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王都の賑わいの中、ひときわ目を引く光景があった。
屋台で売られている焼きイカを、上品に食べる美しい町娘。
淡い色のスカーフで髪を隠し、シンプルなドレスをまとってはいるが、その所作のひとつひとつが洗練されている。細く美しい指先が串を持ち、決して汚さぬように丁寧に口へ運ぶ。ふわりとした仕草でハンカチを口元に添え、まるで高級な晩餐を嗜むかのように焼きイカを味わっていた。
その異質な光景に、通りを行き交う人々が思わず二度見する。
しかし、本人はまるで気づいていない様子で、ゆっくりとした動作で串を持ち替えながら、満足そうに噛み締めた。
(うん、おいしいわね。)
庶民の食べ物とはいえ、炭火で焼かれたイカの香ばしさと、少し濃いめのタレの味が絶妙に合っている。思い切って街へ出てきた甲斐があった。
(たまには、こういうのもいいわね。)
そんなことを考えながら、ふと視線を感じて顔を上げた——その瞬間、背筋が凍る。
「……」
黄金の瞳が、じっとこちらを見つめていた。
「……レオナルト?」
「あぁ。」
至近距離に、第一王子。
(うそ、もう見つかった!?)
セレスティーナは慌てて立ち上がり、素早く周囲を確認する。カイルや他の護衛の姿は見えない。つまり、彼は単独でここまで来たということ。
(いや、連れ戻されるわ! せっかくの息抜きが台無しになる!)
警戒した表情でじりじりと後ずさるセレスティーナに、レオナルトは微かに微笑んだ。
「……何をそんなに身構えている?」
「そりゃ、見つかったら連れ戻されると思うからよ。」
「それなら心配はいらない。」
レオナルトはベンチに腰を下ろし、セレスティーナが先ほどまで座っていた場所をぽんぽんと軽く叩いた。
「ここに座れ。」
「……なぜ?」
「このまま、デートを楽しもう。」
「……は?」
セレスティーナは、思わず聞き返した。
(いやいや、ちょっと待って? どうしてそうなるの? これはただの息抜きの外出であって、デートではないでしょう!?)
「私を連れ戻さないの?」
「そのつもりはない。」
レオナルトは穏やかに言い、近くの屋台を指さした。
「せっかくだし、何か食べるか?」
「……」
セレスティーナは、じっと彼を見つめた。
(……いや、待って。このままおとなしく戻るよりも、むしろこうして付き合ってもらったほうが、王宮に帰ったあとで怒られることもないかもしれない。)
それに、ここで逆らえば逆に王宮へ連れ戻される可能性が高い。
「……仕方ないわね。」
セレスティーナは小さくため息をつき、ゆっくりとベンチに腰を下ろした。
レオナルトは満足げに微笑み、屋台に向かって手を上げる。
「ふたり分、頼む。」
かくして、セレスティーナの息抜きは、第一王子とのデートへと変わったのだった。




