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茶会から数日後、セレスティーナは静かな書斎でアリシアを待っていた。
(あの茶会の様子……あれではいけないわ。)
アリシアにレオナルトが惹かれるべきシナリオ通りに進むどころか、彼女の振る舞いは完全に逆効果だった。男爵令嬢とはいえ、聖女として王宮に出入りする以上、最低限のマナーは必要だ。
(私が動くしかないわね。)
何より、アリシアがレオナルトの気を引けない限り、セレスティーナが自由になれる日は訪れない。
やがて、ノックの音が響いた。
「セレスティーナ様、お呼びでしょうか?」
明るい声とともに、アリシアが姿を現す。彼女は相変わらず無邪気な笑顔を浮かべていたが、どこか敵意を含んだ目つきをしていた。
(……なんだか、嫌な予感がするわ。)
それでもセレスティーナは、にこりと微笑み、穏やかな口調で切り出した。
「ええ、先日の茶会の件で少しお話したいと思って。」
「まぁ、茶会ですか? 私、とっても楽しかったです! お菓子も美味しかったですし、王子さまたちともお話できましたし!」
彼女は目を輝かせながら言った。
——しかし、それが問題だったのだ。
セレスティーナは、慎重に言葉を選びながら続けた。
「それは良かったわ。ただ……王宮の茶会には、ある程度の礼儀作法が求められるものよ。特に、聖女として王宮に出入りするあなたにとっては、立ち振る舞いがとても大切なの。」
「……え?」
アリシアの笑顔が、ぴくりと揺れる。
「ですから、もしよろしければ、最低限のマナーをお教えしようと思って。」
しんとした空気が流れた。
そして——
「そんなことを言うなんて、ひどいです!」
アリシアは突然、声を張り上げた。
「え?」
「そんなの……私に恥をかかせようとしてるんでしょう!? ひどい、なんてひどいの!」
(いや、待って。)
「私は聖女なんですよ!? 皆さん、私を見て可愛いって言いますし、素敵だって言ってくださいます!」
(うん、確かに可愛らしいわよ。でも、可愛さと礼儀は別の話よね?)
セレスティーナが何か言おうとするより早く、アリシアは両手をぎゅっと握りしめ、涙目になった。
「……分かりました。セレスティーナ様は、私に嫉妬してるんですね!」
「……え?」
「そうよ! きっとそうだわ! 王子さまが私に惹かれているのが悔しいんでしょう!? だからこんなふうに私をいびって、王子さまの気を引こうとしてるんですね!」
(は??????)
セレスティーナは思わず言葉を失った。
(この状況でどうやったらそんな結論になるの!?)
「違うわよ。私はただ——」
「言い訳しないでください!」
アリシアはさらに声を張り上げる。
「王子さまは私のものです! これ以上、私の邪魔をしないでください!」
セレスティーナはしばらく呆然と彼女を見つめた。
(……これは、もうダメかもしれない。)
心の底からそう思った。




