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三十六話 本心


 警察の制服に身を包んだ高瀬と共に街を歩けば、先程までと違い男性からも好奇の視線を向けられる四条。確かに、見方によっては連行されているようにも思われそうだ。だとしても女性から声をかけられもしなくなったので、この世界に属さない四条からすればメリットの方が大きい。


「高瀬さんといると女性が近寄って来なくて助かりますねー」

「そうでしょう! 今度からはボディーガードを連れて歩いてくださいね。そうすれば、今みたいに快適かつ安心して街を歩けますから。安いとこなら一日1万ちょい……でも、これはついて歩くだけでなのでお勧めはしません。ちゃんと守って欲しいなら3万円は出さないとですね。今日みたいに学校周辺とかだと需要が多いので5万円くらい取られるかも?」

「それは、まあまあ良い金額しますねぇ」

「安心をお金で買えると思えば、悪く無いのでは」


 いまいち、ボディーガードには馴染みがない四条。民間の警備会社的なものだとして、そこに一日で5万円支払うのは一般人には厳しいのでは無いか。それは、この世界で男性をあまり見かけないのも当然だ。出費を抑える為、不要不急の外出は控えているという事だろう。


「もっとも、時々ボディーガードが警護対象を襲ったりするケースもありますが。警察官としては許し難い行為ですよ」

「言われてみれば、身辺警護は犯罪の温床にもなり得ますね。悪い人からすれば絶好の機会でしょう」

「はい。ですので、四条さんが護衛を雇う際には信頼できる警備会社に依頼する事! わかりましたか? 安かろう悪かろうですよ」


 重ね重ね、こんな世界に生まれなくて良かったと実感する四条である。貞操逆転世界に転生した男性が、異世界サポートセンターの女性社員に手を出そうとしたケースがあるそうだが、碌に一人で出歩け無い世界でどうすれば増長出来るのか。もしくは逆転していない世界の女性相手だから強く出られたのか。


「街を歩く男性、皆さんうつむいたりしていて覇気がありませんね」


 若者も老人も、護衛の背中に隠れるように歩いている。四条の言葉に高瀬は何を今更? と、不思議そうにするだけだった。


「さぁ、つきましたよ。女子生徒や女教師にはくれぐれも用心してくださいね? 連絡先とか、安易に交換してはダメですよ!」


 高校の事務室側出入り口。その前で、高瀬は四条の帰りを待ってくれているらしい。


「中までついて来てはくれないのですか?」

「……警察官といえど、正当な理由が無く学校内へは入れませんからね。ここで待ってますから、気にせず商談して来てください」

「わかりました。お忙しいのに、ありがとうございます」

「気にせずとは言いましたが、この制服で高校の前に一人いるのは少々……。やっぱり、気持ち急ぎ目でお願いできますか?」


 既に注目を集め始めている高瀬。四条も長居するつもりは無いので、頷いて受付へ急いだ。


「こんにちは。どのようなご用件ですか?」


 事務員の男性が四条に入館受付を促しながら確認してくる。


「こちらに用務員の吉田さんはいらっしゃいますか?」


 ここでも社員証を見せながら記帳すると。


「はい、在籍してますよ。用務員室は廊下の突き当たりを左です」


 微塵も疑われる事なく校内へと侵入出来た。


「学校なんていつ依頼かな」


 呑気に校舎を見物しつつ、ここに吉田という名の用務員がいる事は確定したので気を張り詰めておく。社員証の暗示があっても、四条が疑われないだけの効果だ。そもそも吉田という用務員がいなければ止められていた。最低限、同姓の用務員はいるという証。ならばそれが元異世界サポセンの吉田である確率は高い。

 受付を抜けた廊下は、給食室や準備室など生徒があまりやって来ない部屋が集中する区画だった。来客用のスリッパが歩く度に脱げそうになる。これで階段なんて上がったら天気占いよろしくすっ飛んでいきそうだ。


「ここか」


 用務員室。簡素なプレート。中に人の気配がするので、まずは鉄扉をノックしてみた。


「はーい、どうぞぉ」


 野太い男の声。学校関係者が来たと思ったのか、二つ返事で招き入れてくれる。そもそも用務員に商談しに来る人もいないだろうから、この反応が自然か。


「失礼します」


 四条は吉田のどのような出方にも対応可能なよう、【アズールバリア】を用意だけしておく。相手が元異世界サポートセンター社員の吉田ならば、何をしてきても不思議は無い。


 8畳ほどの空間。ソファにテーブル、流し台や冷蔵庫、コンロが備え付けられたアパートみたいな部屋だった。住もうと思えば、ここだけで生活が成り立つ。

 その奥、飾り気の無い事務机に座って新聞を読む男が横目で四条を捉えていた。


「ありゃ? なんだ、お客さんか」


 てっきり生徒か教師がやって来たと思い込んでいたらしい男は、意外そうな声を出した。


「お忙しいところ失礼します。私、異世界サポートセンターの四条と申します」


 いつもの通り、深々としたお辞儀。用務員は新聞を乱暴に畳むと、四条の顔を覗き込んで笑う。無精髭に焼けた肌。良い歳して遊び人風なちょいワル系か。


「知ってるよ、札幌支店で何度も顔は見てたからな」


 ニカっと歯を見せる。つまりは、眼前の男は吉田に間違いない。四条も、こうして顔を合わせれば何度も社内で見かけた記憶をボンヤリ思い出せた。社員時代は髭も剃り、肌ももっと白かった記憶だが。


「ご苦労だねぇ、こんな異世界まで。次のサポート役は君って事かい? 既にこの世界の住人となった俺にまで挨拶回りとは殊勝じゃないか」


 吉田は四条を自分の後任だと判断したらしい。サポート対象がこの高校にいて、前任者も用務員として存在していれば挨拶するくらいは普通か。


(さてと。どう攻めたものか)


 四条には二つの選択肢がある。後任のフリをして情報を引き出すか、単刀直入にイスタルテ案件について聞いてしまうか。魔王の娘を知っていながら隠していた吉田の心理が読めない以上、下手に踏み込むと黙秘されてしまう恐れもある。


「まだ後任とは確定していませんが……桜井課長から、一度現地の状況を確認してくるよう言われまして」


 とりあえずは後任を決めるための確認作業とした。


「そうかい、どっちにしろご苦労なこった。辞めて迷惑かけてる俺が言えるセリフじゃ無いけどなっ!」


 豪快に笑う吉田。そのままキッチンへ歩くと、インスタントコーヒーの瓶を棚から出して


「悪いけどインスタントで我慢してくれや」


 やかんを火にかけ、マグカップに目分量で粉を入れる。見た目通り豪快な性格だ。


「恐れ入ります。それで吉田さん、この世界のサポート対象の調子は如何ですか?」

「如何もクソもねぇ。四条くんも、この学校来るまでに違和感を覚えたんじゃねーか? 女性の反応によ。俺らがいた日本とは基本的に構造が違っちまってるのよ。転生者の男子も戸惑いっぱなしさ。前の世界より異性にモテる……そこに間違いはねーが、手放しで嬉しがったりは出来ないよなぁ」


 確かに、社会構造まで歪んでいては戸惑いもあるだろう。

 吉田がまたもや目分量でカップに砂糖をぶち込むと、まだお湯が沸かないやかんに痺れを切らし、火力を最大にした。


「女神様がお決めんなったこった。異世界サポートセンターとしては、全力でサポートするしかないわな。元社員となった身からすれば、もっと良い転生先は無かったのか? って話だがな」

「ですねぇ。異性にモテれば幸せか? と問われれば、この世界はモテてるというより扱いが雑になったと言うか。男が歩くのに護衛がいるとは、デメリットも大きいと感じます」

「その通りだ。実際、俺はもう異世界サポセンの社員じゃあないが、お前らが後任を送ってくる気配が無いから善意で転生者のサポートを続けてやってんだぜ? とっとと後釜を決めくれや」

「それは……助かります」


 だからまだ用務員としての身分を利用中なのか。段々と、イスタルテ案件よりもこの世界の転生者が気になって来た四条。とはいえ、F案件よりもA案件の方を優先するのは社の鉄則。ただ、この世界の転生者をサポートする事が魔王の娘の情報に繋がるのなら、先にそちらを解決してしまうのも手か。


「こないだなんてよぉ、俺が三限の授業中に南階段を清掃してたら転生者クンが先輩女子3人に乱暴されそうになってたんだぜ? 全く油断も隙もねーよ」

「あれ? 校内ではボディーガードは」

「原則いないな。教師が目を光らせているし、いても女子生徒が兼ねるケースが殆どだ。授業中だと、そのボディーガードも授業を受けなきゃなんねーし」

「なるほどですねぇ」


 聞いているフリをして、内心は興味無いね。と、どこかのソルジャーになりかける四条だったが吉田の機嫌は損ねられない。


「だから四条くん。戻ったら桜井課長に伝えてくれや、後任は女子社員が良さそうですってな」


 お湯を注ぎ、ガチャガチャとスプーンでかき混ぜ完成したコーヒーを差し出してくれる吉田。


「ありがとうございます」


 全て目分量だと言うのに、意外と美味しかった。これが【男のインスタントコーヒー】か。


「ところで。俺のもう一つの担当世界……イスタルテ案件は誰か後任が決まったのか知ってる?」


 吉田はソファに腰を落とし、足を組む。


「イスタルテ様の……【A-27】案件ですね?」

「そうだ。この世界と同様、半端なところで放り投げちまったもんだから、気になっててよぉ」


 自分の分のインスタントコーヒーを一口で飲み干した吉田。熱湯に近い温度だというのに、まるでアイスのようだ。


 ここはどう答えるのが無難か。四条が担当だと言えばそちらを探りに来たのが丸わかり。


「……三ツ橋という俺の後輩です」

「三ツ橋? 聞いた事ねーな。まだ経験浅いんじゃねーの?」

「まあ。ですが、イスタルテ様が【伝説の剣LS-80】を購入してくださったのでなんとかなりそうです」

「80……ねぇ、そりゃすげぇ。魔王も相手じゃねーな」


 魔王が80レベルも無いことは吉田も知っていたらしい。しかし、あの社内フォルダが本当に吉田の作成したものなら、魔王が倒された後、その娘が80レベルを超えていそうなのも知っている筈。四条が冷静に、ポーカーフェイスで吉田をチラ見すると。


「魔王が倒されれば、あの世界も平和になるなぁ。イスタルテさんも大喜びだ!」


 魔王の娘を知っていれば出ないセリフを吐いた。四条がイスタルテ案件には無関係と判断しての演技か。普通なら「実はあの世界には魔王の娘もいてな」と情報をくれる場面では無いか。


(この男……こんなF世界で、無関係になったイスタルテ案件を気にかけ続けるとは。一体何が目的なんだ?)


 こうなってくると、吉田は魔王の娘を意図的に隠していると判断して間違いない。


「……ですね。イスタルテ様の担当世界でF案件が生まれれば、転生先に困る事も無いでしょうし」

「そうなれば、エイリーン王女も救われる……か」


 四条の瞳を見つめる吉田も又、何かを見定めている様子。


「吉田さん。退職した貴方に協力する義務もありませんが、もう少しこの世界について聞いてもよろしいですか?」

「ああ、いいぜ! 今日の業務はほぼ終えて、暇してたからな」


 四条が魔王の娘を認識していると吉田にバラすにはまだ早い。

 あくまでもこの面会目的は貞操逆転世界がメインですよ、といったアピール。お互いに本題はイスタルテ案件にあると勘づいた上で、しばらくはこの世界についての情報共有を行うのだった。

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