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空白の夜明け

「うーん、伝えるのが難しいんだけど……みやちゃん、最近思いっきり暴れられてる?」


白矢は少し考え込んでから、探るような調子で問いかけた。


「あ、暴れられてるに決まってるだろ……!」

飾折は即座に答えるものの、あからさまに視線を泳がせる。


「……やっぱりねぇ。そうだよねー、みやちゃん隠さなくていいよ。多分ぼくも同じこと——ていうか、みんな同じこと思ってるから」


白矢の軽口に、一同はそれぞれ心当たりがあって黙り込んだ。


「……あーそうだよ! 最近、敵が弱ぇんだよ! 暴れても骨のある奴なんてこれっぽっちもいねぇ! すぐ終わっちまう!」

飾折はついに吐き出す。声には、力を持て余した不満が滲んでいた。


「そういや最近すぐ片付くから、俺のところに敵がほとんど来ねぇな。今日は珍しいぐらいだ」

清太郎は頭をかきながら笑ってみせるが、その言葉にはどこか虚しさが混じる。


「喧嘩は分かりませんが……私の出番も、さきほどのイレギュラーがなければ、しばらく無かったでしょうね」

獬崎も静かに同意した。


いつの間にか空気は重くなり、皆が同じ違和感を共有しているのがはっきりした。


「さっきの警官は、ぼくらが暴れすぎたせいだよ」

白矢が肩をすくめる。

「ヤクザもカルトも片っ端から潰したせいで治安が良くなった。暇になった警察は人員を余らせて、今度は“ぼくら”を探す側に回った。多分そういうこと」


「……へぇ。つまり敵がいなくなったのも、警官が来るのも、俺らのせいってことか?」

清太郎が顎をさすりながら言う。その口調は豪快だが、どこか空虚さを含んでいた。敵が減ったという事実は、彼にとって“守るべき場”の喪失でもあったのだ。


「ふんっ! どうでもいい! 追っ手でもなんでもいいから、もっと強いのを連れてこい! 私が全部ぶっ倒す!!」

飾折はファミチキの紙袋を握りつぶし、戦いを求めるようにニヤリと笑った。


「ま、考えても仕方ないし」

白矢は無理に明るく笑ってみせる。その笑顔は、ほんの一瞬だけ翳りを帯びていた。

「プラスに考えれば“ぼくらは最強”ってことだから! ——ぼくの方でも、何か無いか探してみるよ。ほら、そろそろ日が昇る。帰ろう」


その声に従い、四人は自然と解散した。空はすでに白み始め、明け方の冷たい風が繁華街の紙くずを転がしていく。誰もが疲れと物足りなさを滲ませ、足取りはどこか重かった。


だがその頃――。

彼らの視界の外、遠く離れた世界の各地で、まったく別の異変が密かに進行していた。


駅や空港、繁華街、イベント会場……人々が集うあらゆる場所で、空間がまるでガラスのようにひび割れ始める。蜘蛛の巣状に伸びた裂け目は鼓動するように脈打ち、やがて砕け、奥には何も映さぬ白光だけが広がった。


光景を目にした人々は恐怖に駆られ、悲鳴と混乱の中で押し合い、転倒し、車両や設備は連鎖的に衝突事故を起こす。けれど、その惨状も長くは続かない。


裂け目は数分も経たずに——見えざる手に飲み込まれるように——静かに閉じ、跡形もなく消え去った。同時に、その場にいた者たちの記憶からも、ひび割れの光景だけがそっと抜き取られていく。


ただし、事故と破壊の爪痕だけは確かに残った。理由を知らぬまま世界各地で不可解な事件として報じられ、人々は説明のつかない不安を抱え始める。


——その時、白矢たちはまだ何も知らずにいた。

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