沖田、敗れたり
「総司、その額の、コブは何だ」
近藤勇が、思わず尋ねた。
土方も、じっと見る。
「は、は、は」
と、少し笑ってから、
「一本、取られちゃいました」
と、沖田言った。
「稽古、でか」
土方の顔色が少し変わっている。
「いえ、屯所の前の通り、です」
「もっと、良くないな」
近藤も苦虫を噛み潰している。
「相手は、何処の者だ」
土方が尋ねる。
「分かりません」
「浪人者か」
「いえ」
「刀では、なかったんだな」
「それが…」
「何だ」
「竹の棒なんです」
近藤と土方は、顔を見合わせた。
「竹の棒を腰に差していたんですよ」
「子供なんですよ」
「チャンバラをやりたいって、言うから、相手をしてやったんです」
近藤が笑い出した。
土方は、またか、という顔をした。
「でもね」
沖田は、珍しく真面目になった。
それで、二人も笑うのは、止めた。
「ほんとうに、強いんですよ」
「どういうことだ」
「いや、強いんですよ、真面目に」
二人は、また、顔を見合わせた。
「だから、突きを入れてやったんですよ」
「そしたら、天狗飛びきり、みたいに飛び上がって」
「面を打たれちゃったんですよ」
沖田は、コブをさすっている。
「三段突きを入れてやれば、良かった。子供だと思ったから」
「失敗したなあ」
沖田は、立ち上がる。
「おい、待て。そいつの名前は聞かなかったか」
「たけぞう」
と、言ってました。
「たけぞう、それだけか」
近藤は、つまらなそうな顔をしたが、土方は、少し、はっとした様になった。
「どうせ、また、来るでしょう」
沖田が言った。




