裂け目の警告
轟音と閃光が交差点を覆い尽くした。
群衆は悲鳴を上げながら四方へ逃げ散り、残されたのは散乱した荷物と転がるスマホ、割れたガラス片ばかり。数分前まで人で溢れていたスクランブル交差点は、まるで息を止められたかのように静まり返っていた。
白矢たちは交差点の端、横断歩道の前に立ち尽くしていた。
視線の先、交差点の真ん中には裂け目が口を開け、そこから白光と唸りを放っている。
「……行くか」
清太郎が先に足を踏み出す。飾折も続き、獬崎はわずかにためらいながら歩を進めた。白矢はにやにや笑いながらその背を追う。
だが、数歩進んだところで空気が変わった。
胸を圧迫するような重苦しさがのしかかり、足取りが妙に鈍る。皮膚の裏側がざわざわと痺れ、心臓の鼓動が不自然に乱れ始めた。
「っ……な、なんだよこれ……!」
飾折が顔をしかめ、腕を振るっても空気の壁に弾かれるように進めない。
清太郎も歯を食いしばりながらさらに踏み込む。しかし、その瞬間——
――警告。システム外の存在を検知。
――進入を拒否します。
耳の奥に直接叩きつけられるような声が轟いた。
圧力が一気に増し、清太郎は足を止めざるを得なくなる。
「ちっ、やっぱ押し返されやがる……!」
さらに飾折が裂け目へ駆け寄ろうとした。だが、目に見えぬ波が地面を這い上がり、彼女の足を押し戻す。
――エラー。整合性が保てません。
――修復を開始します。
機械的な響きが交差点全体に広がり、ガラス窓がびりびりと震えた。
「……拒絶、ですか」
獬崎は胸に手を当て、結界の前に立つ聖職者のように囁いた。
「まるで神域を荒らすなと告げているかのよう……近づくたびに裁きが下される」
白矢は冷たい風に頬を撫でられながら、痺れる感覚を楽しむように目を細めた。裂け目に近づこうとするほど、警告とエラーの声が重なり、拒絶の力が増していく。
「……見たかよ」
飾折は息を荒げ、震える手で裂け目を指差した。
「これだ、これだよ! ずっと探してたのは!」
「ふんっ……! 最高じゃねぇか!」
清太郎は豪快に笑い、端に散乱したガラス片を踏み鳴らす。
「……やはり導かれているのですね」
獬崎は目を閉じ、祈りを捧げるように呟いた。
白矢の目には、裂け目から噴き出す光が焼き付いていた。
それはただの閃光ではない。形を持たぬ白光の奥から、幾何学的な紋様が次々と浮かび上がり、空間を縫うように広がっていく。視界に入れるだけで脳に直接刻まれるような感覚。
その圧力のただ中で、再び声が轟いた。
――警告。警告。システム外の存在を検知。
――整合性に重大なエラー発生。修復を開始します。
荘厳で機械的な響きが、世界そのものから鳴り響く。
交差点に残された広告ビジョンが一斉に乱れ、ノイズ混じりの映像が同じ警告文を映し出した。
あまりの異常さに、三人は思わず息を呑む。
……ただ一人、白矢を除いて。
彼は静かな沈黙を一瞬だけ味わい、次いで吹き出した。
「あはははは!! なにこれ、公式バグ認定!? ぼくら特典付きプレイヤーじゃん!」
緊張で固まっていた空気が、白矢の爆笑によって一気に崩れる。
飾折が「バカかお前!」と叫び、清太郎が腹を抱えて笑い、獬崎でさえ唇を噛んで笑いを堪えきれない。
その勢いのまま、四人は顔を見合わせ、一歩、また一歩と強引に足を踏み込んだ。拒絶の圧力に抗い、裂け目へと身体を押し入れる。
――エラー拡大。整合性の修復不能。
――安全のため、対象ごと遮断します。
瞬間、白光が爆ぜた。
裂け目は大きく震え、白矢たちを飲み込むように閉じられた。
次の瞬間には、交差点はただの交差点に戻っていた。
割れたガラスや散乱した荷物は残っているのに、人々の記憶からは「裂け目」の存在だけが抜き取られている。
——世界は、彼らと裂け目の記憶を同時に消し去ったのだ。
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