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アリシア・ローゼンベルクは、自信満々に王宮の廊下を歩いていた。
(王子がダメでも、まだ攻略対象は残っているわ! 乙女ゲームでは、私の純粋さに心を動かすヴィンセント、そして私の自由さに興味を持つユリウスのルートがある!)
そう、これはまだ勝負の途中。
彼女はまず、ヴィンセント・クラウゼの元へ向かった。
宰相の息子であり、冷徹な策略家である彼は、社交界でも隙を見せることのない鋭い視線を持つ。だが、乙女ゲームのルートでは、ヒロインの天真爛漫さと純粋さに触れ、次第に心を開く展開だったはず。
(ふふっ、大丈夫。私なら攻略できるわ!)
そう意気込んでヴィンセントの執務室の前まで来ると、ちょうど彼が扉を開けて出てきたところだった。
「ヴィンセント様!」
アリシアは満面の笑みで駆け寄る。
「お時間、よろしいですか?」
「……何の用だ?」
ヴィンセントは書類を手にしたまま、淡々とした口調で問いかける。その水色の瞳は、興味のない相手を見るように冷静で、まったく感情を浮かべていなかった。
(ふふっ、最初はそっけなくても、ここからが攻略の始まりよ!)
「王宮の庭園を散歩しませんか? ヴィンセント様はお忙しいでしょうけれど、少し気分転換になるかと思いまして!」
明るく微笑み、純粋さを前面に押し出す。
だが——
「……遠慮しておこう。」
ヴィンセントは即答した。
「えっ?」
「私は忙しい。それに、興味のないことに時間を割くつもりはない。」
冷たく言い放つと、そのまま書類を持って歩き去っていく。
(えっ……ちょ、ちょっと!? こんなの聞いてない!!)
ヒロインが誘えば、**「仕方ないな」**と呆れながらも応じるはずでは!? なのに、まるで門前払いのように去って行ったヴィンセントを見送るしかない。
(そんな……! でも、まだユリウス様がいるわ!)
気を取り直し、今度は第二王子ユリウス・アシュレイを探しに行く。
彼ならば、もっと軽いノリで接してくれるはず。
(このルートでは、私の奔放さに興味を持って、一緒に王宮を抜け出す展開があるのよ!)
王宮の回廊を進んでいくと、運よくユリウスがワインを片手にくつろいでいるのを見つけた。
(チャンス!)
「ユリウス様!」
アリシアは軽やかに駆け寄る。
「お会いできて嬉しいです! よろしければ、ご一緒にお話ししませんか?」
しかし、ユリウスはワインを揺らしながら、面倒くさそうに片目を開けた。
「んー?」
「最近、王宮でお会いする機会が少なかったので……私、ユリウス様のお話を聞いてみたくて!」
甘えるように微笑み、袖を軽く引く——が。
「そう?」
ユリウスはのんびりとした調子で答えた後、すっと手を伸ばして、アリシアの額を軽く押した。
「えっ?」
「君みたいなタイプはねぇ、好きじゃないんだよね。」
「……え?」
「俺、押しの強い子って苦手なんだ。ごめんね、他当たって?」
そう言って、軽く手を振ると、ワインを傾けながら再びくつろぎ始めた。
(……う、嘘でしょ……?)
アリシアは愕然とした。
攻略対象たちが、まったく振り向いてくれない。
(こんなの……こんなのって……!)
王子もダメ、カイルもダメ、ヴィンセントもダメ、ユリウスもダメ。
乙女ゲームのシナリオから、どんどん逸れていく。
(なぜ……なぜなの!?)
次第に、アリシアの中である考えが浮かび上がる。
(……全部、セレスティーナのせいよ。)
王子はセレスティーナに夢中。カイルも彼女の味方。ヴィンセントもユリウスも、何かとセレスティーナに関わることが多い。
アリシアは唇を噛みしめ、悔しさに拳を握りしめた。
彼女の邪魔さえなければ、攻略対象たちは本来の流れに戻るはず。
(そうよ……これはゲームの世界なんだから、私が主人公であるべきなのよ!)
アリシアの中で、決意が固まった。




