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異世界交差

 ――視界が反転し、四人は光の奔流から叩き落とされるように地へ降り立った。

 そこは、見慣れた渋谷のスクランブル交差点に酷似していた。煌びやかな広告塔、ネオンの光、四方から押し寄せる人波――。

 一瞬、元の世界に戻ったのかと錯覚する。懐かしいようで、同時にどこか作り物めいた光景に思えた。


 だがすぐに違和感が背筋を刺した。

 通行人の姿はあまりに異質だった。

 獣人が耳を押さえながらスマホで通話し、背に翼を持つ亜人が空を飛び越え、角の生えた亜人が屋台袋を下げて信号待ちをしている。鉱石のような皮膚を持つ者や、眼球が縦に裂けた異形までもが混ざり、誰もが当たり前のように雑踏を歩いていた。


 車道を走るのも金属の車ではない。心臓のように脈打つ光を宿した浮遊車が滑るように走り抜け、車体の下からは淡い光が尾を引き、空気を震わせる唸りを響かせていた。


 街の喧噪は渋谷よりもさらに濃く、濁り、耳を裂くほどに荒々しい。

 ネオンは魔術と電脳が溶け合った奇妙な文字列を踊らせ、看板は見知らぬ言語でぎっしりと埋め尽くされていた。建物の壁面には生き物のように蠢く紋様が刻まれ、時折光を放っては空気を震わせる。

 湿った熱気が肌にまとわりつき、酸味と鉄錆を混ぜたような匂いが鼻を突く。目に映るすべてが現実でありながら、感覚の奥では「何かがずれている」と告げていた。


 人も車も建物も――渋谷とよく似ていながら、決定的に違っている。

 その不気味な既視感に、四人は思わず立ち尽くした。


 その刹那、視界の端から浮遊車が突っ込んできた。

 猛スピードで迫る異形の車体が、交差点の中央に立つ彼らを容赦なく轢き潰そうとしていた。


「……っと、危ねぇな」

 飾折が舌打ちし、拳を軽く振り抜く。次の瞬間、車体は衝撃に弾け飛び、煙を上げて回転しながら路肩に叩きつけられた。光の破片が火花を散らし、群衆は阿鼻叫喚で四散。逃げ惑う者もいれば、遠巻きに指を差して「異物だ」と囁く者もいる。交差点は一瞬にして騒然となった。


 白矢たちは思わず息を呑んだ。

「……なに今の。みやちゃん、前からイカれてたけど、さすがにあんな派手に吹っ飛ばすのは初めて見たなぁ」

 白矢は驚きを押し隠すように笑みを浮かべる。


 清太郎も目を丸くし、肩をすくめた。

「車が紙みてぇに砕けたぞ……。お前、もう人間兵器だな」


 獬崎は静かに頷き、艶やかな声で呟く。

「なるほど。力の定義そのものが塗り替えられた……そういうことですわね」


 当の飾折は拳を見下ろし、獰猛な笑みを浮かべる。

「ははっ! 最高だな……殴った感触が、前とまるで違ぇ。骨の奥まで痺れるみてぇで……気持ちよすぎる!」


「……おーおー、盛大にやらかしたなぁ」

 白矢は片手をひらひらと振りながら皮肉を漏らす。

「みやちゃん、ライブパフォーマンスは後でいいんだなよ? 注目度MAXだよ、これ」


「壊せるもんが突っ込んできたら、殴るしかねぇだろ!」

 飾折は悪びれる様子もなく、拳を軽く振り直してみせた。


 清太郎は頭をかき、苦笑を浮かべる。

「目立ちすぎだろ。……さっさとズラかった方がいい」


「……確かに。神を名乗るなら、舞台は選ばねばなりませんもの」

 獬崎が淡々と付け加えると、白矢は肩をすくめて笑った。


「はいはい、決まり。全員、撤収!」


 四人は群衆の怒号と好奇の視線を背に、軽口を交わしながら雑踏の中へと駆け出した。

 すれ違う通行人は彼らを指さし、怯えや困惑の混じった声を上げている。まるで「異物」が紛れ込んだとでも言うように。


 しばらく逃げてようやく歩調を緩めると、街の喧噪が改めて耳に入り込んでくる。

 頭上では浮遊車が空道をすり抜け、路地裏からは奇妙な獣の鳴き声が響く。屋台には触手を揺らす料理や、青白く光る飲み物が並び、見慣れぬ匂いが鼻を刺した。


「……ふぅ、派手に目立っちゃったね」

 白矢は額の汗を指で拭い、にやりと笑う。

「拍手より怒鳴り声の方が大きかった気がするんだけど、気のせい?」


「別にいいだろ。壊した感触、まだ拳に残ってんだ……最高だな」

 飾折は拳を握り直し、獰猛な笑みを浮かべた。


「にしても……空気が重いな。けど悪くねぇ。体ん中が熱くなる感じだ」

 清太郎は肩を回し、深呼吸をひとつ。


「ふふ……異形が闊歩し、奇妙な術が飛び交うこの雑踏。まるで私のために整えられた舞台のようですわ」

 獬崎はゆったりと人混みを見渡し、余裕を滲ませた。


「はいはい、かいちゃんがご満悦なら上出来だね〜。……で、お腹の方は? この騒ぎの後には腹ごしらえ必須でしょ?」

 白矢が肩をすくめて言うと、飾折が待ってましたとばかりに声を上げる。


「おう! メシか美味そうなメシかあるなら今すぐ食うぞ!肉が食いたい!」


 四人は肩を並べ、異世界の喧噪の中へと歩き出した。

 光と音と匂いの洪水は、まるで彼らを歓迎するかのように押し寄せていた。

 

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