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夕暮れの王都。ほんのり赤く染まった空の下、祭りのような賑わいの市場を、セレスティーナとレオナルトは並んで歩いていた。
焼きイカのあとは、屋台を眺めながら適当に食べ歩き、次に目を引いたのは綿飴の屋台だった。
「懐かしいわね。子供の頃以来かしら。」
「……食べるか?」
「ええ。」
レオナルトが静かに手を上げ、屋台の男に金貨を渡す。すると、大きくふわふわとした綿飴が手渡された。
セレスティーナが手を伸ばすと、レオナルトは何を思ったのか、ふたつにちぎり——片方をそのままセレスティーナの口元に差し出した。
「?」
「ほら、口を開けろ。」
「……別に、自分で持てるわよ。」
「いいから。」
レオナルトの黄金の瞳が、淡々とセレスティーナを見つめている。まるで、当たり前のことをしているだけだと言わんばかりに。
(……もう、仕方ないわね。)
渋々口を開けると、ふわっとした甘さが広がった。
「どうだ?」
「……おいしい。」
まるで綿雲のように、舌の上でふわりと消えていく感覚。子供の頃に食べたものよりも、さらに軽やかで、優しい甘さが広がった。
「お前の食べ方は上品すぎるな。」
「何か問題でも?」
「いや、ただ、街では浮いてるなと思ってな。」
「これが私の気楽な食べ方よ。」
そう言いながら、今度は自分の手で綿飴をちぎり、レオナルトの口元へ差し出した。
「……食べる?」
レオナルトは、わずかに目を細めた。
「……ああ。」
そして、何のためらいもなくそのまま口に含んだ。
その仕草が妙に自然で、まるで昔からこうして過ごしてきたかのようで——セレスティーナはほんの少しだけ、胸がくすぐったいような気持ちになった。
次に足を止めたのは、大道芸の一角だった。
ナイフ投げの妙技や、派手な火吹き芸が観客を沸かせ、曲芸師が軽やかに玉乗りを披露する。王宮では決して見られない、生の活気がそこにはあった。
「……すごいわね。」
思わず見入るセレスティーナの横で、レオナルトも静かに眺めている。
「王宮では見られない光景だな。」
「そうね。でも、悪くないわ。」
「……なら、また来ればいい。」
「——」
セレスティーナは、ちらりとレオナルトを見上げた。
(まるで、私がここへ来るのを許してくれるみたいな言い方ね。)
王宮にいる間は、常に窮屈な生活を強いられる。しかし、こうして王宮の外へ出れば、ほんのひとときだけでも自由になれる。
(……いいえ、そんなことを考えても意味がないわ。)
彼女はそっと視線を戻し、大道芸の最後の演目を見届けた。
屋台をひとしきり巡ったあと、最後に立ち寄ったのは小さなアクセサリー屋だった。
「こちらのお揃いのペンダントはいかがです? 恋人やご夫婦で買われる方が多いんですよ。」
店主の言葉に、セレスティーナはわずかに動揺した。
(……恋人や、夫婦。)
そんな関係ではない。むしろ、私は婚約破棄されるために彼と距離を取らなければならないのに。
「お揃いのアクセサリー、か。」
レオナルトは静かに手を伸ばし、シンプルな銀細工のペンダントを手に取った。
「いいな。これにしよう。」
「……ちょっと待って、どうしてそうなるの?」
「せっかくだから、記念に。」
「王宮ではつけられないわよ。」
「なら、王宮以外でつければいい。」
「……」
(この人、本当にぶれないわね。)
それでも、断り切ることもできず、結局セレスティーナは小さくため息をつきながら、レオナルトが買ったペンダントを受け取った。
(王宮ではつけられないけれど……今日の思い出として、宝箱にしまっておきましょう。)
そう考えながら、そっとペンダントを握りしめる。
(……本当に、こんなはずじゃなかったのに。)




