スクランブルの彼方で
「いや〜人多すぎて大変だな。肩ぶつけられすぎて数え切れねぇ」
清太郎が頭をかきながら合流する。押し寄せる群衆に揉まれても一歩も揺るがず、逆にぶつかった相手がよろけてよけていくほどだった。まるで交差点の真ん中に立つ“動かぬ壁”のように、堂々と歩いてくる。
「……やはりここでしたか」
最後に現れたのは獬崎だった。群衆の中でも一人だけ場違いなほど静かで、まるで儀式に臨む聖職者のような足取り。人々は視線を向けながらも、すぐに目を逸らして自然と距離を取る。結果として彼女の周囲だけがぽっかりと空白になり、街のざわめきから切り離された異質さを放っていた。
四人が揃った瞬間、街の喧騒に紛れていた違和感が輪郭を持ち始めた。
「……なぁ、本当に何か来るんだろうな?」
飾折が苛立ちを隠さず問う。
「まだ始まってないんじゃなくて、“始まる直前”なんだよ」
白矢は自信ありげに笑った。
信号が赤から青へと切り替わり、数百人の群衆が一斉に歩き出す。人波と人波が中央で交差し、スクランブル交差点特有の秩序なき秩序が形作られる。すれ違いざまに肩がぶつかり、誰かのスマホが弾かれて地面に落ち、音楽プレーヤーのイヤホンが宙を舞う。日常のざらついた雑音が、都会の心臓部を脈打たせていた。
——だが、その只中に。
地面が低く唸るように鳴った。
電柱の街灯がかすかに震え、頭上の大型ビジョンが一瞬ノイズを走らせる。鳩の群れが屋上から飛び立ち、羽音がざわめきの上にかぶさった。
耳障りな音とともに、アスファルトの真ん中に細いひびが走る。最初は誰も気づかずに通り過ぎた。だがひびは鼓動のように広がり、街の床を軋ませ、ガラス窓を震わせた。
誰かが悲鳴を上げ、別の誰かは足を止めて裂け目を指差す。笑い声が途切れ、交差点を満たしていたざわめきが急速にしぼんでいく。
次の瞬間、蜘蛛の巣状に広がる裂け目から白光が噴き出した。
轟音が街を揺らし、群衆は雪崩のように押し合いながら逃げ惑う。
スマホが次々と落ちて床に砕け、買い物袋の中身が散乱し、横転した自転車が地面を滑っていく。
——日常は、唐突に壊れた。
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