Rb.0 記憶喪失の少年
C
目を開けると、そこは草原だった。
(…………ここは、どこだ?っていうか、俺は、誰だ?)
木が一本だけ立っている草原の上で、一人の少年が体をぐるりと一回転してあたりを見渡す。
空は青く、地面は草しかない、すぐそばに木が一本、そして、遠くに都市のようなものがあった。
次に少年は自身の体を見た。
赤のYシャツと黒の長ズボン、黒の靴、左手には何もなかったが、右手には分厚い本が一冊あった。
(目を開けた時から感じていた重みはこれが原因だったのか。)
「…………読むか。」
少年は木のそばに座って『君が今いる世界について』(著者 神)というタイトルの分厚い本を開く。
『初めまして。先に自己紹介からかな。この本の著者である私は 全てを司る神様 だ。』
「……こいつ、頭大丈夫か?」
少年が本音をこぼすと、ページに1つの文章が付け加えられた。
『ひどくない!?』
(声、聞かれているのか……)
『ま、まぁそれはさておき、この本を読んでいる君は、今、自分は誰なのか、ここはどこなのか、何もわからない状況だろう。何せ、私が君をここに転生させたからね。君は転生した代償として、記憶を失ってしまったんだ。そこで、君は記憶を取り戻すついでに神になってほしいんだ。』
(ついでのスケールが大きすぎんだろ!?なんだよ神になってほしいって!?)
『というより、神になってほしいが本題かな。でも神になるにはある目標を達成する必要がある。それは、魔王討伐。君が転生した世界は、魔法が存在するファンタジーの世界だ。魔法を使って空を飛んだり、炎や雷を操ったりすることができる。でも、今この世界は平和じゃなくてね……平和を脅かす存在 魔物 、それの王である 魔王 、世界を平和にするためには、こいつらを討伐しなければならない。魔王は今君がいる場所から3つの国を超えた先にある魔王城に住んでいる。今君がいる国を含め4つの国で君を鍛え、記憶を取り戻し、魔王討伐をしてほしい。どうだ?神の願いを聞いてくれないか?』
「…………なんか、面倒そうだからいやだな。」
ページに1つの文章が付け加えられた。
『ちなみに君に拒否権はないよ。』
「じゃあなんで聞いたんだよ!?」
『とにかく、君には魔王討伐を頑張ってもらうしかないんだ!次のページから君の名前とステータス、この世界 ノーリン の地図、魔物一覧、魔法一覧などがあるから、暇つぶしに読むといいよ。それじゃ、頑張って! 神より』
分厚い本の1,2ページを読んで、少年は多少の苛立ちを覚えた。
(とりあえず、一通り読むしかないか……)
少年は分厚い本を一文字も飛ばさず読み始めた。
1時間後………
少年は本を閉じた。
(なるほど、俺の名前は 有栖川 零 、ステータスは魔力と魔力量以外は平均以下、おそらく弱い。今いる国はリベルタージュという国で、太古の昔からあるみたいだ。遠くにある灰色の壁が、都市を守る壁なんだろう。そして、)
少年、零は、周りを見渡す。
「ただ今、危機的状況ってことか。」
零の周りには、丸く、透明で両手で抱えられるほどの大きさの生物や、子供ほどの大きさで、剣を持った、肌が緑の生物、銀色の毛むくじゃらの四足歩行の生物が数えきれないほどいた。
(本を見るに、透明で丸い生物がスライム、肌が緑の生物がゴブリン、四足歩行の生物がウルフなんだろう。さて、この状況、どうやって抜け出そうか……)
零が困っていると、突然、右から女性の声が響いた。
「火・土魔法 メテオ!!」
すると、空からスライムと同じ大きさの隕石が降り、魔物たちの4分の1を倒した。
「!」
「速く逃げて!!」
零は女性の指示に従い、彼女が開けてくれた道を通って危機を脱した。
「あ、ありがとう。」
「お礼は後で!それよりこの魔物の数、何があったらこんなに多く集まるの!?ひとまず、全員倒すしかないわね。」
魔物達は零が逃げた方向に体を向け、追いかけ始める。
青色のローブを着た女性は、女性の身長の半分の長さの杖を前に出し、両隣に魔方陣を出現させた。
「風魔法 ウィンドカッター!」
魔方陣からはいくつもの風の刃が現れ、魔物達に襲い掛かる。
魔物達を全滅させることはできなかったが、残った魔物は状況を理解したのか逃げて行った。
「ふぅ…あなたが無事でよかったー…」
水色のクラゲのような髪をもつ女性は持っていた杖の姿を消した。
「助かった。ありがとう。」
零は女性に頭を下げる。
「気にしないで。人を助けることは冒険者として当然のことだから。それにしてもあなた変わった服装ね……どこのブランド?」
「えっ、変、か?」
「変ね。まぁいいわ。あなた、名前は?」
「有栖川 零。」
「零ね、私は 御守 二菜 。魔法使いよ。二菜って呼んでもいいのよ。」
「あぁ、わかった。」
「ところで、零、あなた武器は持ってるの?」
「武器?持ってないけど。」
零が即答すると、二菜は触角のような髪を逆立てて驚く。
「持ってない!?あなた馬鹿なの!?武器を持たずに遠くまで行って読書していたの!?完全な自殺行為よ!?」
「ま、まぁ、武器の代わりとして本があるから…」
「それじゃ一時しのぎにもならないよ!!まずは都市に戻ろ!!話はそれから!」
「わ、わかった。」
二菜は零の腕を掴み、急いで都市の方向へ進む。
ここから、記憶喪失の少年、有栖川 零が、神になるために魔王討伐を目指す物語が始まるのだった。




