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「おい、お前は何を言ってるんだ?」
呆れたような低い声が、アリシアの声を遮った。
セレスティーナが顔を上げると、書斎の扉の近くに立っていたカイル・ブレイザーが、眉をひそめてアリシアを睨んでいた。
「か、カイルさん?」
アリシアが驚いたように目を瞬かせる。
「お前、自分が今何を言ってるのか分かってんのか?」
「え……」
「セレスティーナが、お前をいびってる? 王子の気を引こうとしてる? どこをどう見たら、そんな結論になるんだ?」
カイルは腕を組み、呆れを隠そうともせずに言い放った。
「第一、俺はずっとこいつの護衛をしてるが、お前が近づこうとするたびに、セレスティーナはむしろ嬉しそうに見守ってるぞ? それどころか、『がんばれアリシア!』って目をキラキラさせて応援してたくらいだ。」
「えっ!?」
アリシアが目を見開く。
セレスティーナは、こほんと咳払いをして、そっと目をそらした。
(それは……まぁ、否定はできないわね。)
「それにな、お前のほうこそ、なんで王子が自分に惹かれてるって思い込んでるんだ?」
「そ、それは……だって、私は聖女ですし!」
「聖女だろうがなんだろうが、王宮での振る舞いがなってなきゃ、貴族の連中に認められるわけねぇだろ。」
カイルは淡々とした口調で言った。
「お前、茶会での自分の態度をちゃんと振り返ったことあんのか? あの日、王子もヴィンセントもユリウスも、お前に関心すら示してなかっただろ?」
「そ、それは……!」
「いや、それだけじゃねぇな。むしろ、お前がしゃべるたびに、全員が遠ざかっていってたぞ?」
アリシアの顔が真っ赤になる。
「そ、そんなの! きっと私の魅力に気づくのが遅いだけです! 皆さん、もっと私と話せば、絶対に……!」
「はぁ……」
カイルは大きくため息をついた。
「いいか? こいつ——セレスティーナは、お前が恥をかかないようにわざわざ呼び出して、最低限のマナーを教えようとしてくれてたんだ。それを『いびられた』だの『嫉妬してる』だの、よくもまぁ勝手なことを言えるな。」
アリシアは、ぎゅっと唇を噛みしめる。
「……そんなの、信じません!」
「勝手にしろ。」
カイルは肩をすくめ、視線をセレスティーナに向けた。
「お前もよくやるよ。俺なら、こんな奴に何か教える気なんか起きねぇな。」
「まぁ……私は彼女に成功してもらいたいから。」
セレスティーナは涼しげに微笑む。
(そう、彼女が成功すれば、私は自由になるのよ。)
だが、アリシアはその微笑みを見て、ますます怒りを燃え上がらせたようだった。
「結局、セレスティーナ様は私の邪魔をするつもりなんですね! 王子さまとの仲を引き裂こうとして!」
そう叫ぶと、くるりと踵を返し、足音を鳴らして部屋を飛び出していった。
残されたセレスティーナは、静かにため息をつく。
「……私、何か悪いことしたかしら?」
「いや、悪いのはあいつの頭だろ。」
カイルは容赦なく言い放ち、首を振った。




