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逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子  作者: つむぎ


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8

王都の賑わいの中、ひときわ目を引く光景があった。


屋台で売られている焼きイカを、上品に食べる美しい町娘。


淡い色のスカーフで髪を隠し、シンプルなドレスをまとってはいるが、その所作のひとつひとつが洗練されている。細く美しい指先が串を持ち、決して汚さぬように丁寧に口へ運ぶ。ふわりとした仕草でハンカチを口元に添え、まるで高級な晩餐を嗜むかのように焼きイカを味わっていた。


その異質な光景に、通りを行き交う人々が思わず二度見する。


しかし、本人はまるで気づいていない様子で、ゆっくりとした動作で串を持ち替えながら、満足そうに噛み締めた。


(うん、おいしいわね。)


庶民の食べ物とはいえ、炭火で焼かれたイカの香ばしさと、少し濃いめのタレの味が絶妙に合っている。思い切って街へ出てきた甲斐があった。


(たまには、こういうのもいいわね。)


そんなことを考えながら、ふと視線を感じて顔を上げた——その瞬間、背筋が凍る。


「……」


黄金の瞳が、じっとこちらを見つめていた。


「……レオナルト?」


「あぁ。」


至近距離に、第一王子。


(うそ、もう見つかった!?)


セレスティーナは慌てて立ち上がり、素早く周囲を確認する。カイルや他の護衛の姿は見えない。つまり、彼は単独でここまで来たということ。


(いや、連れ戻されるわ! せっかくの息抜きが台無しになる!)


警戒した表情でじりじりと後ずさるセレスティーナに、レオナルトは微かに微笑んだ。


「……何をそんなに身構えている?」


「そりゃ、見つかったら連れ戻されると思うからよ。」


「それなら心配はいらない。」


レオナルトはベンチに腰を下ろし、セレスティーナが先ほどまで座っていた場所をぽんぽんと軽く叩いた。


「ここに座れ。」


「……なぜ?」


「このまま、デートを楽しもう。」


「……は?」


セレスティーナは、思わず聞き返した。


(いやいや、ちょっと待って? どうしてそうなるの? これはただの息抜きの外出であって、デートではないでしょう!?)


「私を連れ戻さないの?」


「そのつもりはない。」


レオナルトは穏やかに言い、近くの屋台を指さした。


「せっかくだし、何か食べるか?」


「……」


セレスティーナは、じっと彼を見つめた。


(……いや、待って。このままおとなしく戻るよりも、むしろこうして付き合ってもらったほうが、王宮に帰ったあとで怒られることもないかもしれない。)


それに、ここで逆らえば逆に王宮へ連れ戻される可能性が高い。


「……仕方ないわね。」


セレスティーナは小さくため息をつき、ゆっくりとベンチに腰を下ろした。


レオナルトは満足げに微笑み、屋台に向かって手を上げる。


「ふたり分、頼む。」


かくして、セレスティーナの息抜きは、第一王子とのデートへと変わったのだった。

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