尋問
路地裏の暗がり。
縛り上げられたチンピラを前に、四人とラグナは少し距離をとっていた。
白矢がへらへら笑いながら問いかける。
「ねぇラグナさん。“紅蓮会”って結局なに? ラグナさんがボスってことは分かるけど、ただのチームってわけでもなさそうじゃん」
ラグナは腕を組み、短く息を吐く。
「……紅蓮会は組織の名であり、この街を抑える“枷”そのものだ。縄張りでは無いが中心街から港、駅、物流の要まで俺たちが管理と監視してきた。だから他の連中も無用な抗争は仕掛けなかった。均衡を保つための防波堤……それが紅蓮会だ」
清太郎が低く唸る。
「防波堤、ね。そりゃ外様からすりゃ邪魔だろうな」
飾折が鼻を鳴らす。
「で、その防波堤を壊そうってのがグレイブスって組織か」
ラグナはゆっくり頷いた。
「……ああ。奴らはよそ者のくせに、この街を食い荒らそうとしている」
その言葉を聞いた途端、縛られたチンピラの顔がさらに青ざめた。
縄に締められた肩ががくがく震え、唇を噛みながら必死に視線を逸らす。
目は泳ぎ、汗が頬を伝い落ちる。
「ひ、ひぃっ……! お、俺たちはただ……! グレイブスの兄貴たちが、この街を好きに仕切るって……!」
飾折が無造作に拳を突き出し、壁にドンと叩きつける。
「ほら喋れ。今度は骨が折れるぞ」
涙目のチンピラは必死に言葉を吐き出した。
「だ、だって……紅蓮会が管理してるのは街の真ん中全部なんだ! 港も駅も物流も……手出しする奴はいなかった。けどグレイブスの連中は“紅蓮会の座を奪う”って……薬も女も、まとめて支配するって言ってたんだ!」
その瞬間、ラグナの赤い瞳が細くなる。声は低く静かだが、いつも以上に重い気配を帯びていた。
「……薬、だと。くだらねぇ。街を腐らせるだけの毒だ」
場の空気がひやりと冷たく沈む。
白矢は軽く肩をすくめ、再び問いを投げた。
「で、その“ボス”ってどんな奴?」
チンピラは震える声で答える。
「ボ、ボスの名前はヴァレン・クロス……“裂牙”って呼ばれてる。冷酷で計算高いのに衝動的にキレて殴ってきたり。とにかく怖ぇ……それに強い。……牙王の名は伊達じゃねぇ」
白矢がくすくす笑い、ラグナを振り返る。
「ラグナさんも知ってる?」
ラグナは低く短く答えた。
「……ああ。若いが、力は本物だ。暴力と威圧を武器に勢力を広げた成り上がりだ」
白矢は目を細め、にやりと笑う。
「冷酷で衝動的……典型的な成り上がりタイプだね」
その時、チンピラが思い出したように口走った。
「そ、それに……ボスが言ってたんだ……“あの龍はもう昔ほどじゃねぇ、古傷が残ってる”って……!」
空気が再び張り詰める。
ラグナは無言で目を細め、しばし沈黙。
「……なるほどな」
低い呟きには、苦みと怒りが混じっていた。
「俺の古傷を嗅ぎつけていたか」
沈黙を破ったのは、白矢の間延びした声だった。
「そういやさぁ。あのリーダーっぽいやつが撃ってきた火の玉、あれなんだったの? 爆竹? ライター? ……魔法?」
清太郎が腕を組んでうなり、飾折も首をひねる。
「火は出てたが……仕掛けには見えなかったな」
「俺も分かんねぇ。殴る以外の攻撃はだいたい怪しい」
獬崎は笑みを浮かべ、軽く肩をすくめる。
「聖火? 奇跡? それともただの花火かもしれませんよ」
怯えたチンピラが叫ぶ。
「ひ、火魔法っす……! 別にそんな珍しいもんじゃなくて、ただの火魔法っす!俺らは使えないんであいつが俺らのまとめ役みたいな扱いだったんす……俺ら凡人とは違うんすよ……!」
白矢は目を丸くし、次の瞬間に声を上げて笑った。
「ははっ、マジで魔法? なんか安っぽいゲームみたいで逆に笑える!」
ラグナが低く付け加える。
「……魔力さえあれば少し努力すれば使えるのが一般魔法だ使えるものは限られるがそこまで少ないものでもない」
白矢はひらひらと手を振りながら頷く。
「なんでもありだなこの街。まあ、こっちも人外じみてるし、おあいこでしょ」
そう言って笑った彼の瞳には、不気味な光が宿っていた。
飾折は吐き捨て、清太郎は顎を鳴らし、獬崎は手を合わせて余裕の笑みを浮かべる。
それぞれの言葉は違えど、意志はひとつ。
チンピラの悲鳴を背に、五人は路地裏を後にした。
その歩みに、決意の影が重く落ちていた。




