狂気に咲く友情
パトカーの赤色灯が遠くに消え、静けさが戻った。
獬崎は微笑を浮かべると、くるりと振り返り、頭の上で両腕を丸くしてかわいらしくポーズを取る。
その合図に応じるように――
「ぴょこっ」と商品棚の影から飾折の頭が飛び出し、
「ぴょこっ」と清太郎が商品棚の上から顔を出し、
最後にと白矢が横から「ぴょこっ」と顔を覗かせた。
店内から三人の顔が並んだ光景は、まるで子どものかくれんぼのようで、妙に滑稽だった。
獬崎はさらに笑みを深め、指先で軽く手招きをする。
「もう大丈夫ですよ。神の導きは、あなた方を見事に覆い隠しました」
「相変わらず便利なお香だよなぁ」
清太郎が肩をすくめて息を吐く。
「いいなぁ! 私もその草欲しい! イロー、私にもくれよー」
飾折が獬崎にねだる。
「いやぁ〜、やめといた方がいいよー? あのお香は効力が強すぎて、長時間吸ってると普通に頭ぶっ壊れるからね。しかもその草は、かいちゃんが所属してた教会にしかなかったんだよ。そこもみやちゃんが壊滅させちゃったから、もうどこにもないの。覚えてないのー?」
「あー、全員らりってて全然歯ごたえのなかったとこかぁ……じゃあいらねぇや」
獬崎は苦笑しながら小さく頷いた。
「……ちなみに私は耐性がありますので、影響はほとんど受けません。神の務めとして扱ううちに、自然と慣れてしまったのでしょうね」
「へぇ〜、さすが神様。普通ならぶっ壊れるのにねー」
白矢が軽口を叩きながら肩をすくめ、にやりと笑う。
そして、唐突に空気を切り裂くように問いを投げた。
「でもさ、その“歯ごたえのなかった”中に、かいちゃんのお母さんもいたんでしょ?」
――一瞬、時が止まる。
だが次の瞬間、獬崎が大きく笑い声をあげた。
「あーはっはっはっは! それ、あなたが言います? いいんですよ。母や教会より、私はあなたたちと友でありたかった。もちろん、今となっては清太郎も友ですよ?」
その声は異様に明るく響き、涙を滲ませながらも笑う姿は、常人には到底理解できない狂気の輝きを帯びていた。
白矢は腹を抱えて転げ回り、涙を浮かべて笑った。
飾折も大口を開けて笑い出し、場の空気は一気に軽くなる。
経緯を詳しく知らない清太郎だけが、複雑な顔でため息をつきながらも、どこか照れくさそうに口元を緩めていた。
「……お前ら、やっぱり狂ってるよなぁ」
そうぼやきながらも、その頬には小さな笑みが浮かんでいた。常識人のはずなのに、気づけば自分もこの輪の中に取り込まれている。
「それにしても、僕のナイス采配でしょ? “かいちゃんよろしく”って一言だけで完璧に動いてくれるなんて、ほんと頼れるわぁ」
白矢はまだケラケラと笑いながら、膝を叩いて楽しげに声を弾ませる。その軽薄な笑顔には、自分の采配を誇る悪戯っ子のような自信が浮かんでいた。
「……ですが、珍しいですね」
獬崎は首をかしげながら、じっと白矢を見つめる。
「あなたが逃げ切った後に追っ手が来るなんて、普段はまずありませんのに。何か、特別なことでもあったのですか?」
「へぇ? 確かに妙だな。白矢のやり口なら、普通は尻尾も掴ませねぇのに」
清太郎が腕を組み、首を鳴らしながら低くつぶやく。
「ふんっ! どうでもいい! 追っ手でもなんでもいいから、もっと強いのを連れてこい! 私が全部ぶっ倒す!!」
飾折はファミチキの紙袋を握りつぶし、戦いを求めるようにニヤリと笑った。
白矢は一瞬、笑みを残したまま目を細め、考え込むように黙り込んだ。
人差し指で頬を軽くとんとんと叩きながら、「さて、どう言おうかな」とでも言いたげな仕草を見せる。
その横顔は、いつものヘラヘラした軽さの奥に、ほんの一瞬の影を宿していた。
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