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二十九話 カスタマーサイド



 イスタルテと共に田中の元へ行くには、ともあれ彼が滞在する王城に転移しなくてはならず。四条は伝説の剣入りの段ボールを抱え、イスタルテの準備が整うのを待つ。


「ちょ、ちょっとお待ちくださいね。確かこの辺にしまったんですが……下界に降りる時には、アレがないと始まらなくて」


 ガサゴソと、女神の間に場違いに備え付けられた押入れのような収納をあさるイスタルテ。箱を引っ張りだしては、「これじゃないし……」「これも違う……」とポイポイ部屋を散らかしだす姿は、この神に祈る人間にはとてもお見せできない。


「もしやウチの【登場用アイテム】ですか? 探してるのは」


 四条はまだ準備に時間がかかりそうだと判断し、ひとまず段ボールをそっと床に置く。


「そうです! まだ、天使のはしごの在庫が残っているはずなんですけれど……」


 神々しさを演出する為には、女神であってもサポートセンターの製品を使用する場合があり、まさに今回もイスタルテは【どこでも天使のはしご】を演出に使う予定らしい。

 雲の隙間から太陽の光が漏れて差し込む、薄明光線と呼ばれる現象を作り出すアイテム。室内だろうと夜だろうと天上から降り注ぐ光を再現可能な為、天使や女神には大変人気の品だ。他にも、出現する際の音楽や効果音を鳴らす為の商品もあり、組み合わせることで一般人であっても存在感を抜群に出来る。


 たかがアイテム納品に、ことの他時間を取られてしまっている。何度目かのあくびを噛み殺したあたりで、ようやくイスタルテが


「ありましたーっ!!」


 と、勢いよく上半身を押し入れから引き抜いた。片手に収まる、オレンジ色の宝石が施されたブローチのような見た目。これを起動すれば、イスアルテはただ転移するだけで天上から舞い降りた感じを演出可能となる。実際、天上からは舞い降りているのだが。要するに転生者に神であるアピールをするのが第一なのだ。


「それでは行きましょう、四条さん! まずは田中さんの部屋に【どこでも天使のはしご】を起動して光を差し込ませてから、一緒に転移します。その直後に【羽ばたきの名残】を使用して、白い羽根をブワッと舞わせたら完璧な登場でしょう!」


 イスタルテの手にはもう一つの異世界サポセン商品が。鳥が何羽同時に飛び立てばこんなに羽根が舞うの? くらいに派手さを演出するアイテム。なお、その羽根は片付けが不要で、1分程すれば自然と消える設定にも出来る。勿論、消さないのも使用者の自由。


「イスタルテさんはそれでいいのですが、私は似つかわしくないのでは? その登場シーン」


 女神と共に、何のエフェクトも無く現れるサラリーマン。四条が田中の立場なら、イスタルテよりもそちらが気になりそうだ。


「良いんですよ、その辺の細かいところは。それよりも、早く剣を届けてあげませんとっ! 田中さんの心労を1秒でも早く解消してさしあげたいので」


 ならば、登場アイテムなど探さずにちゃっちゃと渡しに行けば良かったのでは。四条はイスタルテの思考がよくわからないが、おくびもださず再度伝説の剣を担ぎスタンバイした。


 ◇


「こんなペースでは、いつまでも日本に帰れないぞ。どうすれば良い……」


 王城の一室。エイリーンの計らいにより、田中は王族並みの扱いで城に滞在していた。転生直後。戦いの経験など無いと語った少年が、すぐさまレベル20程度の実力を見せた事は広く兵士達にも知られている。類稀なセンス、才能を持っていると貴族達に思い込まれた田中としては、それがアイテム由来である為少々気まずい。


「帰るどころか。このままじゃ、いずれ王女や貴族に見限られるかもしれないしな」


 アイテムによってレベル20程の能力になっている田中は、現在そこで頭打ち状態。どれだけ訓練しても、剣の性能以上の実力を身につけられずにいた。これについては田中が弱いのでは無く、そもそもレベル20というのが現地人にとってはかなりの熟練者だけが立てる領域なのだ。才能、努力、財力、全てを備えた貴族であっても、全盛期にレベル20もあれば良い方……というパターンもある。大器晩成では無く、単なる早熟。そう判断されてしまえば、魔族との小競り合いで日々消耗する王国にとって、田中を特別待遇しておく余裕は無い。


「くそっ……。焦っちゃダメだけど、ここでお城を追い出されたら日本に帰るって目標も遠ざかるぞ」


 異世界転生後も、日課として田中は野球のトレーニングをこなしている。日本に帰れても、感覚を忘れていてはプロ入り後思うような活躍が出来ないかもしれない。ボールやバット、グローブは存在しない為、出来ることは基礎練習ぐらいのものだが。柔軟運動をし、肩の可動域を念入りにチェックしていた時だった。


 夜だというのに、室内だというのに。唐突に空から漏れる太陽光が田中を照らした。


「なんだ!?」


 魔族による攻撃か。


 運動部として、機敏な動きで転生特典の剣を握る。これで、相手がレベル20ほどなら応戦可能だ。それよりも強い敵ならば、時間稼ぎに徹してエイリーンの到着を待つ。あわよくば隙を見て逃げる。頭の中で必死に最善の行動をシミュレートした田中は、とにかく先手必勝を狙う事に。


 天使のはしごに照らされながら姿を現した人影に、精一杯の無駄のない動きで斬りかかった。


「お久しぶりですね、田中さ……んっ!!?」


 慈愛に満ちた女神の微笑み。イスタルテの失敗は、転移中に目を閉じてお淑やかさを演出した事だ。そして、光の中から登場するのも悪手。夜の暗さに目が慣れていた田中からは、光がイスタルテを包んでしまい謎のシルエットにしか見えず。イスタルテが穏やかに微笑んでゆっくりと目を開いた時点では既に、田中の剣が首元にまで迫っていた。


「ひえっ……!!」


 ガードしようにも、手ぶらで来たイスタルテにはその手段は無く。レベル20の攻撃が自分に効かない事を祈りながら反射的に目を瞑る。


(敵じゃないっ……!?)


 名前を呼ばれた時点で剣を止めようとする田中も、渾身のフルスイングは確実に女神に到達してしまう。すんでのところで。


「【透盾:β】」


 ガキィィン!!! と、金属と金属がぶつかり合う音と共に、四条の右腕が田中の剣を受け止めた。三ツ橋愛用の防御アイテムを、自身の前腕を覆うように器用に展開して。


「よ、四条……さん! ありがとう、ございますぅ」


 イスタルテが命拾いを認識した瞬間。場違いにも純白の羽根がブワッと室内に撒き散らされた。時間差で起動するようにセットしていたようだ。


「女神様と……この間、王女様と親しげに話していた日本人?」


 田中視点では四条が素手で剣を受け止めたように見え、同じ日本人だと認識するも警戒は続ける。


「覚えていてくださったのですね。……では、そろそろ剣を下げて頂いてもよろしいですか?」


 未だ、金属音を奏でながらせめぎ合う剣と四条の腕。


「あ! あぁ、すみません」


 怪しい日本人の登場に、田中はつい剣を下ろし忘れてしまっていた。見るからに歳上の、スーツ姿のサラリーマン。イスタルテと一緒に現れた事から、もしかすると自分と同じ転生者か? と田中は考える。年功序列が叩き込まれた野球部員として、目上の人間には従う癖が身についていた。剣を下げ、無礼を謝罪する為に頭も下げる。


「イスタルテ様の演出が田中様を動揺させてしまったみたいですし、謝罪は不要ですよ」

「なんか、すみませんでした……」


 日頃から魔族の襲撃に神経を張り巡らせていた田中。あの登場では誤解しても仕方がない。むしろ本当に敵襲だったならば、あの行動をしなくては命を落としていただろう。

 念入りに準備した登場が大失敗し、イスタルテは瞳の輝きを濁らせる。


「それで、スーツの貴方はどちら様ですか?」


 今の田中にとって最も気になるのは四条の素性だ。もしかすると日本に帰してくれる存在なのかと、どうしても期待してしまう。


「申遅れました。私は異世界サポートセンターの四条といいます」


 お決まりの、名刺を差し出しながらの挨拶。


「異世界、サポート……ですか」


 名刺を受け取り、表と裏を交互に見る田中。

 四条は伝説の剣を置き、イスタルテを横目で見た。ショックから立ち直った女神は、なんとか女神らしさを挽回するべく大袈裟に両手を広げた。


「お久しぶりですね、田中様」


 意図して良い声を出すイスタルテに、日本人二人は今更無理では? そのテンション。とややしらけ気味。


「間違って斬りかかってしまいすみませんでした。お久しぶりです、イスタルテ様。それで、改めてですけどなんのご用でしょうか?」

「元々、田中様の転生時にお渡しする予定だった剣を持って参りました」


 イスタルテが広げた両手を頭上に掲げると、またも光が差し込み、剣が現れる。


 わざわざ段ボール箱の中から空中へと【伝説の剣】をワープさせ、イスタルテは「今剣を召喚しましたよー」といった空気を作った。これについては、ここで梱包をバリバリと剥がすよりは良いかなと四条も納得する。


 田中は呆けた顔で剣を数秒見つめてから。


「マジですか! ありがとうございます! これで、魔族を簡単に倒して日本に帰れますか?」


 ハイテンションになった田中が女神に差し出された剣を握る。途端、身体中に力が漲り、今ならば魔王でもなんでも倒せそうだという気になった。レベル20からレベル80への急激な変化。彼からすれば、さっきまでの肉体は鉄の甲冑を着て水中を歩くくらいの鈍さに思えるだろう。


「この剣があれば、こんな世界は秒で平和に出来ますよっ! そしたら、帰って良いんですよね!? ばあちゃんに会えますよね!!」


 イスタルテは答えず、微笑むのみ。否定も肯定もせず。ただ、このタイミングで微笑まれたら大抵の人間は肯定と受け取る、そんな表情だった。現に田中も帰れると勘違いしたらしく


「やった、やった……!もう少し待っててね、ばあちゃん」


 と、やや涙目で拳を握る。祖母との再会、彼を動かす原動力を失わせては、田中が魔族と戦ってくれる可能性も低くなる。イスタルテの対応は非常にいやらしいラインだった。

 異世界サポートセンターとしては、イスタルテの世界を平和にするのがお仕事。ここで田中に「帰れませんよ、日本には」と伝えるには、四条は社会人経験を積み過ぎてしまっていた。

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