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均衡を壊す牙

 血と煙の残り香が、夜の路地裏にまだ漂っていた。

 リーダー格を叩き潰した直後、三人の心は荒ぶったまま鎮まらない。

 もっとも、あのダークエルフは幹部などではなく、あの場を仕切っていた程度の小頭にすぎない。だが放たれた魔法も、振るわれた殺気も、本物の脅威として十分だった。


「みやちゃん、殺すの早すぎ」

 白矢の声はふわりと軽く響いた。だがその軽さは薄紙のように脆く、言葉の裏では何かを必死に抑え込んでいるのが分かる。肩を小さく震わせ、指先で衣の端をぎゅっと握りしめる――その仕草だけで、まだ手を下したい衝動を抑えているのが伝わった。


 飾折はスーハーと深く息を吸い、吐き、拳をぎゅっと握り直す。胸の奥で渦巻く殺意を押し殺す作業が、呼吸とともに続いている。やがて、歯を食いしばったまま小さく漏らすように呟いた。

「……くそっ」


 その様子を見下ろすように獬崎が微笑んだ。まるで慰めるような、しかし刃のように冷たい声で――

「死ぬだけで済んで、よかったですわね」

 言葉は柔らかいが、その目は確かに獰猛だった。自分も手を下したくせに、慈悲の言葉をかけるふりをして、静かに殺意を向けている。


 三人の殺気が路地を満たしていく。

 その間に一歩前に出たのは、清太郎だった。


「……もう死んでる。これ以上は叩く相手もいねぇ」

 低く静かな声。冷徹な現実を突きつけるその声音の奥には、仲間がここまで暴れきったことへの誇らしさがわずかに滲んでいた。

 不死の肉体を持つ彼の言葉だからこそ、暴走を止めるだけの重みがあった。


 さらにラグナが低く唸るように言葉を継ぐ。

「……ここまでで十分だ。落とし前はつけた、これ以上は蛇足だ。頭冷やせ」

 数多の修羅場を見てきた声が、夜の熱を鎮めていく。


 三人はなおも荒く息を吐きながら――やがて。

 白矢は肩をすくめて幻影を解いた。口元は不満げに歪み、機嫌の悪さを隠そうともしない様子だった。

 飾折は拳を下ろし、わざとらしく鼻を鳴らす。

 獬崎は微笑を浮かべながらも、その瞳にはまだ鋭い光が残っていた。

「……ええ、けれど神の怒りは、まだ鎮まってはおりませんわ」


 しかし荒ぶった心はすぐには収まらない。

 白矢は息を整えつつ、影をわざと雑魚どもの足元に這わせて「次はお前らか?」とでも言うように威嚇する。

 飾折は壁を拳で叩き、石片を散らしながら低く唸り、まだ怒りが燻っているのを示した。

 獬崎は優美な笑みを浮かべたまま、足元から蔦を伸ばした。紫と緑が混じり合うような毒々しい色合いのそれは、うねりながら路地を這い上がり、チンピラたちを囲うようにそびえ立っていく。

「……同じようになりたくなければ、おとなしくしていきなさいませ」

 柔らかな声音に反して、その眼差しは冷たく、慈悲のかけらもなかった。


 三人の威圧に、残るチンピラたちはみるみる面色を失い、言葉を失って身体を震わせた。逃げ場所を探す目だけが泳ぎ、誰一人として声を出せない。


 だが、恐怖に駆られた数人が堪えきれず後ずさりし、そのまま路地の奥へ逃げ出そうとした。

 その瞬間、毒々しい蔦がさらに伸び上がり、逃げかけた者たちをまとめて絡め取る。四肢を縛り上げられたまま壁際に叩きつけられ、もがけばもがくほど棘が肉に食い込んだ。


「……逃げ場など、最初からございませんのに」

 獬崎は優美な笑みを浮かべながらそう告げる。慈悲なき声音に、囚われた雑魚どもは青ざめて震えあがった。


 縛り上げられた数人を路地の隅に並ばせると、場の空気は次第に落ち着きを取り戻していく。

 白矢は肩を竦め、ようやくいつもの軽い調子を取り戻した。

「さて……どいつから聞き出そうかね?」


 楽しげな声色が響いた途端、捕まった連中の一人が真っ先に悲鳴を上げた。

「グ、グレイブスの連中が……! 狙ってんのは紅蓮会じゃねぇ! 紅蓮会の会長――紅蓮龍ラグナ、あんた自身だ! あんたを潰しゃ、街の秩序も全部ひっくり返るってよ!」


 路地裏に沈黙が落ちた。

 ラグナは短く目を閉じ、そして低く吐き捨てるように呟いた。

「……やはり、そう来たか」

投稿ミスりすぎてわけわかんないぐらい投稿しなおしてる


ほんまごめんね

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