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逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子  作者: つむぎ


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13/21

13

裏庭に差し掛かったところで、セレスティーナはふと足を止めた。


「あら……?」


少し離れた場所で、アリシア・ローゼンベルクが何人かの貴族や神官に囲まれているのが見えた。


彼女は柔らかい光を纏いながら、信奉者たちに微笑んでいた。その表情は、以前のような無邪気なものではない。近頃、彼女は聖女としての役割を本気で果たそうとしている。


(……まぁ、良いことじゃない。)


以前のセレスティーナなら、ここで心の中で「その調子よ!」とアリシアの奮闘を応援しただろう。


だが、今は——


(もう、アリシアが王子を奪ってくれるとは思えないわね。)


彼女は静かに目を伏せた。


以前は、アリシアがレオナルトの心を奪い、自分が王宮を去る日が来ることを期待していた。だが、それは完全に消え去った幻想だった。


レオナルトは、自分にも他人にも厳しく、高潔な人物だ。決して浮気をするような男ではない。


それに、何よりも——


(あの人が、アリシアに靡くとはとうてい思えないわ。)


いくらアリシアが聖女として努力しようと、それがレオナルトの心を動かすことはない。彼は光に惹かれるのではなく、王として、冷静に国を導くための判断を下す男だ。


それならば、アリシアがどれほど努力しようとも、彼が婚約破棄を望むことはありえない。


(……仕方ないわね。)


それでも、セレスティーナは苦笑しながら、アリシアの姿をじっと見つめた。


(聖女として努力しているのは、悪いことじゃないわ。)


以前のように、ただ王子に近づこうとするだけではない。彼女は王宮内での影響力を得るために、本気で聖女としての役割を果たそうとしている。


自分の期待はとうに消えた。それでも、こうして努力を続けるアリシアを、ほんの少しだけ見直す気持ちで、セレスティーナは微笑ましく彼女を眺めていた。





アリシア・ローゼンベルクは、自信に満ちた笑みを浮かべながら王宮の回廊を進んでいた。


(今ならいけるわ……!)


王宮での聖女としての活動が広まり、貴族や神官たちの支持も得た。これまで無視されがちだった自分の存在は、今や確固たるものになりつつある。


この勢いを利用して、次はヴィンセントとユリウスを攻略する——!


王子とカイルがダメだったのは仕方ない。しかし、乙女ゲームではヴィンセントとユリウスにもそれぞれルートがあった。


(きっと、私が努力している姿を見て、二人も興味を持ち始めているはず!)


まずは、冷静沈着なヴィンセント・クラウゼから。


第一ターゲット:ヴィンセント・クラウゼ


書庫で本を読んでいたヴィンセントに、アリシアは意気揚々と声をかけた。


「ヴィンセント様!」


彼はゆっくりと顔を上げたが、視線は淡々と冷静なままだった。


「……何の用だ?」


(よし、ここはヒロインらしく純粋な気持ちを伝えるのが大事!)


「最近、ヴィンセント様が忙しくされていると聞きました。もしよろしければ、お力になれることがあればと思いまして……」


彼女はにっこりと微笑み、少しだけ頬を染める。


しかし——


「その必要はない。」


バサリ、と本が閉じられる音。


「……え?」


「私に不要な情は無用だ。君は聖女としての仕事を全うすればいい。それ以外のことに首を突っ込まなくていい。」


「……っ!」


(な、なんで!?)


ゲームのヴィンセントなら、ヒロインの純粋な申し出に少しずつ心を開くはずだった。しかし、現実の彼は完全に無関心。むしろ、「余計なことをするな」と言わんばかりの態度だった。


ヴィンセントは静かに立ち上がり、本を棚に戻すと、淡々とした口調で言い放つ。


「……忙しい。用がないなら、失礼する。」


そして、そのまま書庫を後にしてしまった。


(そ、そんな……!)


呆然とするアリシア。しかし、彼女はすぐに気持ちを立て直した。


(まだユリウス様がいる!)


第二ターゲット:ユリウス・アシュレイ


ユリウスは、王宮のテラスで昼間からワインを飲んでいた。


自由気ままで束縛を嫌う彼なら、気軽に話しかければチャンスがあるはず。


「ユリウス様!」


アリシアは笑顔で駆け寄る。


ユリウスはちらりと彼女を見たが、いつもの気だるげな調子でグラスを揺らすだけだった。


「……ああ、聖女様。何か用?」


「よろしければ、お話ししませんか?」


ユリウスはワインを一口飲み、ゆるく笑う。


「へぇ? どうして僕に?」


「ユリウス様のお話を聞いてみたくて……!」


「ふーん……」


ユリウスはしばらくアリシアを見つめた後、軽くため息をついた。


(よし、興味を持ち始めた!?)


そう思った次の瞬間——


「まあ……兄さんの婚約に、これ以上ちょっかいかけられるのも面倒だしね。」


(……え?)


「僕としても、兄さんが苛立つのを見たくないし、そろそろ手を打つべきだと思ってたんだ。」


(え、えっと……何の話?)


アリシアが戸惑うのをよそに、ユリウスはにこりと微笑んだ。


「仕方ないなぁ。少し付き合ってあげようか?」


(……え? そ、それって……私に興味を持ち始めたってことよね!?)


彼の意図を深く考えず、アリシアは喜びに目を輝かせた。


(ついに……ついにユリウス様が私に!)


ユリウスは、そんな彼女の反応を見て、くつくつと喉を鳴らすように笑った。


「じゃあ、ちょっと散歩でもする?」


「はい!」


彼女は嬉々として彼の隣を歩き出した。


——しかし、その笑顔とは裏腹に、ユリウスの目はどこか冷静だった。


(……さあ、君の本心を探らせてもらおうか。)


彼は「兄の婚約を乱す者」としてアリシアを警戒していたが、最近の彼女の変化には違和感を覚えていた。


(……なぜ、急に“聖女らしく”なったんだろうね?)


アリシアの行動が変わったのは、レオナルトがセレスティーナから離れないことを悟ってから。まるで、自分の求める展開にならなかったことに焦るように、急激に王宮での立場を固め始めた。


ユリウスは彼女の本心を探るため、わざと「興味がある」ように振る舞うことにした。


(まあ、少し遊んでみるのも悪くないか。)


アリシアは、ユリウスの気まぐれな態度を「攻略成功」と思い込んでいたが、実際には——


彼女は今、彼に観察されているだけだった。


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