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陽光がステンドグラスを透かし、磨かれた大理石の床に淡い影を落としている。セレスティーナはヴィンセントとともに歩いていたが、前方から近づいてくる貴族の一団を見て、うっすらとした微笑を浮かべた。
(また、くだらないことを言いに来るのね。)
「セレスティーナ様、ご機嫌麗しゅうございます。」
柔和な笑みを湛えながら、ひとりの伯爵が歩み寄る。周囲に数人の同調者を従え、明らかに何かを仕掛ける意図を持っていた。
「ええ、ご機嫌よう。」
セレスティーナは完璧な笑みを崩さずに応じる。
「このような美しい方が、王家に縛られるとは……惜しいことですな。」
伯爵の言葉に、周囲の貴族たちが小さく笑う。
「まったくです。王家のあり方には、少々思うところがありますな。過去においても、正妃を迎えながら別の令嬢を側妃に迎えるなど、節操のない振る舞いがありましたし。」
「最近は第一王子も、ご婚約者様を一途に想いすぎているご様子。それではまるで、国王の誤った過去をなぞるかのようですな。」
それは遠回しに、「王家には誠実さがなく、第一王子の執着も滑稽だ」と言っているようなものだった。
(……なるほどね。)
セレスティーナは、淡く微笑んだまま、相手の意図をすぐに理解した。
王家を批判しながら、私をレオナルトから引き離そうとしているのね。
「まあ。」
彼女は優雅に息を吐き、まるで深い感慨に浸るかのように視線を伏せた。
「確かに、王家には歴史があり、それぞれの時代にさまざまな選択がなされてきました。ですが……誤った過去を重ねぬように、今、王子が王家をより良い未来へ導こうとしているのは、とても尊いことではないかしら?」
伯爵の顔が、微かにこわばる。
「……それは、つまり?」
「誠実さを貫くことこそが、過去の過ちを正す道なのでしょう?」
そう、レオナルトがただセレスティーナを一途に想うことは、節操のなさではなく、むしろ王家の汚点を清算する行為に等しい。
それを指摘された伯爵たちは、何も言えなくなる。
「……私どもは、ただ、婚約者様のお立場を気にかけておりまして。」
「それはご親切に。」
セレスティーナは涼やかに微笑み、優雅に一礼すると、そのままヴィンセントとともに歩き去った。
「……まったく、くだらない連中だ。」
人気のない回廊に差し掛かると、ヴィンセントが低く息を吐いた。
「王家を批判するのは勝手だが、あの節操なしの国王と、気持ち悪いくらいセレスティーナに一途なレオナルトを一緒くたにするとはな。」
その言葉に、セレスティーナの足がぴたりと止まった。
「……」
彼女は遠い目をする。
(そうね、気持ち悪いくらい一途よね。)
レオナルトは、決してアリシアに流されることなく、セレスティーナにばかり目を向け続けている。どんなに王宮の重圧に疲れようと、どんなにセレスティーナが距離を取ろうとしても、彼は決して手を離そうとしない。
「……セレスティーナ?」
「……なんでもないわ。」
セレスティーナはそっと息を吐き、何事もなかったかのように歩を進めた。
その肩には、ほんの僅かに、目に見えぬ重さがのしかかっていた。




