくくなるのかな……」
「でも、それだと魔法が使えない人は皆、体に流れている魔力がとても少ないことになるんじゃないかな?」
「魔力量は多いのに魔法が使えない人もいるし、魔力は全身を偏りなく流れているから、その可能性は低いと思うのだけれど……どうしてだろう……」
二人が話している間、零は一人でどのようにすれば魔法が出るのかを考えていた。
(火や雷のイメージはできる。魔力も流れていた。手順は合っているはず。それなら、何を間違えていたんだ?)
零は右手を顎に当てて考える。
(魔法はイメージすることで出すことができる。教わった魔法は使えなかったが、二菜と初めてあった時、二菜が使っていたメテオも、隕石をイメージすれば出せるのか…?)
零は手を下ろし、足を見て、右足のつま先を少し右に動かして音を鳴らす。
(……いや、そもそも隕石はいってしまえば岩石や金属の集まり。イメージではなく、理論的に考えれば、魔法は出せるのではないか?)
零は顔を上げて前を向き、両手を前に出し、地上から5メートルほど離れた位置に一つの魔方陣を出す。
(何もない場所から岩石を生み出し、一つの球体にまとめ、火をまとわせる。そしてできたものを、空中にある魔方陣から出す。そうすれば……!)
「創作魔法 隕石!」
零が唱え、魔方陣から現れたのは、木を一本飲み込むほどの大きさを持った隕石だった。
「……えっ。」
「へっ?」
「は?」
三人は空に現れたとても大きい隕石を見て固まる。
「「「ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」」」
そして、三人は声をそろえて叫んだ。
「ちょっ!やべぇ!早く離れねぇと!!」
「なにやってんの零!?急にすごい魔法を出さないでよ!!」
「零、二菜!僕の手を握って!」
零と二菜は正哉の手を握ると、正哉は二人を引っ張って下がった。
隕石は地上に落ち、大きな穴を残して消えた。
「はぁ、はぁ、びっくりしたよ……まさかメテオが使えるなんてね…」
「メテオは初心者にはとても難しい魔法なのに、どうして使えるの?」
「二菜がメテオを使ってて、もしかすれば俺も使えるんじゃないかと思ってな……」
「でも、あの大きさはおかしいよ!いきなり家一つなくなるほどのはびっくりするって!!」
「ご、ごめ……っ!?」
零は突然、ふらついて倒れそうになる。
「っ零!大丈夫!?」
零は倒れまいと体勢を整える。
「あ、あぁ、大丈夫、だ。」
「この感じ、魔力不足かな……?零、めまいはする?」
「する、な。」
「なるほど。やはり魔力が不足しているわ。少し待ってて。」
「空間魔法 アイテムボックス」
二菜は空中に黒い穴をあけ、穴に手を入れ、一つのポーションを取り出した。
「はい、魔力回復ポーション。飲んで。」
「あ、ありがとう。」
零はポーションを受け取り、中に入っている液体を口の中に入れた。すると、零の中で魔力が沸き上がった。
「ふぅ、めまいがしなくなった。助かった。」
「あの大きさだと相当な魔力量が必要だもの。魔力不足は魔法使いにとって死活問題でもあるから、使う魔力量には気を付けてね。特にメテオはそれなりに魔力を使うと思うから、練習はするべきよ。」
「そうだな。」
零が頷くと、付近の草むらからガサッと何かが動く音が正哉の耳に届いた。
「零、二菜、何かが来たぞ。おそらく魔物だ。」
正哉は手元に二つの剣を出し、戦う態勢をとる。続いて、二菜も手元に杖を出す。
「空間魔法 探査」
二菜は魔法を唱えた。
「この反応……草むらの向こうに、ウルフの群れがいるわ。しかも、一匹大きいわね。」
「グランウルフか。まさかこの辺りで現れるとはね……」
「強いのか?」
「グランウルフはウルフよりも一回り大きく、体が硬いんだ。だから、並の力では斬れない。少し、厄介だね。」
「っ!来るよ!」
二菜が言うと、草むらから一匹のウルフが飛び出し、正哉にかみつこうとした。
しかし正哉は冷静にかわし、隙ができたウルフを真っ二つに斬った。
「ウルフなら斬れるんだけどね…グランウルフは斬れるかな……」
正哉は独り言のように言うと、遠くから狼の遠吠えが響いた。
「まずい、仲間を呼ぶつもりだ!」
「防御魔法 エリアシールド!」
二菜が魔法を唱え、三人の周りに結界を張る。
「零のメテオと正哉の攻撃に反応して、相手は強敵だと判断したのね。四方から、ウルフの群れが近づいているわ。」
「どうする?もう一度あの魔法を出そうか?」
「それはやめておいた方がいい。火が森に燃え移ったら大惨事だからね。」
「それもそうだな。」
「まずは、ウルフの数を減らすところからかな。」
三人が話していると、背を向けた方向からグランウルフが飛び出す。
「っ!?後ろから!?」
零はグランウルフを魔法で倒そうと両手を前に出すと、突然、別方向から大きな斬撃が現れ、グランウルフを二つに斬った。
「えっ?き、斬られた…?」
斬撃はグランウルフを斬った後も進み続け、木を縦に真っ二つに斬って消えた。零の声に反応して二菜と正哉は振り向く。
「グランウルフが簡単に斬られるとは……今の攻撃をした人は、相当な力の持ち主だね。」
零は斬撃が現れた方向を見ると、奥に人影がある事に気づいた。
「あれは、誰だ?」
体は大きく、大剣を持ち、鉄の鎧を着た人が三人に向かって歩いてくる。
「急に大きな音がしたと思ってきてみりゃあ、なんっだこの大きな穴!?何があったんだ!?それと、なんだこのウルフの数!?お前ら何をしたんだ?」
低い男性の声が三人の耳に届く。
「あなたは…力斗?」
「ん?おっ、誰かと思えば二菜と正哉じゃねぇか!お前らも魔物狩りの任務を受けてここに来たのか?」
「まぁそんなところかな。」
力斗と呼ばれた赤髪ツーブロックの男性は大きく手を振る。その後ろで、グランウルフが近づいている事も知らずに。
「力斗!後ろ!」
二菜が叫ぶと、グランウルフは男性をかみつこうと全力で走る。男性はぐるりと振り返ると同時に、大剣を右下から左上に振り回した。すると斬撃が生まれ、グランウルフを斬り、その後ろにある木も斬った。
「今のは、ウルフか?」
「いや、グランウルフだよ。馬鹿力の力斗には二匹とも斬れるから関係ないだろうけどね。」
「へっ、まぁな!」
「ほめたつもりはないんだけど…」
男性は笑う。
「ん?そこにいる女は誰だ?」
瞳孔が小さいつり目の男性は零に指をさして言う。
「俺は女じゃない。男だ。」
「男なのか?ま、言われてみれば確かに男だな。すまんすまん。俺は 一ノ瀬 力斗 。大剣を使う冒険者だ。力には自信があるぜ!」
「有栖川 零。駆け出しの冒険者だ。よろしく。」
「さて、聞きたいことはあるが、先にウルフを片付けないとな!」
力斗は大剣を持って構える。
「力斗のおかげでグランウルフの数は減ったけれど、ウルフの数は多いままだわ。私から見て前方向にウルフが3匹、後ろにグランウルフ1匹とウルフ4匹、左右にウルフ3匹いるわ。」
「了解、力斗はグランウルフがいる方向に行ってくれないかな。僕達ではあの魔物を倒せなくてね。」
「おう!任せろ!」
「僕達は左右と前方向にいるウルフがを倒そう。」
「そうね。」
「わかった。」
力斗は大剣を担いで進み、二菜は右を向いて空中に魔方陣を、正哉は左を向いて構えた。少し時間が経つと、四方の木々の中からウルフが現れた。
「風魔法 ウィンドカッター!」
「剣技 クロスロード!」
二菜は魔方陣から風の刃を出し、ウルフを斬った。その間に正哉は高く前に飛んで結界を飛び出し、着地する場所に向かって十字の斬撃を出す。1匹のウルフは十字に斬られて倒れる。
「剣技 回転切り!」
正哉は着地をすると同時に剣を持ったまま両腕を広げ、その場で回転する。すると近くにいたウルフが斬られ、倒れた。
(隕石を使うなと言われたが、じゃあどうすれば……!?いや、さっきと同じように、理論的に考えて魔法を使えば……!!)
零は前を向いてウルフ達の足元に魔方陣を出す。
「創作魔法 上昇気流!」
零が唱えると3匹のウルフの足元から強風が現れ、空高く吹き飛ばされる。5秒後、風が止むと、吹き飛ばされたウルフは地面に落下し、動かなくなった。
(よしっ!上手くいった!)
「な、何…今の魔法……!?」
ウルフを倒し終わった二菜が驚く。
「零、今の魔法って…」
「ん?たった今思いついた魔法だ。」
「思いついたって事は、作ったって事!?」
「まぁ、そうだけど…どこかおかしいか?」
頭上に「?」を出す零に、二菜と正哉が驚く。
「えーーーーーーーーと…………ちょっっっっと待ってね??うーーん……なるほど……なんでよ!?」
二菜が悩む動きを見せてからツッコミを入れる。
「え、何がだ?」
「魔法を作ったことよ!!なんで上級の魔法使いでも難しいことを平然とやっていけるのよ!?」
「そ、そんなに難しい事なのか?」
「難しいわよ!!」
「おーっす、こっちは終わったぞー…って、何かあったのか?」
「零が、魔法を作ったらしい。」
「魔法を作ったぁ?そんなことできんのか?」
「普通はできないはずなんだけどね……」
「できないの!?」
正哉の言葉に零は驚く。
「魔法は基本頭の中でイメージして魔力を流せば出てくるからね。そもそもとして魔法を作る必要がないんだ。それに、魔法を作るには多くの魔力と試行錯誤が必要だから、とても効率的ではないんだ。でも、それをいともたやすくする零には、優秀な魔法使いである二菜からすれば驚きを隠せない事なんだ。」
「そうだったのか……」
(魔法を作る事が難しい……魔法はイメージするだけで使える……じゃあ、なぜ俺はイメージしても魔法が使えないんだ…?)
「さて、ウルフの群れも倒したことだし、素材を回収して戻ろうか。」
「素材…肉と皮をはぎ取ればいいのか?」
「そうだね。あと、グランウルフの牙も回収しておこう。一部の店で売れるらしいからね。」
四人はウルフの死骸から毛皮や肉などをはぎ取り、リベルタージュに戻った。




